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第十三話 次回、テスト予告
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僕らの学生寮はアダルト科のあるF棟からすぐ近く、まるでビジネスホテルのような建物だった。ノートパソコンに内蔵されたIDでオートロックの入り口が開き、エレベーターもIDによって作動する。
何もかもがワンタッチなのは便利だけど、パソコンを失くしたら寮にも入れなくなるってことだね。僕は二度とパソコンを手放さないよ。
部屋の中はワンルームマンションのよう。全生徒に個室があてがわれていて、部屋にはバストイレから簡単なキッチンと寝室とクローゼット、それに最低限の家電や家具が揃っている。さっきロビーですれ違ったけど、すけたら君やイルカさん、それに団子騎士君も同じ寮だった。
「男女別とか、そういう配慮はないんだね」
「心配するな、イツキ。アタシは気にしない」
「いや、イルカさんがすごく嫌そうな顔をしてたけど」
――ワタクシがあんな団子騎士と同じ寮とか、後で文句を言ってやりますわ!
って息巻いてた。うん、気持ちは分かるけどね。ただ、言われた団子騎士君は、
――そうやって罵られると逆に萌えるんだな!
って興奮してた。うん、その感覚は修子に通じ合うかもしれない。変態的な意味で、ね。
ここの寮生活はとても快適だった。食事は寮食があるから自炊はしなくていいし、生活に必要な家具家電は揃ってる。
ただし、逆を言ってしまえば『それ以外は何もない』質素なものだった。学園の敷地外にはコンビニやアパレルショップ、レストランといった施設があるけれど、僕たちはこの世界の通貨を持っていない。例えば「プリンが食べたい」とか「新しい服が欲しい」と思っても、ベルがなければ何も買えないのだった。
「団子騎士君が言っていた『報酬がなければ一文無し』ってのは本当だね」
僕は大きなあくびをしてから、書きかけの記事を保存してパソコンを閉じた。
「欲しけりゃ自分で稼げってことだな」
修子は暇さえあればパソコンをカタカタといじり、ブログの更新をしている。おかげで『ノーパン仮面の変態ブログ』は順調にアクセス数を伸ばし、今では一日に百人ほどが訪れるサイトに成長していた。ブックマークという、要はお気に入り登録者もいるらしく、早くもブログとして『形になってきた』らしい。
しかし僕のブログはそうはいかなかった。
この学園に来てから二週間が過ぎたけれど、『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』はアクセスカウンターが未だに「二桁」。二週間で二桁だよ? これを報酬にすると、たったの数ベル。つまり数円しかないってこと。コンビニでプリンを買うどころか、駄菓子のひとつも買えないんじゃあ、モチベーションも上がらないよ。
まあ記事だって二つしか書けてないけどね。
「あ~あ、記事を書いてお金がもらえるのは分かってるんだけどさ。何時間も考えて書いたものが、たったの数ベルにしかならないって考えると悲しいよね」
「最初は誰でもそんなもんだ。アタシだって一日に数十ベルしか稼げてない。時給で考えたら負けだな」
放課後になると、修子はいつも僕の部屋にやってくる。僕の部屋に来て、黙々とパソコンを叩いている。授業以外の時間は自由だから、別に記事を書かなくてもいいんだけどさ。高校の頃は、放課後はコンビニで季節限定のアイスを食べたりゲーセンに行ったりしてたけど、今はお金がないから自分の部屋でパソコンをいじることしかできない。
僕は自分のベッドにゴロリと横になった。もう、今日は書く気力がないよ。
「そういえばイツキ、来月は定期試験だぞ」
「あ、それ。聞きたくない単語だなぁ」
天井を見上げて放心している僕に、修子が痛い現実を突きつける。学校ってのはどうしてこう、試験と名の付くものがあるのだろう。しかもここはWeblog専門学校だから、どうせブログに関する試験なんでしょ?
僕みたいにまともに記事を書けていない人間は、やる前から結果が見えているんだよね。
「心配するな、イツキ。ここの試験は問題を解いたり質問に答えるんじゃない。もっと単純で、もっと楽しそうだ」
「試験に楽しいとか楽しくないなんてないと思うよ」
僕は仰向けの姿勢から身体を半回転させて、枕に顔を埋めた。今は何を聞いても憂鬱だ。
「試験は『試験場』で行なう。教師が立ち会い、生徒同士のバーチャルバトルとする」
文章を読み上げて、僕に聞かせる修子の声。どうやら学園通信を見ているらしい。そういえば、一斉メールが来てたっけ。
「アクセス数や応援ポイントをパラメーターに換算し、各々のバズリティーで一対一の仮想バトルを行なう――って書いてあるぞ」
アクセス数と応援ポイントをパラメーターに換算する? バズリティーで仮想バトル?
『バズリティー』ってのがよく分からないけど、なんだかゲームみたいだね。パソコンを使って対戦型ゲームでもやろうってのかな。
何もかもがワンタッチなのは便利だけど、パソコンを失くしたら寮にも入れなくなるってことだね。僕は二度とパソコンを手放さないよ。
部屋の中はワンルームマンションのよう。全生徒に個室があてがわれていて、部屋にはバストイレから簡単なキッチンと寝室とクローゼット、それに最低限の家電や家具が揃っている。さっきロビーですれ違ったけど、すけたら君やイルカさん、それに団子騎士君も同じ寮だった。
「男女別とか、そういう配慮はないんだね」
「心配するな、イツキ。アタシは気にしない」
「いや、イルカさんがすごく嫌そうな顔をしてたけど」
――ワタクシがあんな団子騎士と同じ寮とか、後で文句を言ってやりますわ!
って息巻いてた。うん、気持ちは分かるけどね。ただ、言われた団子騎士君は、
――そうやって罵られると逆に萌えるんだな!
って興奮してた。うん、その感覚は修子に通じ合うかもしれない。変態的な意味で、ね。
ここの寮生活はとても快適だった。食事は寮食があるから自炊はしなくていいし、生活に必要な家具家電は揃ってる。
ただし、逆を言ってしまえば『それ以外は何もない』質素なものだった。学園の敷地外にはコンビニやアパレルショップ、レストランといった施設があるけれど、僕たちはこの世界の通貨を持っていない。例えば「プリンが食べたい」とか「新しい服が欲しい」と思っても、ベルがなければ何も買えないのだった。
「団子騎士君が言っていた『報酬がなければ一文無し』ってのは本当だね」
僕は大きなあくびをしてから、書きかけの記事を保存してパソコンを閉じた。
「欲しけりゃ自分で稼げってことだな」
修子は暇さえあればパソコンをカタカタといじり、ブログの更新をしている。おかげで『ノーパン仮面の変態ブログ』は順調にアクセス数を伸ばし、今では一日に百人ほどが訪れるサイトに成長していた。ブックマークという、要はお気に入り登録者もいるらしく、早くもブログとして『形になってきた』らしい。
しかし僕のブログはそうはいかなかった。
この学園に来てから二週間が過ぎたけれど、『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』はアクセスカウンターが未だに「二桁」。二週間で二桁だよ? これを報酬にすると、たったの数ベル。つまり数円しかないってこと。コンビニでプリンを買うどころか、駄菓子のひとつも買えないんじゃあ、モチベーションも上がらないよ。
まあ記事だって二つしか書けてないけどね。
「あ~あ、記事を書いてお金がもらえるのは分かってるんだけどさ。何時間も考えて書いたものが、たったの数ベルにしかならないって考えると悲しいよね」
「最初は誰でもそんなもんだ。アタシだって一日に数十ベルしか稼げてない。時給で考えたら負けだな」
放課後になると、修子はいつも僕の部屋にやってくる。僕の部屋に来て、黙々とパソコンを叩いている。授業以外の時間は自由だから、別に記事を書かなくてもいいんだけどさ。高校の頃は、放課後はコンビニで季節限定のアイスを食べたりゲーセンに行ったりしてたけど、今はお金がないから自分の部屋でパソコンをいじることしかできない。
僕は自分のベッドにゴロリと横になった。もう、今日は書く気力がないよ。
「そういえばイツキ、来月は定期試験だぞ」
「あ、それ。聞きたくない単語だなぁ」
天井を見上げて放心している僕に、修子が痛い現実を突きつける。学校ってのはどうしてこう、試験と名の付くものがあるのだろう。しかもここはWeblog専門学校だから、どうせブログに関する試験なんでしょ?
僕みたいにまともに記事を書けていない人間は、やる前から結果が見えているんだよね。
「心配するな、イツキ。ここの試験は問題を解いたり質問に答えるんじゃない。もっと単純で、もっと楽しそうだ」
「試験に楽しいとか楽しくないなんてないと思うよ」
僕は仰向けの姿勢から身体を半回転させて、枕に顔を埋めた。今は何を聞いても憂鬱だ。
「試験は『試験場』で行なう。教師が立ち会い、生徒同士のバーチャルバトルとする」
文章を読み上げて、僕に聞かせる修子の声。どうやら学園通信を見ているらしい。そういえば、一斉メールが来てたっけ。
「アクセス数や応援ポイントをパラメーターに換算し、各々のバズリティーで一対一の仮想バトルを行なう――って書いてあるぞ」
アクセス数と応援ポイントをパラメーターに換算する? バズリティーで仮想バトル?
『バズリティー』ってのがよく分からないけど、なんだかゲームみたいだね。パソコンを使って対戦型ゲームでもやろうってのかな。
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