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第一話 変態少女と、転生失敗した僕
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「準備はいいか?」
と、キツネのお面を被った少女が僕に言った。
「いや、ちょっと待って……」
「時間がないぞ」
「そんなこと言われても、僕はまだ心の準備が出来てな……って、ああっ! もう押したの!?」
「もう押した」
僕の隣にいる少女――仮面修子は、事も無げにパソコンのマウスをクリックしていた。
『受信完了、申し込みを受け付けました』
モニターに映し出された文字は、僕たちが異世界に転生する物語の始まりを告げている。
異世界転生――つまり僕は、この現実世界と決別して、違う世界で特別な能力を持って活躍していくんだ。
「イツキ、何を言ってるんだ? これは『異世界に転生する物語』じゃないぞ」
「ええ!? 違うの? じゃあ僕らがこれから行くのは、異世界じゃなくて……」
「学校だ。Weblog専門学校、白雪学園」
「学校!? やっと高校を卒業したのに、また学校に行くの? そんなの聞いてないって!」
「今、言った」
うわぁぁぁっ! 騙されたーー!
てっきり異世界転生する物語だと思ってたのに、学園モノなんて嫌だよ。僕は勉強が大嫌いなんだ!
中止、中止! このお話中止!
今すぐ中断! 取り消し、解約、解消、解除、解放! 破棄して! 白紙に戻して! キャンセルして! リリースして! クーリングオフしてーー!
「もう遅い」
と言って修子はキツネのお面を顔の横にズラした。白顔のお面の中から、その素顔が見えてくる。
瞳は燃えるような赤色で、透き通るような肌、童顔ながら整った顔立ち。サラサラの髪の毛は漆のように美しい黒色で、あごの先までスっと伸びている。
ここまでは普通に可愛い少女なのだが、妙ちくりんなのは頭にキツネのお面を付けているところ。縁日で売っているようなおもちゃのお面を、横向きに引っ掛けている。
で、着ているのは高校時代のセーラー服っていう、ちょっと変わった恰好だ。
「そんなジロジロ見るな。興奮して脱ぎたくなるじゃないか」
「どうして今そんなセリフが出て来る?」
「にししっ、アタシは変態だからな」
そう……仮面修子は名前も見た目も珍妙だが、そんなことより何よりも、コイツは重度の変態なのだ。
変態少女はパソコンのモニターに映し出された『転送開始』にカーソルを合わせ、カチッとクリック。
すると僕らの視界は真っ白になった。
僕の名前は桃城イツキ。高校はなんとか卒業したんだけど、進学も就職もせずにニートになりました。
勉強は嫌いだし、特にやりたいことがあるわけでもない。僕に何が出来るかと聞かれても、僕には何もできないからね。
そんな僕に「イツキはどうせ暇だろ? 一緒に仮想世界に行かないか?」と意味不明な誘いをしてきたのが、この仮面修子。高校の頃の同級生だ。「仮想世界」って聞いた僕は、流行りの『異世界転生』だと思ってさ。ニートやってても仕方ないから「面白そうだ」って誘いに乗ってしまったわけ。
結果、これだよ。
「あなたたちが最後の入学生さんですね。入学式の会場はこちらですよ~」
Weblog専門学校・白雪学園と書かれた正門の前で僕らを呼んでいるのは、
「私は学園ナビゲーターのコインちゃんで~す。よろしくね♡」
どこかの同人誌イベントから抜け出してきたような服装――控えめにいえばコスプレ、大袈裟にいってもコスプレな女の子だった。
フリフリのワンピースに雪のような白いエプロン姿。左腕にゴツイ電子機器みたいなのを付けてるけど、その恰好はまるでメイドさんみたいだ。
「メイドさんじゃありません! これでも私はれっきとしたここの卒業生で……あ、これは内緒なんだった。今のは忘れてくださいね」
頭をポリポリと掻くコインちゃん。うん、初対面でも分かる。この子はいわゆるひとつのお馬鹿キャラだね。
「お馬鹿ってヒドイですよ! たしかに私の能力はバカみたいだって言われてましたけど……」
「能力?」
「あわわっ、何でもないですぅ!」
またボロを出したのかな。カワイイ顔してお馬鹿でドジ、テンプレ全開だね。でも許すよ、変態じゃなさそうだから。
すると隣にいる正真正銘の変態が、
「アタシもその服を着てみたいぞ、交換しよう」
ちっこい身体をうねらせて服を脱ぎだした。
「えええっ!? ちょっとあなた、やめてください!」
慌てて修子を止めに入るコインちゃん。ゴメン、そいつは脱ぎグセがあるんだ。
露出狂の全裸シーンを食い止めたコインちゃんは、
「この学園は服装自由なので、どんな恰好でもいいです。……服さえ着ていれば」
僕たちに――というより修子に念を押した。
あ、大丈夫ですよ。僕は脱がないですから。
それから銀色の懐中時計を取り出して時間を確認すると、
「もうすぐ入学式が始まりますから、式館に急ぎましょう。他の皆さんが待ってます」
フリフリのスカートを揺らして、僕らを入学式の会場へと案内した。
てかさ、ここは何の学校なの?
僕は修子に言われるまま連れてこられたわけで、ここがどこだかも分かっていない。だいたい、この『白雪学園』のサイトを見つけたのも修子だ。
パソコンで検索して『入学申し込み』ってボタンを(修子が勝手に)クリックしたら、いつの間にかここにいる。
そもそも今いる場所は日本なの?
「いや、違うぞ」
「外国?」
「それも違う」
「じゃあ宇宙なの? グローバルを通り越して銀河も超えたの?」
そんなロマンチックな幻想を垣間見た僕の横で、修子が鼻を鳴らしながら、
「ここはネットの中の仮想世界だ」
と言った。
と、キツネのお面を被った少女が僕に言った。
「いや、ちょっと待って……」
「時間がないぞ」
「そんなこと言われても、僕はまだ心の準備が出来てな……って、ああっ! もう押したの!?」
「もう押した」
僕の隣にいる少女――仮面修子は、事も無げにパソコンのマウスをクリックしていた。
『受信完了、申し込みを受け付けました』
モニターに映し出された文字は、僕たちが異世界に転生する物語の始まりを告げている。
異世界転生――つまり僕は、この現実世界と決別して、違う世界で特別な能力を持って活躍していくんだ。
「イツキ、何を言ってるんだ? これは『異世界に転生する物語』じゃないぞ」
「ええ!? 違うの? じゃあ僕らがこれから行くのは、異世界じゃなくて……」
「学校だ。Weblog専門学校、白雪学園」
「学校!? やっと高校を卒業したのに、また学校に行くの? そんなの聞いてないって!」
「今、言った」
うわぁぁぁっ! 騙されたーー!
てっきり異世界転生する物語だと思ってたのに、学園モノなんて嫌だよ。僕は勉強が大嫌いなんだ!
中止、中止! このお話中止!
今すぐ中断! 取り消し、解約、解消、解除、解放! 破棄して! 白紙に戻して! キャンセルして! リリースして! クーリングオフしてーー!
「もう遅い」
と言って修子はキツネのお面を顔の横にズラした。白顔のお面の中から、その素顔が見えてくる。
瞳は燃えるような赤色で、透き通るような肌、童顔ながら整った顔立ち。サラサラの髪の毛は漆のように美しい黒色で、あごの先までスっと伸びている。
ここまでは普通に可愛い少女なのだが、妙ちくりんなのは頭にキツネのお面を付けているところ。縁日で売っているようなおもちゃのお面を、横向きに引っ掛けている。
で、着ているのは高校時代のセーラー服っていう、ちょっと変わった恰好だ。
「そんなジロジロ見るな。興奮して脱ぎたくなるじゃないか」
「どうして今そんなセリフが出て来る?」
「にししっ、アタシは変態だからな」
そう……仮面修子は名前も見た目も珍妙だが、そんなことより何よりも、コイツは重度の変態なのだ。
変態少女はパソコンのモニターに映し出された『転送開始』にカーソルを合わせ、カチッとクリック。
すると僕らの視界は真っ白になった。
僕の名前は桃城イツキ。高校はなんとか卒業したんだけど、進学も就職もせずにニートになりました。
勉強は嫌いだし、特にやりたいことがあるわけでもない。僕に何が出来るかと聞かれても、僕には何もできないからね。
そんな僕に「イツキはどうせ暇だろ? 一緒に仮想世界に行かないか?」と意味不明な誘いをしてきたのが、この仮面修子。高校の頃の同級生だ。「仮想世界」って聞いた僕は、流行りの『異世界転生』だと思ってさ。ニートやってても仕方ないから「面白そうだ」って誘いに乗ってしまったわけ。
結果、これだよ。
「あなたたちが最後の入学生さんですね。入学式の会場はこちらですよ~」
Weblog専門学校・白雪学園と書かれた正門の前で僕らを呼んでいるのは、
「私は学園ナビゲーターのコインちゃんで~す。よろしくね♡」
どこかの同人誌イベントから抜け出してきたような服装――控えめにいえばコスプレ、大袈裟にいってもコスプレな女の子だった。
フリフリのワンピースに雪のような白いエプロン姿。左腕にゴツイ電子機器みたいなのを付けてるけど、その恰好はまるでメイドさんみたいだ。
「メイドさんじゃありません! これでも私はれっきとしたここの卒業生で……あ、これは内緒なんだった。今のは忘れてくださいね」
頭をポリポリと掻くコインちゃん。うん、初対面でも分かる。この子はいわゆるひとつのお馬鹿キャラだね。
「お馬鹿ってヒドイですよ! たしかに私の能力はバカみたいだって言われてましたけど……」
「能力?」
「あわわっ、何でもないですぅ!」
またボロを出したのかな。カワイイ顔してお馬鹿でドジ、テンプレ全開だね。でも許すよ、変態じゃなさそうだから。
すると隣にいる正真正銘の変態が、
「アタシもその服を着てみたいぞ、交換しよう」
ちっこい身体をうねらせて服を脱ぎだした。
「えええっ!? ちょっとあなた、やめてください!」
慌てて修子を止めに入るコインちゃん。ゴメン、そいつは脱ぎグセがあるんだ。
露出狂の全裸シーンを食い止めたコインちゃんは、
「この学園は服装自由なので、どんな恰好でもいいです。……服さえ着ていれば」
僕たちに――というより修子に念を押した。
あ、大丈夫ですよ。僕は脱がないですから。
それから銀色の懐中時計を取り出して時間を確認すると、
「もうすぐ入学式が始まりますから、式館に急ぎましょう。他の皆さんが待ってます」
フリフリのスカートを揺らして、僕らを入学式の会場へと案内した。
てかさ、ここは何の学校なの?
僕は修子に言われるまま連れてこられたわけで、ここがどこだかも分かっていない。だいたい、この『白雪学園』のサイトを見つけたのも修子だ。
パソコンで検索して『入学申し込み』ってボタンを(修子が勝手に)クリックしたら、いつの間にかここにいる。
そもそも今いる場所は日本なの?
「いや、違うぞ」
「外国?」
「それも違う」
「じゃあ宇宙なの? グローバルを通り越して銀河も超えたの?」
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「ここはネットの中の仮想世界だ」
と言った。
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