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2章 領地での暮らし

とある少女

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やせ細った青白い棒のような手足、伸び放題の白髪に、らんらんと光る大きすぎる赤い目、ぼろぼろのとても服とは言えない布切れを纏う子供が、カルリオン家の領地を彷徨っていた。

当然、その子供は、領地の子供ではない。よそから、やってきた得体も知れない子供だ。夜中にやってきた、得体も知れない子供を門番たちは入れるはずもない。だが、その門番たちは、首からわずかに血を流し、顔を真っ青にしながら何故か倒れていた。

「おなか、すいた」

そういいながら、子供は彷徨い歩く。ひたすらに、赤い目を輝かせながら、空腹のあまり倒れそうになりながら。


「あー、まったく、ついてないぜ。今日は娘の誕生日なのにさー」

「そんなこと言っても仕方ないだろ、夜勤なんだから」

「なーお前、今日だけ一人でしてくれない?どうせ精霊たちの町であるこの街に不届きものなんて、そうそうこないんだからさ」

「いやだ。今は領主様が来ているから、言いつけるぞ」

「え、まじ?すまんすまん。まじめにやる」

子供前に、ちょっとした防具を纏った中年の男が横切った。

「あれ、今子供がいなかった?」

「いるわけないだろ、こんな時間に。幻覚でも見たんじゃないか?」

「そうか?でも、なんか子供がいたような気がするんだけどなぁ」

少し髭の濃いほうが、ポリポリと頬をかく。じゅるり、唾液が口の中にあふれてきた。

「そんなに子供の誕生日が祝いたいなら、明日の朝どっきりプレゼントでも渡したらどうだ?」

若干痩せ気味の男が、やれやれといった調子で髭の濃い男に話しかけていた。こちらはあまり美味しくなさそうだ。

「お、いいなそれ。そのあんもーらい」

髭の濃い美味しそうな男が、はしゃぎ始めた。丁度、彼らが子供に背を向け始めた。今だ。


ガブリ


髭の濃い男の首筋に、勢いよく噛みついた。うまい、さっき食った男よりうまい。甘い、そして濃い。こいつは、意外とあたりだ。


「な、がきどっから出てきた」

痩せ気味の男が、引きはがそうとしてくる。やめろ、おなかがすいているんだ。この魔力を貪り食いたい。待て、待て。


「この餓鬼っ、こうしてやる」
 
そいつは剣を抜いた。刺してくる気らしい。仕方ない、あまり美味しくなさそうだし、首を狙う暇もないが、こいつの魔力も食ってやる。


ガブリ


太ももに思いっきりかみついた。先程、たっぷりと魔力を食った子供の牙は、やすやすと男の防具を突き刺した。
あまり美味しくない。だが、贅沢は言うまい。子供は、いくら食べても食べても満たされない異常体質だ。食べれるときに、食べておきたい。




二人とも、もう食べてしまった。まだ食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、タベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイ。

ぼんやりと、倒れる二人の男を眺めながらしばらくたっただろうか。風向きが変わった。するとどこからともなく、とてもとてもとても美味しそうな芳醇な香りが漂ってきた。あぁ、この香りの主を食べたい。子供は、すごい勢いで走り始めた。
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