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「嘘……ティアラ様が来てるの?」「婚約破棄された相手の婚約披露パーティーなのに?」
まさか自分がこの場に来ているとは思ってもいなかった招待客達がどよめき、一斉に視線が集まった。
「どうしてそんな隅にいるのです?」
勝ち誇ったような笑顔で、ローズがこちらにゆっくりと近づいてくる。
レオンハルト様は他の招待客に話しかけられてこちらには来なかった。
「義妹の晴れ姿なんですから、もっと堂々と見て下さいな。どうですか?このドレス素敵でしょう?」
レオンハルト様の瞳と同じ空色のドレスを着たローズはその場でくるりと回って見せた。
動くたびにドレスの裾に施された銀糸の刺繍がキラキラと美しく輝いた。
レオンハルト様の色を纏った彼女は、認めたくはないが本当に綺麗だった。
「陛下の婚約者はお義姉様だったのに、奪うようなかたちになってごめんなさいね。悪いと思って私も断ろうとしたのよ。でも、陛下がどうしてもって言うから……」
悪いと思った?
私が婚約破棄されるのは当然の結果なのだと、この前豪語していたではないか。
「陛下に一体何をしたの?お義姉様に原因があったから婚約破棄されたのでしょう?」
周囲の人々が会話を止めてじっと聞き耳をたてている。
皆は私に非があると思い込んでいるようで、責めるような視線が身体に突き刺さった。
「……私は何もしてないわ」
感情の高ぶりを抑えるように、震える声で答えた。
私はレオンハルト様を裏切るような事など何一つしてないし、妾の子でもないとこの場で叫んでやりたかった。
けれど、おめでたい場の雰囲気を台無しにすような事はとても出来なかった。
「何もしてないなんて嘘よ。だったらどうして婚約破棄になったの?最初から愛されてなかったの?」
最初から愛されてなかった──その言葉が私の心を深く抉った。
そんな時、突如目の前に大きな背中が立ちはだかった。
「義姉から婚約者を奪えて気持ちが高揚しているのかも知れないが、無駄話も程ほどにした方が良い。挨拶しなければならない招待客は他にも大勢いるのだから」
その青年は落ち着いた声音で言い放った。
「なっ……」
目の前の相手が誰なのかを知らない義妹は敵意剥き出しの瞳で睨み付けた。
「嘘っ!大陸最強と名高いゼスティリア王立騎士団団長のアイラス殿下じゃない!」「隣国ゼスティリア王国の第3王子で、このような場にはほとんど姿を現さないという噂でしょう?そんなお方がどうしてここに?」
周囲の令嬢達の興奮したようなひそひそ話が、こちらにまで届いてきた。
「ゼスティリア王国の第3王子……」
相手が自分より格上だと悟ったローズは、慌ててぎこちない笑顔を張りつけるとアイラス殿下に一礼して逃げるようにその場から去って行った。
「あなたも大変だな。あんなのが義妹で」
彼はこちらを振り返ると、私を憐れむように言った。
「お久しぶりです。アイラス殿下」
レオンハルト様の友人であるその人を、私は前から知っていた。
色素の薄い金髪に鮮やかな深紅の瞳を持つ彼は、見上げるほどに背が高く、細身であるが鍛え上げられた体躯をしていた。
甘いマスクと女性的な美しさがあるレオンハルト様とは対照的に、アイラス殿下は切れ長の瞳が涼やかで、男性的な魅力に溢れた端正な顔立ちをしていた。
レオンハルト様と同じ23歳である彼は、未だ決まった婚約者もおらず、そのせいか周囲の若い令嬢達の熱い視線が集中していた。
「……非常に居心地が悪い」
私の隣でアイラス殿下がぼそりと呟いた。
「王族であれば、このような場には慣れているのではないのですか?」
「いいや全く。いつもなら顔を出さない」
それでも今回出席したのは、友であるレオンハルト様のためだろうか。
騎士団長である彼は、仕事が鬼のように忙しいと以前ぼやいていた。
「この場に俺が来たのは──」
「アイラス殿下!今、お話宜しいでしょうか?私はベアール侯爵家のオルヴィス・ベアールと申します。是非、殿下に私の娘を紹介したいのですが」
アイラス殿下の言葉を、背後から現れたベアール侯爵が遮った。
「縁談話なら止めてくれ」
アイラス殿下は切れ長な瞳をさらに細めて鋭い視線を送った。
その圧倒的な威圧感にベアール侯爵は顔を青ざめると、すぐに謝罪をして背中を丸めるように去って行った。
そんな侯爵の後ろ姿を眺めながら、アイラス殿下は深いため息を吐いた。
「……外へ出よう」
「えっ?でも、まだファーストダンスが……」
主役である二人のファーストダンスを見るのが、招待客である自分の役目だった。
「そんなもの見てどうする。二人で勝手にやればいいさ」
先に歩き出してしまったアイラス殿下を私は慌てて追いかけた。
アストレア城内にあるパーティー会場から一歩外へ出ると、黄昏に染まる美しい庭園が広がっていた。
そこはレオンハルト様と一緒に散歩をした思い出の場所でもあり、もう二度と戻る事は出来ないかけがいのない時間を憂い、ひとり感傷に浸っていた。
「レオンハルトという後ろ楯を失い、あなたは伯爵家で酷い扱いを受けていないか?」
そんな時、噴水の縁に腰かけたアイラス殿下が私を危惧するように言った。
ダグラス伯爵家の事情をレオンハルト様から聞いていたのだろう。
「いいえ。以前と同じで何も不自由はありません」
私は彼に嘘をついた。
真っ暗で寒い納屋に閉じ込められているなど口が裂けても言いたくなかった。
もう誰かに同情されるのは嫌だったのだ。
それに納屋に閉じ込められてるとは言え、最低限の食事は与えられているし、暴力を振るわれた訳でもなかった。
「それは誠なのか?あなたさえ良ければ、ゼスティリア王国に……」
彼の言葉に笑顔で首を振った。
「身を案じて頂きありがとうございます。でも本当に大丈夫です」
それでも彼は納得いかないようで、探るような視線を私に向けた。
「……私は、まだこの国から離れたくはないのです」
レオンハルト様と出会ってから15年以上もの間、ずっと一緒にいたのだ。
一方的に婚約破棄されたとしても、彼を思慕する気持ちはすぐには変えられなかった。
「そうか……」
そんな自分の気持ちを察したように、アイラス殿下は私から視線を外すと闇に染まりゆく茜色の空を眺めた。
「アイラス殿下にもそんな忘れられない大切な方はいらっしゃいますか?」
その問いにしばらく黙り込んだまま、遠くの空を静かな瞳で見詰めていた彼がゆっくりと口を開いた。
「……留学したばかりの頃、この場所で俺に花をくれた人だ」
女性の噂を全く聞かない彼が思慕しているのは一体どんな人なのだろう。
その時、私は純粋な興味を抱いていた。
まさか自分がこの場に来ているとは思ってもいなかった招待客達がどよめき、一斉に視線が集まった。
「どうしてそんな隅にいるのです?」
勝ち誇ったような笑顔で、ローズがこちらにゆっくりと近づいてくる。
レオンハルト様は他の招待客に話しかけられてこちらには来なかった。
「義妹の晴れ姿なんですから、もっと堂々と見て下さいな。どうですか?このドレス素敵でしょう?」
レオンハルト様の瞳と同じ空色のドレスを着たローズはその場でくるりと回って見せた。
動くたびにドレスの裾に施された銀糸の刺繍がキラキラと美しく輝いた。
レオンハルト様の色を纏った彼女は、認めたくはないが本当に綺麗だった。
「陛下の婚約者はお義姉様だったのに、奪うようなかたちになってごめんなさいね。悪いと思って私も断ろうとしたのよ。でも、陛下がどうしてもって言うから……」
悪いと思った?
私が婚約破棄されるのは当然の結果なのだと、この前豪語していたではないか。
「陛下に一体何をしたの?お義姉様に原因があったから婚約破棄されたのでしょう?」
周囲の人々が会話を止めてじっと聞き耳をたてている。
皆は私に非があると思い込んでいるようで、責めるような視線が身体に突き刺さった。
「……私は何もしてないわ」
感情の高ぶりを抑えるように、震える声で答えた。
私はレオンハルト様を裏切るような事など何一つしてないし、妾の子でもないとこの場で叫んでやりたかった。
けれど、おめでたい場の雰囲気を台無しにすような事はとても出来なかった。
「何もしてないなんて嘘よ。だったらどうして婚約破棄になったの?最初から愛されてなかったの?」
最初から愛されてなかった──その言葉が私の心を深く抉った。
そんな時、突如目の前に大きな背中が立ちはだかった。
「義姉から婚約者を奪えて気持ちが高揚しているのかも知れないが、無駄話も程ほどにした方が良い。挨拶しなければならない招待客は他にも大勢いるのだから」
その青年は落ち着いた声音で言い放った。
「なっ……」
目の前の相手が誰なのかを知らない義妹は敵意剥き出しの瞳で睨み付けた。
「嘘っ!大陸最強と名高いゼスティリア王立騎士団団長のアイラス殿下じゃない!」「隣国ゼスティリア王国の第3王子で、このような場にはほとんど姿を現さないという噂でしょう?そんなお方がどうしてここに?」
周囲の令嬢達の興奮したようなひそひそ話が、こちらにまで届いてきた。
「ゼスティリア王国の第3王子……」
相手が自分より格上だと悟ったローズは、慌ててぎこちない笑顔を張りつけるとアイラス殿下に一礼して逃げるようにその場から去って行った。
「あなたも大変だな。あんなのが義妹で」
彼はこちらを振り返ると、私を憐れむように言った。
「お久しぶりです。アイラス殿下」
レオンハルト様の友人であるその人を、私は前から知っていた。
色素の薄い金髪に鮮やかな深紅の瞳を持つ彼は、見上げるほどに背が高く、細身であるが鍛え上げられた体躯をしていた。
甘いマスクと女性的な美しさがあるレオンハルト様とは対照的に、アイラス殿下は切れ長の瞳が涼やかで、男性的な魅力に溢れた端正な顔立ちをしていた。
レオンハルト様と同じ23歳である彼は、未だ決まった婚約者もおらず、そのせいか周囲の若い令嬢達の熱い視線が集中していた。
「……非常に居心地が悪い」
私の隣でアイラス殿下がぼそりと呟いた。
「王族であれば、このような場には慣れているのではないのですか?」
「いいや全く。いつもなら顔を出さない」
それでも今回出席したのは、友であるレオンハルト様のためだろうか。
騎士団長である彼は、仕事が鬼のように忙しいと以前ぼやいていた。
「この場に俺が来たのは──」
「アイラス殿下!今、お話宜しいでしょうか?私はベアール侯爵家のオルヴィス・ベアールと申します。是非、殿下に私の娘を紹介したいのですが」
アイラス殿下の言葉を、背後から現れたベアール侯爵が遮った。
「縁談話なら止めてくれ」
アイラス殿下は切れ長な瞳をさらに細めて鋭い視線を送った。
その圧倒的な威圧感にベアール侯爵は顔を青ざめると、すぐに謝罪をして背中を丸めるように去って行った。
そんな侯爵の後ろ姿を眺めながら、アイラス殿下は深いため息を吐いた。
「……外へ出よう」
「えっ?でも、まだファーストダンスが……」
主役である二人のファーストダンスを見るのが、招待客である自分の役目だった。
「そんなもの見てどうする。二人で勝手にやればいいさ」
先に歩き出してしまったアイラス殿下を私は慌てて追いかけた。
アストレア城内にあるパーティー会場から一歩外へ出ると、黄昏に染まる美しい庭園が広がっていた。
そこはレオンハルト様と一緒に散歩をした思い出の場所でもあり、もう二度と戻る事は出来ないかけがいのない時間を憂い、ひとり感傷に浸っていた。
「レオンハルトという後ろ楯を失い、あなたは伯爵家で酷い扱いを受けていないか?」
そんな時、噴水の縁に腰かけたアイラス殿下が私を危惧するように言った。
ダグラス伯爵家の事情をレオンハルト様から聞いていたのだろう。
「いいえ。以前と同じで何も不自由はありません」
私は彼に嘘をついた。
真っ暗で寒い納屋に閉じ込められているなど口が裂けても言いたくなかった。
もう誰かに同情されるのは嫌だったのだ。
それに納屋に閉じ込められてるとは言え、最低限の食事は与えられているし、暴力を振るわれた訳でもなかった。
「それは誠なのか?あなたさえ良ければ、ゼスティリア王国に……」
彼の言葉に笑顔で首を振った。
「身を案じて頂きありがとうございます。でも本当に大丈夫です」
それでも彼は納得いかないようで、探るような視線を私に向けた。
「……私は、まだこの国から離れたくはないのです」
レオンハルト様と出会ってから15年以上もの間、ずっと一緒にいたのだ。
一方的に婚約破棄されたとしても、彼を思慕する気持ちはすぐには変えられなかった。
「そうか……」
そんな自分の気持ちを察したように、アイラス殿下は私から視線を外すと闇に染まりゆく茜色の空を眺めた。
「アイラス殿下にもそんな忘れられない大切な方はいらっしゃいますか?」
その問いにしばらく黙り込んだまま、遠くの空を静かな瞳で見詰めていた彼がゆっくりと口を開いた。
「……留学したばかりの頃、この場所で俺に花をくれた人だ」
女性の噂を全く聞かない彼が思慕しているのは一体どんな人なのだろう。
その時、私は純粋な興味を抱いていた。
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