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New Research Lab 3
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そして今、オレは黒ビキニパンツ一丁という姿でお高い検査機器のセンサー類が向けられた小部屋のなかに立っていた。
(ふふふ、なんとも奇妙なモノだな…)
誰に顧みられることもなかった、しがないサラリーマンだったオレ。
それがひょんなことからダンジョン能力者となり、さらに今では国の研究機関でこうして研究の対象として注目を集めていることに、妙なおかしさを覚える。
ま、種族が半妖人間と知れたら、それこそモルモットみたいに嫌でもガッツリ研究されそうではあるが。
ただそれに関しての肉体的変化はなく、キノコ事件の際に受けたメディカルチェックも難なくパスしている。なのでこれは肉体的な部分ではなく魂的な、いうなれば妖精や妖怪の方に片足突っ込んだモノなのだろうと勝手に解釈している。
『―センサー類のアイドリング、完了しました。計測状態は良好です』
『ふむ、問題はないようだね。では江月君、はじめてくれるかい』
この間、マイクがずっとオンになったままだったので、ヴーンだのチチチといった機械の作動音と合わせて、ガラス一枚隔てた向こうにある計測操作室の音はコチラにまる聞こえ。
それによるとこういった機械を使って計測をするにも結構なお金がかかるらしく、オレ―蟲王スーツへの計測は名目上検査機器の試運転という事で処理するため、今というタイミングらしい。だから逆をいえば、このタイミングを逃せばコチラから頼み込んでも、予算がないからと計測してはもらえなかったようだ。
(なるほど、そういう意味ではツイていたようだな)
いったいそれで何が解かるのかといった点については、まだサッパリ。だが、とりあえずお得ではあった模様。
「では、これよりオーラ念動による粘液変身を開始します」
そう言うと、オレは足もとに綺麗に並べられた蟲王スーツのパーツに視線を落とす。そして―
「ぬぅんッ!」
『ピュキーン!』
顔をあげ右腕を左上へと突出し、気合と共にポーズを決める。
と、そんなオレの掲げた右手には、いつのまに透明キューブ状の岩塩が。そう、コレがピュキーン!という音の正体。岩塩を生成凝結した際にこうしたイイ音が鳴るように、何度も試行錯誤を繰り返し練習をした賜物だ。
『『おぉ!!』』
すると計測機器にもなにか反応があったのか、研究スタッフさんからもイイ反応が。それに気を良くしたオレは、さらに気合を入れて魔力を高める。
「ぬぅぅ粘液、オーラ変身ッ!!」
『きゅばぁあッ!!』
そうして全身から溢れ出た粘液が、自動車工場のアームロボットがテキパキと仕事をこなすかのように足もとに置かれた蟲王パーツを拾い上げ、素早く身体へと組みつけていく。
『な、なんだこの数値はッ!?』
『ありえないわッ!』
『いったいどうなっているッ!?』
するとギャラリーは、なにやら大盛り上がり。
(お、ウケてるぞ!)
そこでさらに度肝を抜いて驚いてもらえるよう、変身の完了と共に粘液シャボン玉とキラキラ岩塩スプラッシュをド派手に撒いて決めたところ、突如計測室側でなにかが煙をあげて爆発した。
『チチチ…ピィ~!キュキョワワワワ…ボンッ!!』
『キャーー!』
『ワァ~~!』
(ちょ、何事…??)
明らかに尋常ではない煙が計測室でわき上がり、悲鳴と共に建物の火災警報まで鳴り響いている。そこでこれは一大事と手刀を突き入れると、手前に引いてガラスを破壊。そうして発火源に向けミューカスヴェールを発動すると、あがっていた炎はネットリ粘液膜に覆われて鎮火したのだった。
…。
「ズズゥ…。いやぁ、とんだことになってしまって、悪かったねぇ」
「いえ、なんかオレのせいですいません…」
ボヤ騒ぎのあと、オレと豊波チーフは建物内のロケーションの良い休憩スペースで珈琲を飲んでいた。
「いやいや、君のせいじゃないよ。今回は今までにない魔力計測器なんかも測定に使っていたから、きっとソレのせいさ」
「魔力、計測器ですか…?」
「ああ、でもこれでは…とても使い物にならないね。不幸中の幸いは初期不良で造ったメーカーにその計測器を突っ返せるのと、被害を受けたほかの機器についても保険請求ができる点かな」
「ハァ…」
「なんにせよ、せっかくお土産まで持って来てくれたのに、悪いことをしたねぇ。ほんとに江月くんには、何も被害はなかったかい?」
「はい、こちらはなんとも…」
爆発があったのは計測操作室側だったし、ガラスで隔てられていたのでダメージはまったくない。
「そうか、それなら良かった。まぁこれを気にしたりせず、また遊びにきておくれよ」
「ええ、それはもう…」
それからの会話でも、豊波チーフはとてもオレのことを気遣ってくれた。
一回計測するのにもお金のことを気にしなければならない機械をぶっ壊したとなれば、それこそ戦車や戦闘機みたいにバカ高いお値段がするのではなかろうか。また、そんなのが壊れたからといって自分で呼んだ相手にそれを請求するというのも、さすがに気の毒と思ってくれたのかもしれない。
そんな豊波チーフの優しさが身に沁みたのと、魔力計測器とか作るならメーカーも変な機械じゃなく、『もっとシンプルに水晶やら石板のカタチにしとけばいいのに』と、心の底からそう思ったのだった。
(ふふふ、なんとも奇妙なモノだな…)
誰に顧みられることもなかった、しがないサラリーマンだったオレ。
それがひょんなことからダンジョン能力者となり、さらに今では国の研究機関でこうして研究の対象として注目を集めていることに、妙なおかしさを覚える。
ま、種族が半妖人間と知れたら、それこそモルモットみたいに嫌でもガッツリ研究されそうではあるが。
ただそれに関しての肉体的変化はなく、キノコ事件の際に受けたメディカルチェックも難なくパスしている。なのでこれは肉体的な部分ではなく魂的な、いうなれば妖精や妖怪の方に片足突っ込んだモノなのだろうと勝手に解釈している。
『―センサー類のアイドリング、完了しました。計測状態は良好です』
『ふむ、問題はないようだね。では江月君、はじめてくれるかい』
この間、マイクがずっとオンになったままだったので、ヴーンだのチチチといった機械の作動音と合わせて、ガラス一枚隔てた向こうにある計測操作室の音はコチラにまる聞こえ。
それによるとこういった機械を使って計測をするにも結構なお金がかかるらしく、オレ―蟲王スーツへの計測は名目上検査機器の試運転という事で処理するため、今というタイミングらしい。だから逆をいえば、このタイミングを逃せばコチラから頼み込んでも、予算がないからと計測してはもらえなかったようだ。
(なるほど、そういう意味ではツイていたようだな)
いったいそれで何が解かるのかといった点については、まだサッパリ。だが、とりあえずお得ではあった模様。
「では、これよりオーラ念動による粘液変身を開始します」
そう言うと、オレは足もとに綺麗に並べられた蟲王スーツのパーツに視線を落とす。そして―
「ぬぅんッ!」
『ピュキーン!』
顔をあげ右腕を左上へと突出し、気合と共にポーズを決める。
と、そんなオレの掲げた右手には、いつのまに透明キューブ状の岩塩が。そう、コレがピュキーン!という音の正体。岩塩を生成凝結した際にこうしたイイ音が鳴るように、何度も試行錯誤を繰り返し練習をした賜物だ。
『『おぉ!!』』
すると計測機器にもなにか反応があったのか、研究スタッフさんからもイイ反応が。それに気を良くしたオレは、さらに気合を入れて魔力を高める。
「ぬぅぅ粘液、オーラ変身ッ!!」
『きゅばぁあッ!!』
そうして全身から溢れ出た粘液が、自動車工場のアームロボットがテキパキと仕事をこなすかのように足もとに置かれた蟲王パーツを拾い上げ、素早く身体へと組みつけていく。
『な、なんだこの数値はッ!?』
『ありえないわッ!』
『いったいどうなっているッ!?』
するとギャラリーは、なにやら大盛り上がり。
(お、ウケてるぞ!)
そこでさらに度肝を抜いて驚いてもらえるよう、変身の完了と共に粘液シャボン玉とキラキラ岩塩スプラッシュをド派手に撒いて決めたところ、突如計測室側でなにかが煙をあげて爆発した。
『チチチ…ピィ~!キュキョワワワワ…ボンッ!!』
『キャーー!』
『ワァ~~!』
(ちょ、何事…??)
明らかに尋常ではない煙が計測室でわき上がり、悲鳴と共に建物の火災警報まで鳴り響いている。そこでこれは一大事と手刀を突き入れると、手前に引いてガラスを破壊。そうして発火源に向けミューカスヴェールを発動すると、あがっていた炎はネットリ粘液膜に覆われて鎮火したのだった。
…。
「ズズゥ…。いやぁ、とんだことになってしまって、悪かったねぇ」
「いえ、なんかオレのせいですいません…」
ボヤ騒ぎのあと、オレと豊波チーフは建物内のロケーションの良い休憩スペースで珈琲を飲んでいた。
「いやいや、君のせいじゃないよ。今回は今までにない魔力計測器なんかも測定に使っていたから、きっとソレのせいさ」
「魔力、計測器ですか…?」
「ああ、でもこれでは…とても使い物にならないね。不幸中の幸いは初期不良で造ったメーカーにその計測器を突っ返せるのと、被害を受けたほかの機器についても保険請求ができる点かな」
「ハァ…」
「なんにせよ、せっかくお土産まで持って来てくれたのに、悪いことをしたねぇ。ほんとに江月くんには、何も被害はなかったかい?」
「はい、こちらはなんとも…」
爆発があったのは計測操作室側だったし、ガラスで隔てられていたのでダメージはまったくない。
「そうか、それなら良かった。まぁこれを気にしたりせず、また遊びにきておくれよ」
「ええ、それはもう…」
それからの会話でも、豊波チーフはとてもオレのことを気遣ってくれた。
一回計測するのにもお金のことを気にしなければならない機械をぶっ壊したとなれば、それこそ戦車や戦闘機みたいにバカ高いお値段がするのではなかろうか。また、そんなのが壊れたからといって自分で呼んだ相手にそれを請求するというのも、さすがに気の毒と思ってくれたのかもしれない。
そんな豊波チーフの優しさが身に沁みたのと、魔力計測器とか作るならメーカーも変な機械じゃなく、『もっとシンプルに水晶やら石板のカタチにしとけばいいのに』と、心の底からそう思ったのだった。
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