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reason
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ま、そうはいいつつも、オレと遠野のオッサンの関係も紛れもなく不正と癒着。であるからして、黒か白かで言ったら真っ黒だ。
しかし自己利益しか考えない欲得塗れの政治家なんかと同じと思われるのはなんとも癪であり、面白くない。少なくともキノコ事件での報告書改ざんは、亡くなった自衛官たちの残された家族を守るという利他の精神があったのだから。
なのでこの件の主犯である遠野のオッサンは、この不正で1円の儲けにもなってはいない。
故にその状況で誘導ないし協力を持ちかけたオレに補てんを要求されて腹を立てるといった心境も、分からなくもない部分はある。
これはまぁ。たとえば、たとえばであるが、遠野のオッサンのこの考え方も太平洋戦争敗戦直後という時代だったら、アリであったかもしれない。
敗戦により、世界に散っていた日本人が大勢帰ってくる。世界を相手に戦っていた日本兵、兵隊さんだ。
しかし、日本に帰って来れなかった人達もまた、大勢いた。
それは特攻したり、船ごと沈められたり、密林にその命を散らせた人達。そうして亡くなった人達の魂というのは、ある意味で帰ってきた人達に憑いていた、といっても過言ではないだろう。
なぜならば同じ釜の飯を食い、戦場での苦楽を共にし、そして最後の時には日本を頼む!あとを頼む!と言い残し亡くなっていった仲間。
それは生き残った者にとって、絆であり、呪縛であり、はたまたそれ以上の何かであったかもしれない。
戦友が生きられず、生きたかった今。戦友があれほど焦がれつつも、帰れなかった故郷。ならば、生き残った私は戦友の分も頑張り、亡くなった戦友たちに対し恥ずかしくない生き方をしなければ。
そんな考えを持った人達も、大勢いたはずだから。それが、戦後日本復興の大きな礎となり原動力ともなったのでは、と考えている。
なのでやり方は違えど、遠野のオッサンの心境もまた、これに近いものなのかもしれない。そしてその為には、日本という国がダメダメでは自分の生き方も否定されてしまうし、亡くなった者達だって浮かばれない。それがオレのいった事に対して、酷く激昂した理由であろう。
ただ、こっちだって危険に身を投じ矢面に立って戦ったのだ。
そのせいで、寄生されていて最早ひととしての意識を持っていなかったとはいえ、大勢の人の命を奪っている。それによって生じた精神的負荷は、ステータスのやるせなさが1000を超えてしまうほど。
だというのに、そうまで頑張ってやり遂げた仕事の報酬を最初は難癖つけて減じようとしたのだから。遠野のオッサンのことをオレが快く思わないのも、当然であろう。
「戻りました。まぁ珈琲でも飲んで、一息入れてから話しましょう」
と、ここで人数分の缶珈琲を手に路亜さんが戻ってきたことでオレもまた思考の海から浮上し、それを受け取った。
…。
こうして、まだ何も始めてもいないというのに、珈琲ブレイク。
するとふたりきりの時にはムスッと黙り込んでいた遠野のオッサンが、路亜さんが戻ってきた途端なにやらブチブチと不満を並べ始めた。
「だいたいオマエはなぁ、報告にもすぐ来ず無責任なんだよ。それに、いい歳してる癖に定職にもつかず、対策省から貰える仕事で食い繋ごうなんて調子のいいこと考えやがって」
うむむ、またしてもオレに対する文句か。しかしサシでいる時には一切話さずに、路亜さんが戻った途端に口を開くとは。でも、情報が古いな。今は特異産業の役員もやってるし、整体師としても開業しているのだぞ。
「そうやって今は調子が良いだろうが―」
「あの、遠野さん。すこし言い過ぎではありませんか?」
しかしオレがそれに対し口を開くより先に、路亜さんが口を挟んでくれた。
「な、路亜?なんでおまえがこんなヤツの肩を持つ…?」
「いえ、どちらの肩も持っていません。ただ、遠野さんが江月さんのことを快く思っていないことは、自分も感じてました。が、少々言い過ぎかと思ったまでで。いったい何が原因で、そこまで江月さんのことを嫌うのです?」
「う、それは…」
その問いかけに、返答に窮する遠野のオッサン。うん、路亜さんに向かって「コイツとは改ざん仲間です」とは言えないので、まぁそうなるよな。
「たしかに、江月さんはぶっきらぼうで、少々とっつきにくいところもあるかと思います。それに行動に関しても、色々とやりすぎな面もあるかと思います…。ですが一民間人が、あの大氾濫のなか友人の家族をみつけるため都内を徒歩で探し歩いたり、立ち寄った学校ではそこの生徒たちが生き残れるよう、戦闘指導までしていたのですよ?」
ありがたい。路亜さんが、そんな風に思ってくれてたなんて。まぁぶっきらぼうとか、やりすぎとも思われてるようだけど。でもそんな前のことを今になって話してるって、普段ふたりにはまったく接点がないのか?
「そんな話、俺は聞いてないぞ…」
「ええ、これは自分も後から確認のとれたことなので。部隊の報告書では、表彰された別の方たちの名があげられています。ですが、そういったことを我々が到着する前にしてくれていたおかげで、その避難所では大きく被害を減らすことができたのです」
するとさらに、オレの事を擁護してくれる路亜さん。
でも、ちょっと美化され過ぎているような。路亜さんのくちぶりだと、名も告げず良い事をして去って行ったヤツみたいになってるジャン。でもオレが自衛隊と入れ違いで学校から姿を消したのは、スタンピードの最中にモンスター操ってるヤツがいたら、絶対ヤベェ奴だとマークされると思ったから。なので実像とは、大きくかけ離れている。
「そして今もこうして、他の誰も受けたがらないような依頼を受けてくれているではないですか。いったいそれで、どんな不満があるというのです?」
「ぬ…、ま、まぁコイツとは、ちょっと色々あったんだ…」
と、そんなさらなる路亜さんからの問いに、遠野のオッサンは言葉を濁して答えると缶珈琲を口にソッポを向く。すると今度はオレに問うような視線を向けてくる路亜さん。が、それに関してはオレもまたなんにも言えないから、肩をすくめて苦笑してみせるにとどめる。
こうしてメンツがメンツだけに、その後も楽しく弾む話題もないまま時が過ぎ、珈琲を飲み終えると遠野のオッサンが無言でオレに紙を滑らせてきたのだった。
しかし自己利益しか考えない欲得塗れの政治家なんかと同じと思われるのはなんとも癪であり、面白くない。少なくともキノコ事件での報告書改ざんは、亡くなった自衛官たちの残された家族を守るという利他の精神があったのだから。
なのでこの件の主犯である遠野のオッサンは、この不正で1円の儲けにもなってはいない。
故にその状況で誘導ないし協力を持ちかけたオレに補てんを要求されて腹を立てるといった心境も、分からなくもない部分はある。
これはまぁ。たとえば、たとえばであるが、遠野のオッサンのこの考え方も太平洋戦争敗戦直後という時代だったら、アリであったかもしれない。
敗戦により、世界に散っていた日本人が大勢帰ってくる。世界を相手に戦っていた日本兵、兵隊さんだ。
しかし、日本に帰って来れなかった人達もまた、大勢いた。
それは特攻したり、船ごと沈められたり、密林にその命を散らせた人達。そうして亡くなった人達の魂というのは、ある意味で帰ってきた人達に憑いていた、といっても過言ではないだろう。
なぜならば同じ釜の飯を食い、戦場での苦楽を共にし、そして最後の時には日本を頼む!あとを頼む!と言い残し亡くなっていった仲間。
それは生き残った者にとって、絆であり、呪縛であり、はたまたそれ以上の何かであったかもしれない。
戦友が生きられず、生きたかった今。戦友があれほど焦がれつつも、帰れなかった故郷。ならば、生き残った私は戦友の分も頑張り、亡くなった戦友たちに対し恥ずかしくない生き方をしなければ。
そんな考えを持った人達も、大勢いたはずだから。それが、戦後日本復興の大きな礎となり原動力ともなったのでは、と考えている。
なのでやり方は違えど、遠野のオッサンの心境もまた、これに近いものなのかもしれない。そしてその為には、日本という国がダメダメでは自分の生き方も否定されてしまうし、亡くなった者達だって浮かばれない。それがオレのいった事に対して、酷く激昂した理由であろう。
ただ、こっちだって危険に身を投じ矢面に立って戦ったのだ。
そのせいで、寄生されていて最早ひととしての意識を持っていなかったとはいえ、大勢の人の命を奪っている。それによって生じた精神的負荷は、ステータスのやるせなさが1000を超えてしまうほど。
だというのに、そうまで頑張ってやり遂げた仕事の報酬を最初は難癖つけて減じようとしたのだから。遠野のオッサンのことをオレが快く思わないのも、当然であろう。
「戻りました。まぁ珈琲でも飲んで、一息入れてから話しましょう」
と、ここで人数分の缶珈琲を手に路亜さんが戻ってきたことでオレもまた思考の海から浮上し、それを受け取った。
…。
こうして、まだ何も始めてもいないというのに、珈琲ブレイク。
するとふたりきりの時にはムスッと黙り込んでいた遠野のオッサンが、路亜さんが戻ってきた途端なにやらブチブチと不満を並べ始めた。
「だいたいオマエはなぁ、報告にもすぐ来ず無責任なんだよ。それに、いい歳してる癖に定職にもつかず、対策省から貰える仕事で食い繋ごうなんて調子のいいこと考えやがって」
うむむ、またしてもオレに対する文句か。しかしサシでいる時には一切話さずに、路亜さんが戻った途端に口を開くとは。でも、情報が古いな。今は特異産業の役員もやってるし、整体師としても開業しているのだぞ。
「そうやって今は調子が良いだろうが―」
「あの、遠野さん。すこし言い過ぎではありませんか?」
しかしオレがそれに対し口を開くより先に、路亜さんが口を挟んでくれた。
「な、路亜?なんでおまえがこんなヤツの肩を持つ…?」
「いえ、どちらの肩も持っていません。ただ、遠野さんが江月さんのことを快く思っていないことは、自分も感じてました。が、少々言い過ぎかと思ったまでで。いったい何が原因で、そこまで江月さんのことを嫌うのです?」
「う、それは…」
その問いかけに、返答に窮する遠野のオッサン。うん、路亜さんに向かって「コイツとは改ざん仲間です」とは言えないので、まぁそうなるよな。
「たしかに、江月さんはぶっきらぼうで、少々とっつきにくいところもあるかと思います。それに行動に関しても、色々とやりすぎな面もあるかと思います…。ですが一民間人が、あの大氾濫のなか友人の家族をみつけるため都内を徒歩で探し歩いたり、立ち寄った学校ではそこの生徒たちが生き残れるよう、戦闘指導までしていたのですよ?」
ありがたい。路亜さんが、そんな風に思ってくれてたなんて。まぁぶっきらぼうとか、やりすぎとも思われてるようだけど。でもそんな前のことを今になって話してるって、普段ふたりにはまったく接点がないのか?
「そんな話、俺は聞いてないぞ…」
「ええ、これは自分も後から確認のとれたことなので。部隊の報告書では、表彰された別の方たちの名があげられています。ですが、そういったことを我々が到着する前にしてくれていたおかげで、その避難所では大きく被害を減らすことができたのです」
するとさらに、オレの事を擁護してくれる路亜さん。
でも、ちょっと美化され過ぎているような。路亜さんのくちぶりだと、名も告げず良い事をして去って行ったヤツみたいになってるジャン。でもオレが自衛隊と入れ違いで学校から姿を消したのは、スタンピードの最中にモンスター操ってるヤツがいたら、絶対ヤベェ奴だとマークされると思ったから。なので実像とは、大きくかけ離れている。
「そして今もこうして、他の誰も受けたがらないような依頼を受けてくれているではないですか。いったいそれで、どんな不満があるというのです?」
「ぬ…、ま、まぁコイツとは、ちょっと色々あったんだ…」
と、そんなさらなる路亜さんからの問いに、遠野のオッサンは言葉を濁して答えると缶珈琲を口にソッポを向く。すると今度はオレに問うような視線を向けてくる路亜さん。が、それに関してはオレもまたなんにも言えないから、肩をすくめて苦笑してみせるにとどめる。
こうしてメンツがメンツだけに、その後も楽しく弾む話題もないまま時が過ぎ、珈琲を飲み終えると遠野のオッサンが無言でオレに紙を滑らせてきたのだった。
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