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Impure Desire

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「まぁまぁ、ひとまずそれくらいで。すこし飲み物でも飲んで、落ち着きませんか」

そういって路亜さんが間に入ってくれたので、一旦はそこで水入り。しかしそのまま飲み物を買いに出て行ってしまったので、部屋には遠野のオッサンとオレだけが残される。

すると当然、室内には息の詰まるような沈黙が。

「「……」」

(ふぅむ、やれやれ…)

さて、そもそもなんでこのオッサンにオレがこれほど嫌われているかというと、それは現状の認識と価値観の差異によるもの。そして誰あろうこのオッサンこそ、オレの終えた仕事にイチャモンをつけ報告書を改ざんしようとした張本人である。

だが、オレはその要求を飲んだ。

報告書の改ざんなんて明らかに違法であり、オレの報酬も大きく減じさせること。しかしそれをする理由が残された遺族の為と知っては、コチラも飲まざるを得ないだろう。なにせキノコモンスターに寄生されてしまった自衛官らを殺めたのは、他の誰でもないオレなのだから。

それに、たとえばそうした人達に妻子がいたとして、「ねぇママ、どうしてパパは死んじゃったの?」と子が母親に問うた時に、「あなたのパパはみんなを守るために、立派に戦って亡くなったのよ」と説明されるのと、「あなたのパパはキノコになって人を襲ってたから、処分されちゃったのよ」では、エライ違いだ。

と、ここまではオレと遠野のオッサンの見解に大きな差はない。

遠野のオッサンは戦って亡くなった元部下の誇りと残された家族の生活を守る為、報告書を改ざんしてでもどうにかしようと考えたのだ。

が、その後は意見が別れ、大きく異なってくる。

元部下の誇りと残された家族の生活を守る為。うん、それは解かる。だからオレも報告書改ざんの件を、飲んだのだし。しかしオレからすればその改ざんのせいで自身の報酬が大きく減じられるのだから、それを他のカタチで補てんしろと要求するのは当然のことだと考えていた。

当たり前だ。たとえ独りでやっていても、仕事は仕事。ちゃんとプロ意識を持って臨んでいるので、それに対しきちんと報酬を貰うのは当然のこと。なので自身の技術を、安売りだってしない。

しかし遠野のオッサンからすると他のカタチで補てんしろというオレの要求は、『自身の不正に対して足元を見られた、強請られた』と受け取ったようで、金に意地汚い守銭奴という印象をオレに対し強く持ってしまったようなのである。

「フン…!」

で、それが今の態度という訳。

ただ、そんな状況では非常に仕事もやりにくい。そこでその誤解を解く為、電話で話す際に何度かそういったことについても触れた。

しかし元自衛官の遠野のオッサンの頭の中は、「日本という国が大変な国難に直面している時に何を言ってるんだ!こんな時こそ力を結集し、滅私奉公するくらいでなくてどうする!!」と、そういった考え方で凝り固まっているようだった。

これではコチラがいくら何を言おうとも、てんで話を聞いてもらえない。しかしそれでもそんな凝り固まった価値観を打ち砕こうと、電話で相当にやりあった。

「おい、誰が守銭奴だ!アンタはそうやって誇りだ愛国心だというが…、そんな愛国心を今の若者がどうして持てるッ!?

ちょっと海外に行きゃあ、たまに遊びに来た親戚のおじさんがその家のガキにこづかいやるみたいに、ポンポン100億だ200億だって金をよその国にばらまいて!その金も税金だぞ!みんな困ってんのに!なんでそんなのが総理大臣やってんだ!?やるなら国民から絞りとった税金じゃなく、自分のポケットマネーでやれ!!絶対バックマージン貰ってんだろ!

そして右を見りゃあスタンピードが起きた途端そこから逃げだした癖に、カメラの前じゃ、あの地域はもうお仕舞だなんて言って被害に遭った人達の神経を逆撫でする国会議員!いったいなに考えてんだッ!?

さらに左を見ればズブズブベッタリの海外企業から利権でたんまり裏金貯めこんでんのがすっかりバレる政治家に、それでもだんまり決め込んで一向にメスを入れようともしない司法ッ!これも絶対金貰ってお目こぼししてるよな!

そういった事実はどうなんだ!こんなのどっからどう見ても腐りきってんだろ!いったいコレの何処が、アンタのいう気高く誇りある日本なんだッ!!」

って言ったら、ばちくそ逆ギレされた。
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