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Wild gutter raid

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『ひと狩りいこうよ!ぱぱぱパワー!(ボォン!)』

テレビを点けると、またダンジョン関係のCMが増えている。世はまさにダンジョン一色という感じだ。

今や巷では意識高い系OLなんかが、美容と健康のため会社帰りにダンジョンで汗を流すらしい。なんでもそういったスタイルを流行らせようと、駅近ホテルをたくさん抱えた大手宿泊企業がダンジョンの発生した傍にあったホテルをそれ用に大規模改装をしたのだとか。

そのためダンジョン試験解放時のような不便さはなくなり、快適にダンジョンに潜れるという。

『(シャコシャコシャコ…)』

そんなCMを冷めた目で眺めつつ、歯をみがくオレ。なにせこちとら、そういった世間の楽しげな流行とはまったく無縁なのだから。

(そうだな、瀬来さんと初めていっしょにダンジョン潜った時…、あれくらいの頃が一番ワクワクしたもんなぁ)

ああ、あの頃は毎日が楽しかった。

瀬来さんがいて、瑠羽がいて、仁菜さんがいて。女性化したり天然ニューハーフになったりもしたが、彼女たちがいっしょにいてくれたお陰でそれも苦にならなかった。

そんな彼女たちも、今やアイドル。雑誌のグラビアや輝かしい舞台でのコンサートと、毎日いそがしくしているようだ。

3人のうち誰かひとりでも載っていれば、雑誌はかならず購入している。コンサートにも行ってみたいが、今のカラダだと人の密集した場というのは正直耳がツライ。なのでいつか、落ち着いた状態でその歌声を聴かせてもらえればと思っている。

ダンジョンの浅い層でキャッキャッして、簡単にあがるレベルに喜びの声をあげる。テレビではそんな光景がたびたびニュースでも流れている。

しかし、そこから先は苦行。

強くなり、浅い層で満足できなくなって下層へと降りれば、たちまちダンジョンは牙を剥く。するともう、今までのように簡単にとはいかない。自身が傷つくのを覚悟の上で、それこそトラやライオンのいる檻に自ら入っていくような覚悟が無ければ、その先へは進めないのである。

それでもダンジョン能力者が増え、一般化することには歓迎できる。そうした人が増えた分だけ、ダンジョンスタンピードのようないざという時の足手まといが減ってくれるのだから。

と、そんなダンジョンを流行のホビーと位置付け楽しむ人達のいる一方、そういった人達がまったく眼を向けず宙ぶらりんとなってしまう諸々の不具合。それがオレのような男のもとに、ご指名依頼案件となってごまんとやってくる。

(あ~あ~、誰もがやらぬ事ならば、オレがこの手でレッツ・ドゥ・イット…)

こうして世間の浮ついた雰囲気を余所に、今日も単身どぶさらいの仕事に向かうのだった。


…。


そして水陸両用蟲王スーツ姿で腰まで水に浸かりながら、下水道を行く。依頼内容は今回も不具合箇所の発見とモンスターの生息状況確認。すると通路の天井部に、群生しているスライムを発見した。

(あ~、またコイツらか。でもま、特に問題はないな…)

ダンジョンから溢れ出て、野生化したスライム。

地上だと人を襲う事もあるが下水道でドブの色に染まったドブスライムは、そういった攻撃性を感じない。どうも都心の地下を流れる栄養豊富な汚水を吸収することで、十分にその食欲が満たされている様だ。

しかもコイツらは巧いこと天井に張りついたりして、水の流れを妨げることはない。水草なんかだとやたらと殖えて水路を塞いでしまうが、コイツらは自分達の立ち位置というのを弁えているのだ。

しかもこうしてドブスライムが群生しているような場所では、汚水がちょっとだけ綺麗だったりもする。これは明らかに、ドブスライムが汚水の栄養を吸収しているせいだろう。ま、貝類が水質を綺麗にするのと、理屈は同じだな。

でもその分このドブスライムたちは色んな汚染物質を体内に溜め込んでるだろうから、ポイズンスライムになっているといっても過言ではないだろう。

(でもいつか、コイツらを利用した水質浄化システムとかも作られるかもしれないなぁ~)

なんてことを思いつつドブスライムが群生している場所を抜け先に進むと、そこにはまた獣鼠の姿。コイツらもホント下水道に潜るたび顔を合わせない日がないくらい、毎度見かける。ネズミだけに繁殖能力がすごいのだろう。

が、そんな獣鼠たちが急に慌てた様子で逃げだした。

「ヂチッ!!」
「ヂュッ!」

それをコチラの気配に驚いたせいかと思いきや、風鳴りが起き、狭い下水道内の圧が一気に高まっていく。

(む…?)

そして不味いと思った時にはもうドオドオという重い音と共に、奥から激しい鉄砲水が押し寄せてくる。

(おい、今日は晴れの予報だったろ!聞いてないぞッ!!)

朝ちゃんと天気予報をチェックしたのに、いったいどっから湧いて出た?

しかしソレはソレ、下水道では想定されていた事態。すぐに岩塩杭を生み出し壁まで伸ばすと、それを支えに鉄砲水をやり過ごすべくしかと握る。

次の瞬間、まともに喰らう鉄砲水。

『『『ボバッ!ぐぼごごごご!!』』』

でも下水道に潜っている時は、たいてい粘液まみれ。それは鱗を持たない魚がヌメヌメしているように、その方が水の抵抗を受けないで済むから。だからたとえ強い水流を受け鯉のぼり状態になったとしても、こうして常よりもその抵抗を減じて―

『ドゴンッ!!』
(どわっ!?)

水流対策はバッチリだった。だというのにそこへ流されてきた白いワニがぶちあたり、オレはそのワニもろとも鉄砲水に飲まれたのだった。
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