うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
上 下
550 / 627

Strategy Crab Dungeon 4

しおりを挟む
コンブ、コンブ、コンブ…。視界一面を、生物のようにうねり狂う昆布が覆い尽くす。

初戦闘後。戦いの気配と炎の熱気を感じ取ったほかの化け物昆布どもが、黄色い濁流となって一斉に襲いかかってきたのだ。

しかしこんなこともあろうかと色々準備していたオレ。すぐさま用意していた鉛片を自身の周囲にばら撒くと、スキル【強酸】を発動しその上へと強酸をぶちまけた。

「エレクトリッガー!」

解説しよう。そう、やろうとしているのはカーバッテリーでおなじみの、鉛蓄電池によるなんちゃって放電だ。これによって相手を感電させその動きを―

『『『ウズドドド…!』』』
「なに!?」

しかしコレにはまったく効果がなく、黄色い濁流となった化け物昆布はなんのダメージもなかったようにすぐそばにまで迫ってきてきしまう。

撒いた鉛片からはすぐさま白煙が上がっていたので反応まではしたものの、どうやら鉛の量が少なかったりそもそもが水場のため発生した電気ができた端から地面や水の方に流れてしまったらしい。

「く、失敗か…。不味い、オーバー・ザ・ミューカス!」

そこで困った時の粘液頼み。

分厚い粘液を自分中心にモッタリと生み出し溢れさすと、即座にそのなかへと身を伏せ昆布の濁流をやり過ごす防御態勢へ。

そこにザバンと勢いよく昆布がぶつかり、轟々と振動を響かせ頭上を通過していく化け物昆布どもの濁流。

だがベタリと足元の岩場に喰いつく粘着力と、ヌルリと敵の攻撃を受け流す表面の滑性。この粘性と滑性の織り成すエクスタシーにより、その攻撃を難なくいなしてみせる。

(むぅ、しかしとんでもない量だな…)

カニダンジョンを拾ってから一度も狩ったことのない階層。なので、おびただしい量になってしまっている。どうも長いこと放置し過ぎてしまったようだ。とはいえ相手もヌルヌルでこっちもヌルヌルのため、化け物昆布にはこれ以上の攻め手はないようだ。

(ふむ…、とするとアナコンダのように獲物に巻きつき縛り上げることで、息の根を止める感じか?)

ウツボ昆布などと呼んでいたが、胴の見た目が似ているだけでウツボのような鋭い牙のある頭がついている訳ではない。恐らくはコイツもほかの植物系モンスターのように、最終的には倒した獲物に根を張って養分を吸収するのだろう。

しかしこれほどの数がいたのでは、いちいち千切っては投げなどとしていられない。よし、ならばココはピクシークィーンに手を貸してもらおう。

(クィーン、酸素をたのむ!出来るだけタップリとだ!)
(…)

すると肯定の意識と共に伏せているオレの目の前には気泡が現れ、それが粘液のなかでみるみる大きく育っていく。ピクシークィーンが酸素を生み出してくれているのだ。その間にオレも落ちている鉛に手を伸ばしては強酸粘液を付着させ、その酸素気泡のなかに突っ込んでおく。

それに対し化け物昆布どもはどうにか攻撃しようと、その身を包んでいる粘液の性質を変化させオレのまとう粘液を侵食しようといている様子。しかしオレの粘液は特別性。超粘液となっているので、ちょっとやそっとじゃ食い破れない。

(ヨシ…、こんなものか)

こうして直径2メートルを超えるほどに成長してきた酸素の気泡。

合わせて魔力を発しスーツの上からさらに聖塩衣を纏いつつ、ファイヤーワンドを胸部から取り外し作動させるとその先端を膨らんだ気泡へとおもいきり突っ込んだ。

(ハイドロオキシジェンボム、点火!)

するとたちまち起きる大爆発。

後頭部を思い切り殴られたような衝撃と共に耳をつんざき目がくらみ、粘液があっても顔を強く地面に打ちつけられる。しかし自分の頭の真上で爆発を起こすという超絶アホな真似をしているので、それも当然。

それでもその甲斐あって、周囲にいた化け物昆布どもはまとめて吹き飛ばせたようだ。


…。


衝撃にしびれる身を起こすと、カラダを覆っていた粘液は腰の部分までしかない。

どうやら爆発で吹き飛んでしまったようだ。さらに起き上がろうとすると、露出してしまった部分の聖塩衣が受けたダメージによってボロボロと崩れ落ちる。それでも蟲王スーツまで被害は至らなかったようで、眩暈と耳鳴り以外には肉体にダメージを受けた感覚はない。

「……」

そこで顔を上げあたりを確認すると、自分を中心に綺麗な円を描くカタチでモロモロ吹き飛んでいた。

ここは地下水脈みたいに、所々で通路の先が水で塞がれている。そんなさして広くもない密閉空間で起きた爆発。その衝撃をモロに浴びた化け物昆布どもは爆風によって無残に千切れ飛び、残っているのも熱傷によりその体色を黄色から鮮やかな緑に変色させていた。

(凄まじいな。でも、アレ以上大きくしないで良かった…)

ピクシークィーンが生み出してくれた大量の酸素と、強酸と鉛を反応させることで生み出したちょい足し水素。そのハイドロオキシジェンボムは、閉鎖空間では強力な武器になってくれたようだ。

(あ…でも、ずっと耳がパィ~ンのままだし、まだ少しクラクラくるぞ…)

あ~こりゃ至近で使ったのは自殺行為。超粘液と聖塩衣だけでも持つと思ったが、もう少し用心して分厚い岩塩盾も用意しときゃよかった。。。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...