うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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Dungeon instructor 2

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ともあれまずは全員を連れ、会社の事務所へと向かう。

特異産業の前身組織は、当然ながらサバゲサークル・トライデント。コチラはコチラで今も現存しているが、実際問題いまは皆サバゲどころではないのでその活動は休止中。なのでその分の力が特異産業へと向けられている。

社員は先日入社したジェロームたちを含め、20名ほど。だからそのほとんどが、トライデントのメンバーというわけだ。

一方でバイトは50名ほどと、かなり多い。

これは定職を持ち生活にはまだ余裕のあるトライデントメンバーほか知り合いが、休日のみ特異産業の業務に参戦するというカタチをとっているため。

で、プレハブ建てな社屋に近づいていくと、その前にいたメンバーたちがオレをみとめ挨拶をくれる。

「あ、ジャングさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。今日もよろしく頼むよ」

「「うっす!」」

とまぁ、こんな感じ。

オレはここの役員であり、特異産業の中では一番強いダンジョン能力者。ゆえに対植物ダンジョンにおいては間引きの主力だ。さらにジェロームの件では特に気を使って来るたびに肉やカニを差し入れし、職場環境のいい雰囲気づくりを心掛けた。

そう、会社勤めをしていた頃に感じていた不満もまた、オレの心のなかにいまだ燻っていたのだ。

そんな『もっと上の立場だったなら、そうではなくこうするのに』といった思いから、役員だからといって傲慢な態度は取らず、和を尊び人の輪を繋げることを重んじたのだ。

ゆえに今の職場の仲間とは、こうして仲良くやれている。

…。

「オッス!提督いるかぁ~!」

シャークが先頭で臆することなく事務所に入り声を張ると、奥のデスクにいた提督が苦笑でそれを迎える。

「ハハハ、シャーク。おまえは相変わらずだな」
「ズリィよぉ!アタシばっか抜け者にしてさ!」

「まぁそう言うな。免許が取れないのでは、どうしようもなかろう?」
「むぅ…!」

シャークは怒ってるぞと頬を膨らませてみせるが、オレと提督は肩を竦めてみせるよりない。

そう、シャークも結月ちゃんもダンジョン能力者だが、保護者の同意が得られなかったため免許が取得できないのだ。つまり今持っているのは、特異能力者証のみ。コレには自身がダンジョン能力者だと示す効力しかない為、当然ダンジョンへの入場はできない。

つまりオレ個人が隠し持っているダンジョンならともかく、会社で管理を委託しているダンジョンに特異能力者証だけの人間を入れる訳には、いかないということだ。ここの植物ダンジョンにも特異迷宮対策省の職員が監視だか監督だかの名目で、2名ほど出張ってきてるし。

「で、そっちが電話で話していた者達か」

そうしてシャークをひとしきり宥めると、提督が初対面の者達に顔を向ける。

「ああ。雛形くんに、杉田という。コイツを鍛えるのにちょっと場所を借りるけど、邪魔にはならないとこでやるから。雛形くんはシャークといっしょに、今日は社会見学だな」

「わかりました」
「あ~あ、つまんねぇの」

「わかった。だがジャングはインストラクター事業の方にも、目を光らせておいてくれよ」

会社という形態に変わっても、オレ達のスタイルは変わらない。

誰も提督のことを社長とは呼ばず提督のままだし、オレの呼ばれ方もジャングのまま。ココではそんな呼ばれ方よりも、気さくな人間関係の方が優先なのだ。

「了解だ。ではみんな、移動するとしよう」

そうしてまたゾロゾロと事務所をあとにするのを、女性の事務員さんが笑いをこらえ見送っている。この人達も、田丸水産からの出向組だろう。

田丸水産とは、田所さんのお兄さんが経営している水産加工会社。そして特異産業は、そこの子会社というカタチになっている。

が、そこは有志が金を出しあい特異産業の株式をガンバって取得したので、株式比率的な面での決定権は提督が握っている。ただまぁだからといって、何があるとかは無い。田所さんのお兄さんは提督とは仲の良い、同期の友人だし。

でも現状親会社の田丸水産が経営不振でかなり傾いてるらしいので、そのあおりで特異産業の株式をよそに売っぱらわれても大丈夫なようにとの、保険ということだ。


「…お、やってるな。もういい匂いがしてるじゃないか」

そうして皆でゲートを潜って東屋の隣を行けば、白い割烹着を着たオバちゃんたちが料理を作っている。指導を受けるお客さん達への、昼食の準備だろう。このオバちゃんたちも、普段は工場で干物やつくだ煮なんかを作ってる田丸水産の従業員なんだろうな。

「ウン、なんだかお腹が減ってきちゃうねジャン氏」
「おいおい、頼むぞ智。トレーニングはこれからだからな」

「ウ、ウン。それはわかってるよ」

「あ!フィールドになんか建ってんジャン!なんだアレ?」

と、視界の先に視えてきたサバゲフィールドを指差し、シャークが声をあげる。

「ああ。アレが訓練用に設置した、アスレチックだな。オレも基礎工事は手伝ったぞ」
「いいなぁ!アタシも呼んでくれれば良かったのに!」

「いやいや、平日に作業してたんだから、おまえ学校だろ」
「江月さん。ココなら私たちが利用しても平気ですか?」

「お、雛形くんはアスレチックに興味があるか。まぁ遊んでて構わないが、指導を受けてるお客さんの邪魔にはならないようにな」

「わかりました。ねぇ行ってみようよ、ルリちゃん」
「お、ならもっと近くで見てみるか!」

「ハハハ、地形が変わってるから、転ばんようにな」
「わかってるって!」

そういうと、シャークと結月ちゃんはアスレチックに向け駆けて行く。ふふふ、そんな後姿を見送ってると、なんとも休日パパさんな気分だな。
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