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shopping street war 3

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『『『どぉぉおおん!!』』』

「え、なんやの今の音!?」

店舗の屋根の上から粘弾を放ちつつ商店街の入り口へと向かっていた静絵の耳を打ったのは、なんとも激しい衝撃音。そして伝わってくる震動と共に、商店街の入り口で大きな土煙があがっているのを目撃した。

「ウソ…、まさかボス級とちゃうやろな!?」

そう思うと瞬時に脳裏に浮かぶのは、巨大カギムシに苦戦した苦い経験。あの時は辛うじて助かったものの、下手をすれば3人ともそのまま死んでいたかもしれない。それはそれは厳しい戦いだった。

「けど…!」

だが商店街の入り口にある店に弟たちがいるとなれば、行かぬわけにはいかない。そこで静絵は危険を承知で、土煙がもうもうと立ち昇る先へと向かっていったのだった。

…。

「クッ…、これじゃ何も視えへん…」

先に進むと細かな土煙が霧のように辺りを包み、ひどく視界が悪い。それは解かっていた事ながらも、焦りを覚えていた静絵は思っていた以上の状態に臍を噛む。

「おい!なにもんやッ!!」

すると商店街の屋根の上を移動していたというのに、突然誰何の声と共に殺気をぶつけられた。

その声に驚きつつも声のした方を視ると、そこにはひとりの女性の姿。静絵と同様に、彼女もまた屋根の上にいたのだ。そして鋭い目つきでコチラを睨み、金ベラを逆手に持った腕の袖で口元を隠し、舞う埃を吸わぬようにしていた。

「え、まさかホルモン屋のおねえちゃん…!?」

その瞬間、静絵の脳裏には懐かしい記憶がよみがえる。

弟たちが生まれる前。まだ生活にも余裕があり、よく父に連れて行ってもらったホルモン屋。ホルモンに飽きてしまった静絵の為にアンコ巻きを焼いてくれたり、ハシャギ過ぎて火傷をした時に氷で冷やしてくれたのも、いま目の前にいるこの年上の女性であった。

「なんや、おまえウチのこと知っとるんかッ!?」

だが、そうとは気付かぬ相手からは、さらに鋭い殺気が放たれる。

そして辺りを覆っていた土煙が晴れてきたことで、静絵は自分がすっかり囲まれてしまっていることにもようやく気が付いた。

「「フギャギャ!」」
(え、周りにおるんは猫妖精…!?マズイ、ホルモン屋のおねえちゃんって、めっちゃ喧嘩っ早いんやった!)

ここで改めて、静絵は自身の失敗に気付く。

早く早くと急いでいたせいで、迂闊にも猫妖精たちのなかに飛び込んでしまったようだ。もし戦闘中にそんな真似をしたのなら、問答無用で襲いかかられても仕方ない。それに加えホルモン屋のおねえちゃんは、面倒見はいいものの一度怒らすと手の付けられない暴れん坊として、昔から有名だったのだ。

「ウチは…(ハッ!)」

しかしここで、おおきな問題に直面。

『『(じぃ~~っ…)』』

靴屋の二階から弟たちが外の様子を覗いていて、コチラにも気づき今まさにその目を向けていたのだ。もしここで顔をみせ正体を明かしてしまったら、弟たちにも自分がダンジョン能力者だとバレてしまう…。

「なんや?答えてみいッ!なにもんやオマエッ!」

(ああ…も~どないしょう!あ、そやッ!!)

と、ここで精神的ピンチに陥った静絵は、咄嗟に以前やった寸劇で覚えた見栄をきってみせる。それは弟たちに自分がダンジョン能力者だとバレない為の、苦肉の策。

「ナンダカンダと訊かれても!答えなかったり答えたりッ!天下御免の向こう見ず!ダンジョンセイバーここに参上ッ!!」

(うん、コォチも言いきったモン勝ち言うとったし。こ、これでだいじょうぶやろ…?)

そして相手の反応をみるため、チラと相手の表情を盗み見る。

すると、それを聞いた相手の眼からは、殺気が消えていた。成功だ。が、代わりに非常に可哀相な子をみるような憐みの眼差しを向けられていたのだった。

「…わかったから、もう行けぇ。ふざけとるとホンマに死んでまうぞ?」
「あ、ハイ…。ホンマごめんなさい…」

これには自身の秘密を守るためだったとはいえ、静絵も平謝り。

(アカン…。ウチも万智のノリとコォチのおかしなトコに、影響されとるんやろか…)

冷静になって考えてみれば、なんでこんなことを言ったのかと自分でも首を捻るより他ない。だがその思考は、また別の殺気が昂ぶって発せられたことで中断する。

「フギャギャ!」
「ハッ、冗談はしまいや!はよ行けッ!」

猫妖精が警戒の声をあげると、それと同時にその場の全員が後ろへと飛ぶ。すると次の瞬間には、屋根であった部分が無残に爆ぜ散ってしまう。長く鋭い尾が、凄まじい勢いでふり下ろされたためだ。

(あれは、アーマードリザード??)

静絵も跳んで位置を変えると、なんとも巨大な姿がみえた。商店街入り口のアスファルトが崩れ落ち陥没している。そしてそこから這い出てきたモンスターは、たしかに以前視たモンスターに似ている。

しかし、大きさが違った。

スタンピード中にみたアーマードリザードは、江月が車の下敷きにし焼き殺していた。しかしいま視界に存在するアーマードリザードは、恐竜そのものといった恐ろしいほどの大きさをしているではないか。

(でもッ…!)

こんな巨大なバケモノに暴れられたら、近くにいる弟たちが危ない。そう思うと静絵はアーマードリザードに向け果敢にも駆け込んでいき、その頭を蹴りつけると反転サマーソルトで強酸粘液を見舞う。

「ハァッ!」
「グゴアァ~ッ!」

そうして離れた屋根に着地した静絵に、また声が掛かる。

「なんや、けっこう戦えるやないか。でもクサくて滲みるんはやめい!ネコたちが戦えなくなるやろッ!!」

しかしそれは、痛烈なダメ出しを含むものだった。

「あ、ハイ!ごめんなさい!」
「でも動き封じるんはええ作戦や!せやからソッチに専念してくれるか!」

屋根の上から酸粘液の痛みに暴れるアーマードリザードを見据えつつ構えをみせるホルモン屋のおねえさんから、簡単な意思疎通で指示を受ける。

「はい!ほんなら攻撃は任せます!」
「おう!そっちは任せときッ!!」

「「「フギャギャ!!」」」

するとそういって腕まくりをしてみせるお姉さんに、それを真似てみせるヤンチャな猫妖精たち。こうして対ボス級アーマードリザードへの共闘が、ここに始まったのだった。
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