うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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return trip

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ふははは…!いま!伝説の秘宝サシスセソのうち、サ(【糖】)とシ(【塩】)とス(【強酸】)が我が手中に!コレにあとはセ(醤油)とソ(味噌)が加われば…無敵ッ!!


などと内心のテンション高めで甘酢を絡めたヨッちゃんイカ的なおやつを特大貝ヒモで作っていると、不意に電話が鳴った。

そんな03から始まる電話番号にどこからだろうと出てみると、特異迷宮対策省から。そして「スキルトーナメントに出場が決まってるのに、なんで通知見てないんですか!」と訳も分からず怒られたのだった。

「は、なんですとッ!?」
『いえだから!トーナメントは明日開催なんですよ江月さん!!』

滝山と名乗った男性が、電話口でやたらとデカい声をだす。なんと、スリーピングイヤー・イントゥザ・ウォーター。寝耳に水とはこのことだ。

「え~、でもそんなこと言われても、登録したメアドにはなんの連絡もなかったですよ?」
『いえ!そちらではなくアプリの案件依頼連絡の方です!』

「え、そっち!?」

いやそんなの現状じゃまったく機能してなくて、飾りみたいなモンだったじゃない。電子な冒険者ギルド的運営を視野に盛り込んだんだろうけど、法整備もぜんぜん進まなくて頓挫してたでしょ?

『ともかくですね!不当な理由でトーナメントを棄権しますと違約金の支払い義務が発生しますから!明日は必ず出場してくださいねッ!!』
「エェーーッ!?」

ちょ、違約金の話とか聞いてないしッ!

…。

「ん、どうしたんだジャング?」

通話を終えたオレが突然の事態に呆然としていると、いままでガジガジと無心に貝ヒモを噛みちぎろうとしていたシャークが訊ねてくる。

「いや、スキルトーナメントって、明日の開催らしいんだ…」
「え、マジかよ!じゃあ急いで東京に戻らなきゃジャン!?」

「うん、なんかブッチすると違約金発生するみたい。だから、急いで帰らないと…」
「ならこんなことしてる場合じゃねェな!アタシ万智に知らせてくるぜッ!!」

そういって飛び出して行ったシャーク。その後姿を見送りつつ甘酸っぱい匂いの充満する土間の台所で、オレはひとりゴチた。

「エェ~…。そういうのは普通のメールでおしえてよぉ~…」

……。

それからは疾風怒濤の勢いで、出発準備。

まずお爺さんと警察にも電話し、事情を説明し理解を求めた。いかんせん金欠なところに違約金などを請求されては、オレが破産してしまう。

なにせこちとら、定期収入のない無職なのだ。

幸いお爺さんからはすぐに理解を得られたが、超巨大猪の骨はいいかげん邪魔だから処分するようにとの命を受け、ダッシュでその巨大な骨を山へと捨てに行く。

ないとは思うが、アンデッド化で復活されても困る。

なので距離をバラかして捨てるのも手間で、結構な時間を食われた。なお若干ではあるもののタロのお宝として咥えられる程度の小さな骨と、畑で成長してる植物系モンスター・吸血人参たちの肥料として少量の骨粉が残された。

山ダンジョンで得た推定ゴーレムの足は、置いていく。

いやだって、邪魔だしクソ重いんだもん。それにソレ単体では、なんの役にも立たないし…。サイズは2メートル近くあり重さも結構なモノ。4人が東京に乗って帰る軽には乗せられないし、空間庫に入れておくにも魔力がかさむのでシンドイ。

それにいま空間庫には、目一杯にお手製万能回復薬が入ってるんだもん。

なわけでダンジョンで得た貴重なドロップではあろうと思うのだが、ゴーレムの足は新宅の裏手でブルーシートにくるまれプロパンガスの隣に置かれている。

そもそも全部揃えて合体させなきゃ完成しないアオシマ方式とか、マジで勘弁してほしい。

死ぬ思いをしてダンジョンクリアしても、無駄にダブったりした日にはきっと泣いてしまうだろう。仁菜さん瀬来さんとも話したけど、今後ダンジョンをクリアする機会があっても「ゴーレムコンプを狙うのはよそう」と、そう見解の一致をみている。

それほどアオシマ方式でかつガチャなんて、恐ろしい沼なのだ。

それならば単体で役に立ってくれる武器やアイテムを狙う方が何倍もいい。オレがダンジョンの宝箱で手に入れたアイテムはファイヤーワンドだけだが、ガス代が全くかからないので調理器具としてとても重宝してるし。

…。

そうして午後9時。なんとか全ての片づけを終え、全員が軽バンへと乗り込んだ。

「じゃあ、お爺ちゃん。また遊びにくるからね!」
「ああ万智、コレ持ってけ」

と瀬来さんがお爺さんから渡されたのは、段ボール箱いっぱいに詰められたキノコ。

「うわ、すごい量のキノコ!姿が見えないと思ったら、お爺ちゃんも山に入ってたんだ」
「キノコは食わせてやれんかったからの」

なんと、オレ達が出発するのに合わせ、お爺さんはキノコ狩りをしてくれていたのか。

「ありがとうございます、お爺さん」
「ああ、コーイチ。夜道に気をつけてな」

「はい。では、お世話になりました」
「「お世話になりました~!」」

「うむ、儂も楽しかった。またみんなして遊びにこい」

こうして、お爺さんとカエルの大合唱に見送られ走り出す。さぁ走れ軽バン、一路東京へ。おまえの走りに明日のオレの、経済事情がかかっているのだ。
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