うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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Mum's the word

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オレ達は、未だ瀬来さんのご実家に留まっていた。

というのもあんな事件があった後である。警察からまだ事情を訊くこともあるので、当面は移動を控えて欲しいと言われてしまったのだ。連中の取り調べは現在も行われているようで、それにより新たに逮捕される者や被害を申し出る者などが追加でポコポコと出てるらしい。

オレ?いや、オレは捕まってないよ。

敷地から一歩も出ず守勢に徹したおかげで、なんとか正当防衛を主張できた。襲いかかってきたヤツのその手と得物を、証拠隠滅できぬようブチグシャドッキングさせたのが功を奏したといえよう。

ま、それでも事情聴取のお巡りさんからは、奇抜な格好をした変なヤツだと思われたけど。

しかしそれも自主制作映画の撮影中に襲われたのだと説明し、ご納得いただいた。これには「ん~、まぁ祭りのときでもなきゃ、そんなイカれた恰好はようせんわなぁ」と、後からきた刑事さんも納得。

むぅ…。まぁその言い草はともかく、これもまたオレの奇抜過ぎる格好が、逆に功を奏した結果だ。

それにそもそも、瀬来さんのご実家は代々この地で農業を営んできた家系。そんな代々続く信頼と実績に加え、今のお爺さんはモンスター災害が起きてもなお、避難することなく独りで田畑を守っていたのだ。

なのでどっからどう見ても、そんな家に徒党を組んで襲撃しにくる方が悪いと一目瞭然。

な訳でオレ達は未だ、瀬来さんのご実家に留まっていたのだった。

…。

そして、遂にオレの空間接続型ダンジョン不法所持が、結月ちゃんにバレた。うん、これはバレたというか、バラさざるを得なかったというか…。

シャークと結月ちゃん。

午前中には農作業に従事し、午後には瞑想や山野を駆けまわるトレーニング。すると若いだけあって、まさにメキメキと成長。いやはや元々素養があったのは確かだろうけど、ほんとタケノコみたいにスクスクと。

しかしそうなると、せっかく培われた伸び代がもったいない。

伸び代充填理論は、培われた伸び代を生命エナジーで埋めることにより手早く高い成長が見込めるというモノ。しかしそれをせずそのまま放っておいたら、それはただの成長と変わらない。それでは成長できはするものの、伸び代充填理論を用いて成長した時より能力の上昇は劣りかつ時間を要するモノとなってしまう。

それは当然シャークも感じていて、「なぁ、そろそろ生命エナジーでレベル上げた方がいいんじゃないか?」という視線を頻繁にオレへと向けるようになっていたし。


…あとはまぁ、勘も頭も良い子なのでカニダンジョンを隠し通すのが難しくなってしまった為。

何の前触れもなく、山に囲まれた盆地に巨大カニなどの海の幸が突然登場する状況。これを毎回うまいこと説明するなんて、さすがに無理があり過ぎるだろう。

で、杓子定規で融通の利かなさには定評のある結月ちゃんに、なんとか反感を買わぬようやんわりと説明してみた。すると「教えてくれたということは、私にもそのダンジョンを利用させてもらえるんですよね」と、意外にもアッサリと承諾してくれた。

不思議に思いその点について訊いてみると、「家に発生したダンジョン。潰されてしまいましたけど、ホントいうと私は残しておきたかったんです」との返事がかえってきた。

なるほど、真面目な結月ちゃんにも、独占できるダンジョンはやはり魅力的だったというわけか。まぁモラルとか良識をきつく問われるんじゃないかって警戒してたから、そういう面ではホッとしたよ。

ま、シャークみたいなのと付き合うのにずっと杓子定規に構えてたら、それこそシンドイもんな。アイツってば納屋に積まれてた肥料をみても、「アレで火薬つくろうぜ」とか言い出すんだから。

…。

で、そんな秘密を共有した結月ちゃんとシャークには、カニダンジョン地下1層にて巨大ムール貝と戦ってもらう。

「ヤッ!」
「たぁ!」

武装は仁菜さんが帰省には荷物になるからとおいていったバスターソード風味なハイパーエクスカリバールに、オレが生み出した岩塩装備。それらを駆使し、ふたりは怪しく鎌を振りかざす巨大ムール貝に挑む。

チビですばしっこいシャークは鞭のように襲いくる貝殻鎌シェルシックルを軽快に躱し、幼い頃より合気道を習っていた結月ちゃんは的確にその軌道を読みとる。そして手にしたハイパーエクスカリバールで、貝殻鎌をみごと絡め取った。

すると巨大ムール貝は触腕が伸びているが為に貝殻を閉じられず、まず真っ先にその触碗が切り落とされる。それを背後で見守っていたオレが回収し、外の物干しに干していく。

そうして攻撃手段を封殺すると、あとはふたり揃ってタコ殴りだ。

「ハッ!たぁ!やぁッ!」
「うおぉ!」

貝殻が硬いので、さすがに手数はかかる。が、それが逆にいい訓練になるという寸法さね。さて、今夜もコレで、お爺さんにいい酒の肴を提供できそうだ。
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