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silent as a forest

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前回までのあらすじ。江月鳴人は悪の秘密結社バーフーンの魔の手に掛かり、その命を失った。しかし、精霊たちの力を借り正義の戦士ウンコマンとして復活したのだ。

「快便戦士!ウンコマンッ!!」

なんてな。まぁそれはともかく、あれから数日経つ。

が、やっぱりオレが死んだのは本当のことらしい。死んで、生き返った。そして助かったのは塩太郎とピクシークィーンのおかげ。さらにダメージを負っていた肉体に戻った際にも、すかさず介抱してくれたレッドスライムのおかげでもある。

こうしてオレは死の淵から蘇り、元気に過ごしている。

うん、そうなの。とっても元気。とてもついこのあいだ死んだとは思えないほどに。カラダも心もスッキリ軽やかだし、お通じだって快調。

なのでとにかく、なんの問題も無い。

(うむむ…。でもまぁ大穴牟遅神おおなむちのかみも死んで生き返る度に強くなったというし、人間も一度くらいは死んで生き返るくらいの方が良いのかもしれないな)

などとポジティブに考えてみる。

ともかく死んだことで何かがリセットされたみたいにして、心が軽い。目に映る景色も色鮮やかで、何を視ても世界が瑞々しく感じられる。

(もしかしたら、コレが塩太郎やピクシークィーンが視ている世界なのだろうか…?)

まぁそれをふたりに問うたところで、キョトンと小首を傾げられるだけだろうが。

ちなみに大穴牟遅神オオナムチノカミとは、大国主命がそう呼ばれるようになる前の呼び方。字ズラではちょっとどういう意味なのか解らないが、大穴の意はオオアナで大兄。つまりたくさんいる兄たち、八十神ヤソガミたちのことであろう。

さらにちなみになるが、八十柱いたから八十神な訳ではなく、数としてはそんくらい多いよ~ってなザックリな感じ。

ま、八百万と同じ解釈だから古代日本では、多い数を指す場合によく八を使っていたのだと考えられる。

だから八岐大蛇もおおよそで、実際にはその首の数が違っていた可能性もあるんだよな。

ともかく昔の日本人にとっては、八が数の最大値って価値観だったのかもしれない。でも8進数とも違うようだから、やはり日本人というのは感覚が独特だ。

まぁそれもともかくとして、続きの牟遅ムチは貴い神を表す尊称。なので大穴牟遅神といったら、大勢の兄を持つ尊い神という意味になる。うん、これならちゃんと意味が通じるもんな。

…。

と、そんなこんなで死んだにも関わらずオレはお気楽に過ごせている訳だが、その一方で瀬来さんはかなりお悩みのご様子。頻繁に地元の友人たちが訪ねてきては、いっしょに何処かへ出掛けていく。

でもそうして戻ってくると、しきりに溜息ばかりついているのだ。

しかしそれを心配して声をかけても、大丈夫だから心配しないでと返されてしまう。また東京に戻る事も、もうすこし待ってほしいと頼まれている。

山のモンスターも片付けた事だし、もうお爺さんも安心。

警護にはまだ育つ途中だけどテイムした吸血人参や林檎精霊がいるし、元気になったコカトリスもいる。

なによりお爺さんに忠実で賢いダンジョン能力犬タロもいてくれる。これによりご実家の守りはとても強固なものとなったし、山には鹿たちの救世主マサルもいるので、討ち漏らしたモンスターがいたとしても片付けといてくれるだろう。

でも、瀬来さん待ってほしいと言うのなら、オレは待とう。

人には自分自身の力でやり遂げねばならない事というのが、必ずあるもの。それに今、瀬来さんが懸命に取り組んでいるのだと感じたから。

ならばオレのやることは、遠くからその後ろ姿を見守ってあげること。そしていざという時には、その背をしっかりと支えてあげることだ。

故にここでは風林火山。

しずかなることライク・ア・フォレスト。厳しく父にしごかれる弟を木陰から見守る姉のように、そっと瀬来さんを見守るのだ。って、ここは接続詞のasを使って「fast as the wind.silent as a forest」の方が良いのだろうけど、まぁ気分よ。 


で、なんてことを考えつつ薪割をしてたら、シャークが迎えにきた。

「ジャングぅ、今日も滝行いくんだろ?そろそろ出かけないか?」
「お、もうそんな時間か。じゃそろそろ出かけるか」

「うん、なら結月のヤツ呼んでくるよ」
「ああ、そうしてくれ」

瀬来さんを待つ間、オレはこうしてシャークと結月ちゃんの相手をしている。

農業体験をさせたり、川や山にも連れていき、夏の思い出作りのお手伝い。無論、結月ちゃんからお願いのあった瞑想修行も続けている。シャークも結月ちゃんと一緒にいることで、以前よりも真剣に取り組んでいて良い兆候がみえる。

ホント。こんな若い時分からしっかりと鍛えたなら、いったいどれだけ強くなれるんだか。末恐ろしくもあり、非常に楽しみなふたりだ。
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