上 下
436 / 613

dead & reverse

しおりを挟む
目に滲みる太陽の光。そして、頬を撫ぜる涼しげな風。

「ヒィーヨ!ヒィーヨ!チチチチ…」
「あぁ、鳥の鳴き声…。音が、聞こえ…。そうか、生き返れたのかオレは…ごほっ!?ごえっふ!えっふッ!」

真っ白に燃え尽きることもなく、馬糞で足を滑らせ死亡したオレ。

しかしどうやら塩太郎とピクシークィーンの助けにより、無事復活ができたようだ。

(でも、視界が悪い…。それに身体も動かない??)

ただ眼はしっかりと開いているはずなのに、景色が映らずなにかの影が視界の大半を占めている。それに起き上がろうにも手足に痺れが走り、思ったように動かせない。

(ああ、そうか…)

どうも馬に蹴られたせいで、身体の方も脳内出血を起こしたりと色々不味い状態らしい。

だがそんな手も覚束無いオレに代わり、義足から這い出てきたレッドスライムが万能回復薬を口元にそえてくれる。ああ、いざという時の為にと、レッドスライムに預けていた万能回復薬が早速役に立ってくれた。

(スマン…。助かるよレッドスライム)

塩太郎とピクシークィーンだけでなく、まさに手足なって働いてくれるレッドスライムにも大感謝。

そうしてレッドスライムの介護を受け、回復薬を飲み下す。すると甘い液体が喉を通り過ぎ、胃の腑に落ちて待つこと5分…。視界を覆っていた影は次第に薄くなって消え、痺れていた手足にも力が戻ってきた。

「ハァ…。よし、どうやらもう大丈夫のようだな…」

ゆっくりと肘をついて状態を起こしてみても、カラダに痛みもないし視界がグラつくこともない。脳内に起きていた出血にも、万能回復薬がしっかりと効いてくれたようだ。

「おまえ、よくもやってくれたな」
「ブルル…」

オレのことをおもいきり蹴とばしてくれた黒い馬。

ソイツの尻を見上げつつも、身を転がしてエスケープ。また蹴られては堪らないので、蹴りの攻撃範囲からは逃れておく。で、そこからようやく起き上がろうとしていると、不平混じりにオレを呼ぶシャークの声が聞こえた。

「お~い!なにやってんだよジャングぅ、もう仔馬生まれちまったぞ~?」
「ああ、スマン。コイツの馬糞で滑って、転んでしまったんだ」

さすがについさっきまで馬に蹴られて死んでました、などとは言えない。うん、死因としてはとっても恥ずかしいし。そこで顔についてた血は手で拭って隠し、軽くおどけて誤魔化した。

「うわ、きったねェ!なんだよジャング、糞まみれじゃねぇか!」
「む…?あぁ、参ったなこりゃ…」

馬糞で転倒した上に盥の水をぶちまけ、さらにその上を転がったのだ。おもいっきりウンコまみれになってしまった。まぁでも、コレは致し方ないだろう。

そうだ。オレはたった今、ウンコマンとして復活したのだ。

「うへへ、ウンコマンだぞぉ~~」
「ぎゃ~~~ッ!おいばかっ!ふざけんな!糞まみれで近づいてくんなよッ!」

そうして緑美しい牧場に、シャークの汚い悲鳴が木霊したのだった。


……。


と、なんだかんだと色々あったが、仔馬は無事生まれオレはウンコマンとして復活した。

シャーク達の話によれば、お爺さんは途中で詰まってしまった仔馬をもう一度母馬の腹に押し込め、出産のやり直しをさせたそうな。うむむ、なんという荒業。でも道理で難産だという話だったのに、あっさり生まれた訳だ。

しかしそれも、人生経験豊富なお爺さんなればこそ。他の者ではこうはいかなかったろう。

帰りの車中でもシャークと結月ちゃんは、その様子を興奮気味に語っていた。ふたりも女性だけあって、出産については思う事があったのだろう。そんなふたりがいい経験のできたのなら、幸いだ。

で、ウンコマンとして復活したオレはというと、ステータスに変化があった。

    現在   前回
レベル  19    19
種族:  人間??
職業:教師    教師

能力値
筋力:   740  740
体力:   753  753
知力:   671  671
精神力:  702  702 
敏捷性:  638  638 
運:    712  712 
やるせなさ:234  234

加護:
【塩精霊】奇御霊・【小妖精女王】幸御霊・【赤粘性生物】準奇御霊・【空間猿】眷属・【格闘蛙】眷属・【大蛞蝓(オオナメクジ)】眷属

技能:
【強酸】2・【俊敏】2・【病耐性】7・【簒奪】・【粘液】7・【空間】6・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5・【図工】・【蛆】2・【女】・【格闘】6・【麻痺】4・【跳躍】9・【頑健】8・【魅惑】

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】・【蟲女王】・【女殺し】・【ムシムシフレンズ】・【ダンジョンクリアマン】


レベルはアップもダウンもしていないので、能力値的な変化はない。

ゲームのようなデスペナルティによる弱体化は、起きなかったようだ。ただ日々のバイオリズムなんかで微妙な上下動はあるのだろうけど、能力値のカウントはレベルに変化があった時だけのよう。なのでホントのところはまた数値が変化するまで解らない。そして同様に加護や技能なんかも変化なし。

だが、どういう訳か種族が『半妖人間』となっている。

半分怪しい、と書いて半妖…。

そういう意味なのだろうが、これ如何に??オレは、人間をやめてしまったのだろうか?それとも人間とついてるから、まだ辛うじて人間なのだろうか?

(う~む、解らん…)

ウンコまみれになった汚れは川に飛び込み流してきたが、まだ匂うとのことで一番最後にまわされた風呂に浸かり、独り考えてみる。

五右衛門風呂に浸かった身体にはなんら変化は無く、別に角や尻尾も生えていない。ジッと動かぬことで静めた湯に映る顔も、口が裂けたり目玉が増えたりもしていない。

「ふ~む。どっからどう見ても、変化はない…よな?」

種族名が変わったことには、面喰った。が、これならば女性化した時の方が、よほど衝撃的だった。

(ということはアレか。この変化は縁的なことが要因か?)

まずもってオレは、塩の精霊である塩太郎や妖精であるピクシークィーンと魂の共有化をしている。な感じで互いに魂を分け合いっこをしてるので、そういった意味ではオレもまた精霊であり妖精ともいえる。

さらにいえば、妖怪である鬼婆娘やニホンオオカミ娘がオレの嫁であるため、同じ一族になったという意味でいえば、オレも妖怪的な方面に籍があってもおかしくはない。

「ふ~む…、そういったアレコレが総じた結果、今のオレを表現するにふさわしいのが半妖人間という種族名なのか?」

ただ、復活した時はダメージを負っていたからよく解らなかったが、こうして落ち着いてみるとなんとなく変化は感じる。

それは大きな変化ではないものの、わずかではあるが視界がクリアでスッキリとした感じ。それは眼鏡を新調した時のような気分にも、どこか似ている。

「うむむ…。どうもスッキリしないが、気分はすごくスッキリしてるんだよな~。なんだろうコレ…」

ま、以前よりも、より塩太郎とピクシークィーンの感情の波がハッキリと感じられる。

だから、コレはきっといい事なのだと前向きに受け止めておこう。うん、とりあえずそれ以外には、どうしようもないもんな。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...