上 下
431 / 613

training

しおりを挟む
あれから40年。







て、これはもういいか。あれから3日後、結月ちゃんから合気道の基礎を学んだマサくんユキくんは大阪へと帰っていった。

ふたりは大好きなお姉さんの声援もあって、それはもう発奮し合気道に臨んでいた。

教えていた結月ちゃんからも「うちの道場に通ってる子達より覚えがいいですね」とお褒めの言葉を頂いていたし、筋もいいのだろう。うむ、覚えがいいのは仁菜さんと同じか。さすがは姉弟。それに双子は実力の同じ相手が練習相手なので、より上達も早いと思う。

そして仁菜さんもふたりを送り届けるのといっしょに、一度親に顔を見せてくるという。

そんな訳で3人は大阪に向け旅立っていった。それも電車やバスを乗り継ぐという、のんびりとした旅だ。きっと3人のいい思い出になることだろう。

ま、その支援の為にまたオレの財布は軽くなってしまった訳だが。でもその程度の金など、ちっとも惜しくはない。

なにせ仁菜さんには、返しきれぬほどの恩があるのだから。

そう、今オレがこうして楽しい時間を過ごせているのも、あの日あの時あの場所に、仁菜さんという存在がいてくれたからこそ。

オレと瑠羽が破局し、3人とも決別しようとしていた時。

仁菜さんは突如その場で自身の秘密を打ち明けるという、普通では考えられない機転で救ってくれたのだ。これにより重かった空気は一気に和み、秘密告白大会の様相を呈すことで、オレ達が腹を割って話す環境を整えてくれたのだ。

うん、あれは今でもすごいと思う。

あんなことオレには到底できっこない。まさに洞察力と人間の機微に長けた仁菜さんならではの行動、といえるのではなかろうか。

それでも後から気になって、どうしてあの時あんな告白をしたのかと訊いてみたら、「ふふ、あん時はコォチが女性になるなんて、とんでもないことになっとったやろ?ほんならウチが今まで誰にも話せんでいたこと打ち明けても、慰めと思ってもらえるやんか?きっとウチも、誰かに解かっとって欲しかったんやなぁ~」と、話していた。

うん、言い難いけど誰かに聞いて欲しいことって、あるもんな。

「ウチ男の人って絶対好きになれんのよ」なんて言い出されても、普通なら「なんで急にそんな重い話すんの?」とか思われちゃうし。オレの「よく人の死ぬ瞬間を目にします」ってのも、はたからソレ聞いたらおもいっきり「げ、何言ってんだコイツ!?」だし。

ただ、そういうのって当人にとっては結構ツライもんだ。

話せば周りから変に思われるのは間違いないからさ。なかなか吐き出せないで溜まっちゃうんだよな。そういった意味ではオレもまた怪談話にかこつけて吐き出せたので、だいぶスッキリした気分ではある。

…。

(よ、…と、ほ!)

そして、薪割の合間にも鍛錬を欠かさないオレ。今日は薪を何本も地面に立てて、その上を達人の足捌きで渡り歩くという鍛錬を行なっていた。

(ふふふ、いい調子だ。こうしていると、自分が功夫の達人にでもなった気分だな…)

薪は地面にただ立てただけなので、気をつけて体重移動を行なわなければ簡単に倒れてしまう。でも全く倒さずにできるようになると、これが物凄く気分良いのだ。

と、そこへ朝昼兼ねた食事のあとで仮睡をとっていたシャーク達が戻ってきた。

「なにやってんだジャング?お、面白そうだな!アタシもやる!」
「あ、おい待てシャーク!」

と、制止も聞かずに小走りに駆けてきたシャーク。薪の上に飛び乗ったもののカクリとズッコケ、盛大に尻もちをつく羽目に。

「うわぁ!?ふぎゃッ!!」
「きゃ!るりちゃん大丈夫!?」

「大丈夫かシャーク?だから待てって言ったろうに…」
「うぅ、いててぇ…。なんだよコレ?埋まってなかったのかよ~」

倒れた薪用の丸太をその手に拾い上げると、シャークは口を尖らせながらぼやいている。

「これはそういう鍛錬だ。丁寧な体重移動を心掛け、より精緻な体の動きができるようになるというな」

そう、カンフー映画の修行シーンに胸を熱くし、観終ったあとで真似してみてもてんで上手くいかなかった幼少期。そんな幼い頃の思い出がふと蘇ってきて「あ、今ならアレ出来るんじゃね?」と試してみたらサクッと出来た次第。

すると楽しくて、つい止まらなくなってしまっていたのだ。

「ハハハ、どうだ。雛形くんも挑戦してみるか?あ、ところで瀬来さんの姿が視えないが?」
「いえ、今はそれよりも瞑想修行の方を。あと万智さんは、地元の方と電話で話してるみたいでした」

「ふむ、そうか…」

最近、といってもここ2・3日の話だが、瀬来さんの様子がちょっとおかしい。

どこかボーっと上の空だし、頻繁に誰かしら地元の友人が訪ねてきては、そんな友人たちに食料を渡している。もちろん食料を渡すのにはオレやお爺さんに了承もとっているわけで、その点については問題ないのだが。

でも「なにか悩み事?」と訊いても「うん、ちょっとね。でもそんなに心配しないで」と毎度答えをはぐらかされてしまう。


「では江月さん。そろそろ瞑想の指導をおねがいします」
「ああうん、そうだな。では始めるとするか」

「えぇ~!アタシはこっちの方がいいなぁ!」
「こら。そんなことばかり言ってたら、おまえいつまで経っても気の練り方が学べないぞ?」

「ちぇ~ッ、しょうがない。じゃあ、やるかぁ~」

双子の兄弟への合気道指導。

意外にもその対価として結月ちゃんが望んだのは、オレの瞑想指導だった。ピクシーともっと遊ぶのをおねだりされるかと思ったが、そこはやはり武道家の孫か。オーラパワーによる遠当てを目にし、自身でも体得したいと思ったようだ。

ふむ、これはもしかして女子高生の中に眠る武道家の魂を、オレが目覚めさせちゃったかな?

「(うふふ…、私も飛べるようになったらピクシーちゃんたちと…。うふ、うふふふ…)」


ああうん…。どうやらそれは、オレの勘違いだったようだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...