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覚悟
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頭上に抱えていたグレートアントの頭をなんとか投げ飛ばし、体当たりを仕掛けてきたグレートアントの尻を両手で押し返す。すると腹から引き抜かれた尻の先端には、湾曲した鋭い針が。
そして引き抜かれたその先端からは、どぷりと黄色みがかった液体が飛沫散る。
(クッ、この焼けるような痛みは…、毒か!)
「コイツら毒を持ってるぞ!気を付けろ…ぐぅっ!」
なんとかふたりにその情報だけは伝えようと口を開くも、激しい痛みと毒のせいか身体がふらつく。さらには耐えきれず、あろうことか敵前でその場に膝をついてしまう。
「江月さんッ!?」
「コォチ!!」
そういえば、蟻と蜂とは近縁種。
蜂が進化し、生活圏を地下に求めたのが蟻だった。だから種類によってはそのまま毒針を残している蟻がいるということを、すっかり忘れいた。
(いかん…、どんどん眩暈が酷く。それに集中もできず魔力が…)
『がしゃん!ドンガラララ…!』
と、突然近くでおかしな音が。すると空間庫に入れておいた筈の荷物が、視界の端で山になっている。
(まさか?魔力が練れず空間庫すら維持できなくなってしまったのか…!?)
しかしその間にもさらに気分が悪くなり、激しい吐き気と眩暈に襲われる。そのうえ、そこへまた容赦なくグレートアントが突っ込んできて、押し倒されたうえに圧し掛かられてしまった。
(くそう…!相手がシロアリだったら、蟲王の権威が通用したかもしれないのに…)
喰らいつこうと襲いくる鋭い顎を押し返しながら、力の入らない腕でどうにか抵抗を試みる。眼前にはスクラップを粉砕する無骨な機械みたいな顎が迫り、オレを飲み込もうとガシャガシャと不気味な音を立てる。
オレは…、オレはまだ死んでも良い。
覚悟のうえだ。ダンジョンに出会ったことで今までの報われず、不遇に感じていた生活から抜け出せた。そしてわずかな時間だったとはいえ、好き放題に生きられたのだから…。
だが彼女たちはどうだ。
瀬来さんも仁菜さんもまだまだこれから。若く、美しく、楽しく過ごせる人生がこの先もっとたくさん残っている。それをオレが倒れてしまったことで、道連れにしてしまうことなど絶対にあってはならない。
(そうだ、彼女たちだけは何があってもッ!!)
「むおぉぉぉおおお~ッッ…!!!」
気合と渾身の力を籠め、迫るグレートアントの顎を押し返す。
このままやられる訳にはいかない。だが無情にも腕には思うように力が入らず、遂にグレートアントの顎が降ってきてしまった。
だが。
『ヒュン!(ちゅぱん…!)』
変な空気の流れを感じたと思ったら、急に圧し掛かっていた重みが消えた。そしてオレの頭に嚙り付いたグレートアントの顎には、痙攣でもしているような震えが走りまるで力が入っていない。
『ガカカカカ…ッ!』
不思議に感じ見上げると、そこにはいつの間にか姿を現していたピクシークィーンの姿。そして真っ直ぐ伸ばしたその手には、魔力が激しく渦巻いた真空を纏っていた。
(ク、クィーン…。おまえが蟻の首を刎ねてくれたのか…?)
「……(すん)」
頭を失ったグレートアントの胴体は、まるでブレイクダンスでもするかのように七転八倒。首なしダンスで暴れながら他のグレートアントらを巻きこみ、混乱を生じさせている。
そうか、ありがたい。オレのピンチにピクシークィーンが助太刀してくれたのか。
(ならば頼むクィーン!ピクシーたちとこの蟻を防いでくれッ!オレはその間にボスを仕留めに行くッ!!)
そう懐からピクシー達のカードを取り出すと召喚を念じ、魔力の練れないオレに代わってピクシークィーンが魔力を注いでくれる。
「……(すん)」
「「「ぴぴぴぃ~~ッ!!」」」
するとそれにより召喚されたピクシー達も意を汲んで、すぐに濃密な魔法の弾幕をグレートアントどもに向け張ってくれる。
「江月さん!江月さんッ!」
「コォチ!だいじょうぶなん!?」
ああ…。ふたりが目の前の敵と戦いながらも、心配しオレの名を声が枯れる程に呼んでくれている。
(そうだ、彼女たちのためにも!)
「ボスを倒す!もうしばらくだけ耐えてくれ!」
それだけ口にすると、なんとか山になっている荷物へと這っていく。そうしてガソリンのたっぷり入った20Lジェリ缶を両脇に抱えると、マスクをオープンし発煙筒を口に咥えた。
そうだ。毒で魔力も力も出ないオレには、もうこの方法でしか戦う術がない。
(そして…、移動手段はアイツだ!)
「マサル!オレを背負ってボスまで跳べッ!!」
突然現れ、一斉に魔法の弾幕を敵へと浴びせているピクシー達に驚いているマサル。その背中にしがみつくと、ボスに向かって跳べと頭を目標に向けさせた。
そうだマサル。このポカの始末は、オレといっしょにつけてもらうぞ!!
そして引き抜かれたその先端からは、どぷりと黄色みがかった液体が飛沫散る。
(クッ、この焼けるような痛みは…、毒か!)
「コイツら毒を持ってるぞ!気を付けろ…ぐぅっ!」
なんとかふたりにその情報だけは伝えようと口を開くも、激しい痛みと毒のせいか身体がふらつく。さらには耐えきれず、あろうことか敵前でその場に膝をついてしまう。
「江月さんッ!?」
「コォチ!!」
そういえば、蟻と蜂とは近縁種。
蜂が進化し、生活圏を地下に求めたのが蟻だった。だから種類によってはそのまま毒針を残している蟻がいるということを、すっかり忘れいた。
(いかん…、どんどん眩暈が酷く。それに集中もできず魔力が…)
『がしゃん!ドンガラララ…!』
と、突然近くでおかしな音が。すると空間庫に入れておいた筈の荷物が、視界の端で山になっている。
(まさか?魔力が練れず空間庫すら維持できなくなってしまったのか…!?)
しかしその間にもさらに気分が悪くなり、激しい吐き気と眩暈に襲われる。そのうえ、そこへまた容赦なくグレートアントが突っ込んできて、押し倒されたうえに圧し掛かられてしまった。
(くそう…!相手がシロアリだったら、蟲王の権威が通用したかもしれないのに…)
喰らいつこうと襲いくる鋭い顎を押し返しながら、力の入らない腕でどうにか抵抗を試みる。眼前にはスクラップを粉砕する無骨な機械みたいな顎が迫り、オレを飲み込もうとガシャガシャと不気味な音を立てる。
オレは…、オレはまだ死んでも良い。
覚悟のうえだ。ダンジョンに出会ったことで今までの報われず、不遇に感じていた生活から抜け出せた。そしてわずかな時間だったとはいえ、好き放題に生きられたのだから…。
だが彼女たちはどうだ。
瀬来さんも仁菜さんもまだまだこれから。若く、美しく、楽しく過ごせる人生がこの先もっとたくさん残っている。それをオレが倒れてしまったことで、道連れにしてしまうことなど絶対にあってはならない。
(そうだ、彼女たちだけは何があってもッ!!)
「むおぉぉぉおおお~ッッ…!!!」
気合と渾身の力を籠め、迫るグレートアントの顎を押し返す。
このままやられる訳にはいかない。だが無情にも腕には思うように力が入らず、遂にグレートアントの顎が降ってきてしまった。
だが。
『ヒュン!(ちゅぱん…!)』
変な空気の流れを感じたと思ったら、急に圧し掛かっていた重みが消えた。そしてオレの頭に嚙り付いたグレートアントの顎には、痙攣でもしているような震えが走りまるで力が入っていない。
『ガカカカカ…ッ!』
不思議に感じ見上げると、そこにはいつの間にか姿を現していたピクシークィーンの姿。そして真っ直ぐ伸ばしたその手には、魔力が激しく渦巻いた真空を纏っていた。
(ク、クィーン…。おまえが蟻の首を刎ねてくれたのか…?)
「……(すん)」
頭を失ったグレートアントの胴体は、まるでブレイクダンスでもするかのように七転八倒。首なしダンスで暴れながら他のグレートアントらを巻きこみ、混乱を生じさせている。
そうか、ありがたい。オレのピンチにピクシークィーンが助太刀してくれたのか。
(ならば頼むクィーン!ピクシーたちとこの蟻を防いでくれッ!オレはその間にボスを仕留めに行くッ!!)
そう懐からピクシー達のカードを取り出すと召喚を念じ、魔力の練れないオレに代わってピクシークィーンが魔力を注いでくれる。
「……(すん)」
「「「ぴぴぴぃ~~ッ!!」」」
するとそれにより召喚されたピクシー達も意を汲んで、すぐに濃密な魔法の弾幕をグレートアントどもに向け張ってくれる。
「江月さん!江月さんッ!」
「コォチ!だいじょうぶなん!?」
ああ…。ふたりが目の前の敵と戦いながらも、心配しオレの名を声が枯れる程に呼んでくれている。
(そうだ、彼女たちのためにも!)
「ボスを倒す!もうしばらくだけ耐えてくれ!」
それだけ口にすると、なんとか山になっている荷物へと這っていく。そうしてガソリンのたっぷり入った20Lジェリ缶を両脇に抱えると、マスクをオープンし発煙筒を口に咥えた。
そうだ。毒で魔力も力も出ないオレには、もうこの方法でしか戦う術がない。
(そして…、移動手段はアイツだ!)
「マサル!オレを背負ってボスまで跳べッ!!」
突然現れ、一斉に魔法の弾幕を敵へと浴びせているピクシー達に驚いているマサル。その背中にしがみつくと、ボスに向かって跳べと頭を目標に向けさせた。
そうだマサル。このポカの始末は、オレといっしょにつけてもらうぞ!!
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