うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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欲張り犬

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今日は山へは行かずに、庭で燻製肉作りに勤しんでいる。

というのもマッシヴカンガルーこと略してマサルが、オレ達についてきてしまったから。コイツの様子をみる為にも、しばらくは目が離せないという訳。

だが一応ながらマサルは大人しくしている。

昨晩は納屋で寝て、何か物を壊したり人に危害を加えるでもなく今も瀬来さん家の庭をウロウロ。それでも被害が全くなかったという訳でもなくて、漬物にしようと干していた野菜をマサルがぜんぶ食ってしまって、お爺さんが怒ってたけど。

「おいマサル、庭が広くて良かったな。都会だったらこうはいかないぞ」
「ふっしゅ、むっしゅ…」

遭遇した時と変わらず、相変わらずふてぶてしい態度なマサル。が、それでも攻撃的な素振りはみせなくなった。

まぁ瀬来さんにボッコボコにされたあとで、オレにもまた張り倒されたからな。

動物の本能で「コイツ等にケンカ売っちゃヤベェ」とでも理解できたんだろう。なんにせよ物理言語による話し合いがうまくいったようで、なによりだ。

しかし動物でもダンジョンに入れば、ステータスを取得し能力者になれるとは…、だ。

この情報、動物愛好家には朗報に違いない。熊とか虎を操るサーカスの猛獣使いなんか、それこそ本物のビーストテイマーになれちゃうじゃない。うむ、これならばリアル桃太郎だって夢じゃない。まぁ猿・雉・犬といったパーティー編成が強いかどうかは不明だが…。

でもその一方でお爺さんはマサルに面白人参が食われたらかなわんと、赤吸血人参の周りへ柵を作りに行った。

物言わぬ作物をつぶさに観察し、その状態を見事に把握するスーパー農戦士。

そんなお爺さんからみてもリアクションをしてみせる植物系モンスターの世話は楽しいらしく、ちょこちょこと様子を見に行っては、なにかれと世話を焼いている。うんうん、関係も良好のようで、お爺さんにも新たな楽しみができたようでなによりである。


……。


「あ~、もぅやんなっちゃう…!」

そうして肉の燻される香りを愉しみながら燻製窯の番をしていると、昼食の片づけを終えた瀬来さんがふくれっ面で戻ってきた。どうしたんだ?お昼はみんなで、愉しくお庭でバーベキューをしていたというのに。

「どうしたの、瀬来さん?」

声をかけると、瀬来さんもオレの座っていた丸太に腰をおろす。

「音夢の奴…、私の友達から電話番号聞き出したみたいなの」
「ああ。それで食事中にも着信音が鳴ってたんだ…」

「アイツ…ほんと、しつこいんだから」
「そうか、それは困りものだな」

ふぅむ。音夢くんのことはほとんど知らないが、当人を見た感じや瀬来さんからの話から察するに、かなりの自信家らしい。きっと「俺は凄い。だから俺から離れていく女なんて、まずありえない」くらいの短絡思考なんだろう。

でも腕へし折られてる時点で、はげしく嫌われてるって気が付いただろうに。それとも腕を折られたことで、逆に固執するようになってしまったのか…?

ともあれ現段階で、オレからすすんで何か行動するのも如何なものか。

今はオレと付き合っている。もしくは瀬来さんにはいま東京で付き合っている男性がいるから諦めろと言って、耳を傾けてもらえるだろうか。…う~ん、そんなことを言うと、なんか余計ムキになって突っかかってきそうでもある。

若い時にはどんどんと体が大きくなり力も増す成長期の万能感から、いろいろと調子に乗ってしまいがちな時期でもある。が、お山の大将にまでなると、その自惚れもかなりのモノになってしまうのかもしれない。

でも音夢くん。仲間も大勢いるんだし、口やかましいけど好いてくれている子もいるんだから、その子と仲良くして、内輪で楽しくやってりゃいいのに。それでも飽き足らず瀬来さんにまでしつこくするのは、頂けないな。

それが行き過ぎると、肉を咥えた犬が水面に映った自身の姿をみて…なんてことになりかねないぞ。

「なにか助けが必要な時は、遠慮なく言うんだよ瀬来さん」
「うん、ありがとね江月さん」

うん。こういう色恋沙汰でもっとも宜しくないのは、オレまで頭に血を登らせてしまうこと。

新旧恋人がカッカと対立し、「わたしのためにケンカはやめてッ!」なんてのは漫画やドラマなら絵になるだろうけど、近所で実際にやってたらしょうもないただの痴話喧嘩。故に目上なオレとしては、一歩ひいた大人視点で動向を見守るのが吉とみた。

「でも江月さんて、なんでもカンタンに作っちゃうわよねぇ」

瀬来さんは嫌な話題を変えるように卵型の大きな燻製窯を見上げると、そんな感想をもらす。

「ああ。まぁこれくらいはスキル【粘液】と【図工】があればね」

これらのスキルとオーラパワー念動を用いれば、土窯なんかもカンタンに作れる。

そんな風に頭頂部からゆるく煙をふかせる燻製窯をふたりで眺めていると、エンジン音が近づいて来て門の向こうでクラクションが鳴らされた。

お、なんだろ。どうやらまた、笹山さんがやって来たようだぞ。
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