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鬼2
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緑豊かな自然のなか。射しこむ木漏れ日のもと、心地良い涼しさと気心の知れた者同士ということもあって、会話は弾む。
「そういえば鬼の正体は異人さんやった。っていうのならうちも聞いたことあるで」
仁菜さんは背後の樹にもたれたまま、伸ばした脚を組み替えて顎先に手をやる。うんうん、今日も真紅の紅蠍スーツが良く似合っておいでですね。
「そうだね、それが一番有力な説だ。戦国時代でも日本人の平均身長は、140センチ前後だったといわれてる。だからそんな日本人の前に身長180を超える大柄な白色人種が現れたら、当時の人には、まず同じ人間とは思えなかったろう」
しかし水筒のコップを持った瀬来さんが、それを口にしつつも疑問を口にする。
「ん~、でもさ。難破した外国の人達を助けたって話も残ってるでしょ?外国人でも、別に頭に角があるわけでもないし。だから昔の人だって、外国人と鬼の区別くらいついたんじゃない?」
「お、それもいい質問だ。確かに欧米人は鬼ではないから、角はないよね。でもそれには角ではなくて、距離や日数が大きく関係していると思うよ」
まぁ鬼畜米英なんていってた時代も、あるにはあるが。
「距離と日数?」
「うん。例えば日本の近海で難破した外国人の乗る船があったとしよう。それを陸地からでも目視できていたとすれば、文明の利器である船に乗っている時点で、初めて目にする相手でも鬼など魑魅魍魎の類とは考えないよね」
「ん~、そうかな」
「ああ。人間は理解できないモノに恐怖を抱く。だから船という理解できるモノに乗っている存在なら、多少見た目が変わっていても自分達と近い存在だと感じ取れるだろう」
うん。これがもし怪しげな雲やら光る円盤にでも乗っていたのなら、話はだいぶ違ってくるだろうけど。
「じゃあなんで難破した外国人を、鬼と思っちゃったの?」
「そもそも日本に外国人が流れ着くようになったのは、おそらくは大航海時代の頃だったはず。ヨーロッパの各国が世界に向け、お宝求めて冒険や探検のための船をたくさん出していた時代だね。そんな時に黄金の国ジパングと呼ばれる前の日本は、当然未知の領域。海図もなければ潮の流れも解らない海を進むうちに、船は荒天に見舞われ沈没。乗組員たちは、哀れ荒れる海に投げ出されてしまう」
「GPSも無線もない時代やったら、陸地も見えんとこで海に放り出されたら不安やったろうねぇ」
「そうだね。救命ボートがあればまだいいけど、荒天時に巧いことそういったボートが降ろせるとも思えない。大抵は沈没した船の破片にでも掴まって、長いこと海を漂流する羽目になるんじゃないかな。…すると遮るもののない状態でずっと日に焼かれ、皮膚は真っ赤。服はすぐ脱いだだろう。着たままでは重くて溺れてしまうからね。そうして日が経つにつれ、髪は潮焼けでグシャグシャ、髭もボーボー。そうして運よく日本の浜に流れ着いた頃には『ギャー!鬼じゃ、鬼が出た~ッ!』なんて騒がれるくらい、すっかり赤鬼そっくりになっていたというわけさ」
「え~…、そう言われればそうかもしれないけど。そんなにうまくいく?」
まぁあくまでも可能性のひとつとして、仮定の話だよ。でもよく言われる鬼の色って、赤鬼・青鬼・黒鬼だよね。これにもなにか意味があると思わない?」
「フフン。うちはもう解ったから、なにも言わんとこ」
「え、シズもう解ったの!?」
「ん~、赤鬼が日に焼けたんだとすると…あ、青は病気のひと!?」
「正解。外国人を一度も見た事のない日本人が、病気や怪我で体調不良の白色人種を見たなら、青い肌をしている鬼と思ってもおかしくはないよね。でも同じ黄色人種であれば、言葉が通じなくても見た目が似ているから同じ人間と識別できたはずだ。だから今も鬼といえば赤鬼青鬼で、黄鬼や緑鬼とは言わないだろ?」
まぁ陰陽道的には黄鬼も緑鬼もいるとされているが、なんの知識もない村人クラスの一般人は見た目で判断するよりない。緑は青の近似値として、流れ着いたのが黄色人種なら言葉が通じなくてもまず鬼とは思わんだろう。そして黒鬼については、うん、これは触れずにスルーするのが賢明か。
あ、そういえば鬼婆娘って何鬼になるんだろ?妖力纏いの鬼婆スーツは青黒い肌の色してたけど、鬼婆娘自身は普通の肌色だったしな。う~ん、ようわからん。
「改めてそう言われるとそうやねぇ。ちゅうことは桃太郎が鬼退治しにいったんも、実は異人の海賊退治やったのかもしれんね」
「伝承をより現実的に捉えるなら、そうだろうね。桃から生まれたという謂れも聖なるモノから生まれたというヒーロー性を持たせる後付で、もとは違うストーリーだからね」
「え、話が違うの?」
「そうだよ瀬来さん。今ひろく親しまれている桃太郎のお話は、お子様向けにアレンジされたモノなんだ。だから元は拾った桃を食べて元気になったお爺さんお婆さんが、したも若返って致した結果、生まれたのが桃太郎だから」
「え~ッ!それで桃を拾ったら、すぐに赤ん坊が生まれたっていう急展開なんだ。ちょっとハショリ過ぎじゃない!?」
「でも赤ん坊がどうやったら生まれるのかなんて小さい子に説明するんは、難しいやない。それだけで騒ぐ子もおるやろし。万智も瑠羽ちゃんのマンションでそないなチビッ子にたかられて、辟易しとったやろ」
「う…ああ、あの子達ねぇ…」
そういえば瑠羽ん家のマンションでマセガキズに囲まれた瀬来さんは「胸おっきー!」とか「赤ちゃんいるの?」などのセクハラ発言に晒されてたっけ。ま、お子様でもエッチなことに異常な関心を示すマセガキはどこにでもいるもんな。母親呼び捨てにする超メンタルタフネスな子とか。
「ま、ほかにも日本の鬼として有名な酒呑童子も、最後は武士である源頼光に討たれたというし。鬼のように悪逆の限りを尽くしていた盗賊、というのが桃太郎の出生みたいに端折られて鬼と呼ばれた可能性も否定できないね。ヒンドゥー教の最高神シヴァの神妃デーヴィーが激オコプンプン鬼嫁チェンジした姿も鬼神カーリーとされたり、妖怪の牛鬼や鬼火なんて人の姿でないモノすら鬼としてくくられてるから、それこそ神から妖怪まで。鬼に関しては、ホントよくわからないよ」
「激オコプンプン鬼嫁チェンジって…、江月さんて時々へんな言い回しするわよね」
う、つい興がのって余計なことまで口走ってしまった。こんなところで得意分野ではつい饒舌になってしまうというオタの呪いが発動してしまうとは…。
「まぁいいわ!たとえどんな鬼が出ようとも、この剛腕の万智ちゃんの敵じゃないから!!」
膝立になり、ガッツポーズで空を見上げてみせる瀬来さん。バトルスーツの見映えも手伝って、なかなかに勇ましい姿。
すると不意に、遠くからなにか大きく重たいモノが草木をしだきながら近づいてくる音が。それに警戒し息を殺して身構えると、鬱蒼とした藪の向こうにふたつのトンガリをもつ頭の影がチラリ。
え、もしかして瀬来さんてば!おもいっきりフラグおったてちゃいました!?
「そういえば鬼の正体は異人さんやった。っていうのならうちも聞いたことあるで」
仁菜さんは背後の樹にもたれたまま、伸ばした脚を組み替えて顎先に手をやる。うんうん、今日も真紅の紅蠍スーツが良く似合っておいでですね。
「そうだね、それが一番有力な説だ。戦国時代でも日本人の平均身長は、140センチ前後だったといわれてる。だからそんな日本人の前に身長180を超える大柄な白色人種が現れたら、当時の人には、まず同じ人間とは思えなかったろう」
しかし水筒のコップを持った瀬来さんが、それを口にしつつも疑問を口にする。
「ん~、でもさ。難破した外国の人達を助けたって話も残ってるでしょ?外国人でも、別に頭に角があるわけでもないし。だから昔の人だって、外国人と鬼の区別くらいついたんじゃない?」
「お、それもいい質問だ。確かに欧米人は鬼ではないから、角はないよね。でもそれには角ではなくて、距離や日数が大きく関係していると思うよ」
まぁ鬼畜米英なんていってた時代も、あるにはあるが。
「距離と日数?」
「うん。例えば日本の近海で難破した外国人の乗る船があったとしよう。それを陸地からでも目視できていたとすれば、文明の利器である船に乗っている時点で、初めて目にする相手でも鬼など魑魅魍魎の類とは考えないよね」
「ん~、そうかな」
「ああ。人間は理解できないモノに恐怖を抱く。だから船という理解できるモノに乗っている存在なら、多少見た目が変わっていても自分達と近い存在だと感じ取れるだろう」
うん。これがもし怪しげな雲やら光る円盤にでも乗っていたのなら、話はだいぶ違ってくるだろうけど。
「じゃあなんで難破した外国人を、鬼と思っちゃったの?」
「そもそも日本に外国人が流れ着くようになったのは、おそらくは大航海時代の頃だったはず。ヨーロッパの各国が世界に向け、お宝求めて冒険や探検のための船をたくさん出していた時代だね。そんな時に黄金の国ジパングと呼ばれる前の日本は、当然未知の領域。海図もなければ潮の流れも解らない海を進むうちに、船は荒天に見舞われ沈没。乗組員たちは、哀れ荒れる海に投げ出されてしまう」
「GPSも無線もない時代やったら、陸地も見えんとこで海に放り出されたら不安やったろうねぇ」
「そうだね。救命ボートがあればまだいいけど、荒天時に巧いことそういったボートが降ろせるとも思えない。大抵は沈没した船の破片にでも掴まって、長いこと海を漂流する羽目になるんじゃないかな。…すると遮るもののない状態でずっと日に焼かれ、皮膚は真っ赤。服はすぐ脱いだだろう。着たままでは重くて溺れてしまうからね。そうして日が経つにつれ、髪は潮焼けでグシャグシャ、髭もボーボー。そうして運よく日本の浜に流れ着いた頃には『ギャー!鬼じゃ、鬼が出た~ッ!』なんて騒がれるくらい、すっかり赤鬼そっくりになっていたというわけさ」
「え~…、そう言われればそうかもしれないけど。そんなにうまくいく?」
まぁあくまでも可能性のひとつとして、仮定の話だよ。でもよく言われる鬼の色って、赤鬼・青鬼・黒鬼だよね。これにもなにか意味があると思わない?」
「フフン。うちはもう解ったから、なにも言わんとこ」
「え、シズもう解ったの!?」
「ん~、赤鬼が日に焼けたんだとすると…あ、青は病気のひと!?」
「正解。外国人を一度も見た事のない日本人が、病気や怪我で体調不良の白色人種を見たなら、青い肌をしている鬼と思ってもおかしくはないよね。でも同じ黄色人種であれば、言葉が通じなくても見た目が似ているから同じ人間と識別できたはずだ。だから今も鬼といえば赤鬼青鬼で、黄鬼や緑鬼とは言わないだろ?」
まぁ陰陽道的には黄鬼も緑鬼もいるとされているが、なんの知識もない村人クラスの一般人は見た目で判断するよりない。緑は青の近似値として、流れ着いたのが黄色人種なら言葉が通じなくてもまず鬼とは思わんだろう。そして黒鬼については、うん、これは触れずにスルーするのが賢明か。
あ、そういえば鬼婆娘って何鬼になるんだろ?妖力纏いの鬼婆スーツは青黒い肌の色してたけど、鬼婆娘自身は普通の肌色だったしな。う~ん、ようわからん。
「改めてそう言われるとそうやねぇ。ちゅうことは桃太郎が鬼退治しにいったんも、実は異人の海賊退治やったのかもしれんね」
「伝承をより現実的に捉えるなら、そうだろうね。桃から生まれたという謂れも聖なるモノから生まれたというヒーロー性を持たせる後付で、もとは違うストーリーだからね」
「え、話が違うの?」
「そうだよ瀬来さん。今ひろく親しまれている桃太郎のお話は、お子様向けにアレンジされたモノなんだ。だから元は拾った桃を食べて元気になったお爺さんお婆さんが、したも若返って致した結果、生まれたのが桃太郎だから」
「え~ッ!それで桃を拾ったら、すぐに赤ん坊が生まれたっていう急展開なんだ。ちょっとハショリ過ぎじゃない!?」
「でも赤ん坊がどうやったら生まれるのかなんて小さい子に説明するんは、難しいやない。それだけで騒ぐ子もおるやろし。万智も瑠羽ちゃんのマンションでそないなチビッ子にたかられて、辟易しとったやろ」
「う…ああ、あの子達ねぇ…」
そういえば瑠羽ん家のマンションでマセガキズに囲まれた瀬来さんは「胸おっきー!」とか「赤ちゃんいるの?」などのセクハラ発言に晒されてたっけ。ま、お子様でもエッチなことに異常な関心を示すマセガキはどこにでもいるもんな。母親呼び捨てにする超メンタルタフネスな子とか。
「ま、ほかにも日本の鬼として有名な酒呑童子も、最後は武士である源頼光に討たれたというし。鬼のように悪逆の限りを尽くしていた盗賊、というのが桃太郎の出生みたいに端折られて鬼と呼ばれた可能性も否定できないね。ヒンドゥー教の最高神シヴァの神妃デーヴィーが激オコプンプン鬼嫁チェンジした姿も鬼神カーリーとされたり、妖怪の牛鬼や鬼火なんて人の姿でないモノすら鬼としてくくられてるから、それこそ神から妖怪まで。鬼に関しては、ホントよくわからないよ」
「激オコプンプン鬼嫁チェンジって…、江月さんて時々へんな言い回しするわよね」
う、つい興がのって余計なことまで口走ってしまった。こんなところで得意分野ではつい饒舌になってしまうというオタの呪いが発動してしまうとは…。
「まぁいいわ!たとえどんな鬼が出ようとも、この剛腕の万智ちゃんの敵じゃないから!!」
膝立になり、ガッツポーズで空を見上げてみせる瀬来さん。バトルスーツの見映えも手伝って、なかなかに勇ましい姿。
すると不意に、遠くからなにか大きく重たいモノが草木をしだきながら近づいてくる音が。それに警戒し息を殺して身構えると、鬱蒼とした藪の向こうにふたつのトンガリをもつ頭の影がチラリ。
え、もしかして瀬来さんてば!おもいっきりフラグおったてちゃいました!?
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