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山オーラ修行

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今日も今日とて訓練訓練。正面の山で、移動および戦闘の訓練だ。

慎重過ぎる?

いやいや、よく考えてもごらんなせぇ。人が二足歩行である以上、不安定な足場の山では圧倒的に不利ってもんでござんすよ?そんな場所でまたあの超巨大猪のようなモンスターにでも出会った日には、逃げ切れずとんでもない目に遭うこと間違いなし。

そう、こと移動という点に於いて、二足歩行では四足歩行に逆立ちしたって勝てないのだから。

それに地元のダンジョン能力者である音夢くんたちですら、山ではゴブリンどもに追いつけないようだし。

故に登山道をのんびりと散策する程度ならともかく、戦闘前提で山に立ち入るのならそれ相応に入念な準備が必要というモノでおじゃる。なので山歩きなどほとんど経験のないオレ達は、しっかりバッチリと訓練を積む必要があるのだ。

過ぎたるはなお及ばざるが如しとも言うが、この場合それは当てはまらない。

なにせいざ戦闘といった場面で、常に100%の実力が発揮できるとも限らない。故に100%の力を実戦で発揮する為には、100%オーバーの訓練が必要不可欠。それならば仮に70%のパフォーマンスしか発揮できなくても、訓練値が140%あれば100%に近い実力が発揮できるという計算になる。

ま、それでもなんでも一人で出来過ぎてしまうと、長所を活かして協力し合うといった絵面を描きにくいから劇場版には出演させてもらえなくなっちゃうらしいが。


「さぁ、よく視てて。粘液の特性を理解し巧く活用してやれば、こういったことだって可能だよ」

オレは仁菜さんと瀬来さんの前で背後にある樹に背を粘液でくっつけ、そのまま手足を使わず上昇してみせる。

「はぁ~、コォチはホンマ器用なモンやねェ…」
「ホント、なんでそんな事できるの…?」

「このコツはだね、操る粘液を吸盤に見立てて操作すること。粘液自体の粘着力と、吸盤状に落ちくぼませたことで生じる負圧。これを巧く維持したまま背中ら腰へ…。そうして空いた背中には、また同じように粘液吸盤を生み出す…といった動きを繰り返してやれば、こうして手足を使わず壁に張り付いたまま移動する、この蛞蝓移動スラッグムーブが可能になるという訳さ」
「えぇ~、でもソレ…。なんかカッコ悪いよ。せっかく練習して木の上を飛び回れるようになったんだから、それでいいじゃない」

しかし瀬来さんは見た目がお気に召さなかった様子で、不服そうに唇をとがらせている。

「ダメだよ瀬来さん、それだけじゃダメなんだ。たしかに立体機動術は山間でも身軽に移動できる術ではある。でも力の入った攻撃を行う際には、しっかりとした足場というのは不可欠なんだから」
「ん~、そうやねェ。同じように振りかぶって攻撃しても、空中におるより地面にしっかり足のついとった方が、力の伝わりがええもんな」

うんうん、さすが仁菜さんは解ってらっしゃる。

鈍器でも剣でもなんでもいいが、空中で振り回してる限りは、上半身の力しか武器にのせられない。地面の無い状態では、下半身が踏ん張れないからだ。

まぁ漫画なんかじゃ空中肉弾戦なんてのも画的に派手だから多用されるけど、しっかりとした支点がない状態では力点も作用点もブレブレになってしまうのはいうまでもないだろう。もし下半身の支える力、支点がいらないのであれば、震脚なんて高等武術が編み出される訳もないしね。


……。


そうして身体を使った訓練の他にも、瞑想により魔力やオーラを練る練習を行う。にしても山での瞑想…。うむ、実になにかを掴めそうな気がする。まぁ何を掴むかは知らんけど。

「ふぅ…。オーラの出力って難しいモンなんやねェ」


と、岩の上でしばらく瞑想していた仁菜さんが、吐息混じりそんなことをこぼす。

「そうだね。魔力はスキルのエネルギー源として紐付けされてるようだから、感覚を掴むのにそう難しくない。けど、オーラはそういったガイドが全くないからね」
「え~ッ!じゃあなんで江月さんはそんなにカンタンにオーラが扱えるの??」

同じく別の岩の上で瞑想していた瀬来さんもまた、オレにそんなことを訊いてくる。

「参ったな…。実はオレも、その辺はよく解ってないんだ。ただ、ずっと独りでダンジョンに籠ってたろ?その時に魔力だけでスキルを操っているのでは、すごく燃費が悪いと感じたんだ…」

「あ、ソレってもしかして、江月さんが闇堕ちしてた時??」
「ああ~、ソレはうちも興味あるなぁ」

ふむ、そうか。では休憩がてら座学の時間だ。

「ゴホン…。まぁふたりも知っての通り、瑠羽にすっかりフラれたと思ったオレは、その憤りをダンジョンのモンスターにぶつけていた。ただはじめは怒りのままに暴れていたのだけど、どうしたってそのうちに疲れてくる。それでも、まだまだ怒りは収まらない。そうした時、無意識にスキルを発動するための魔力をケチっていったんだ」
「暴れても暴れても、ぜんぜん暴れ足りなかったってこと…?」

自身の未熟さを露わにする話なので実に恥ずかしいが、それでオレがオーラの体得に至ったのも確か。ならばここは、自身のことよりも彼女たちの成長を優先しよう。

「うん、そうだね。それくらい、瑠羽に拒絶された時の心の痛みは酷かった。…で、そのうち身体が熱くなるような爆発する怒りから、もう腕も身体もすっかり重くなった時に残ったのは、ただただ黒い感情。その時にはもう力任せにモンスターに八つ当たりするのではなく、ひたすら冷徹に目の前の敵を倒す殺戮マシーンと化してたんだ…」
「はぁ…その殺戮の効率化が、オーラ獲得のきっかけになったんやね?」

「まぁ、今にして思えばだけどね」
「じゃあさ、私たちも闇堕ちしないといけないの?」

「いや、そんな事はないよ。う~んと、そうだな…たとえば水が気力として、沸騰したお湯が魔力とする。で、その中間あたりで半熟ゆで卵を茹でるのにちょうどいい湯加減てのが、オーラなんだ。ただの気力では生成した粘液や岩塩を飛ばせなくても、オーラにまで練り上げた気力なら、それが可能。もちろん魔力でも同じことが出来るけど、それだと過剰なコストとなってしまうといった感じかな。だからその理屈を踏まえて魔力に至る前の気力をいい感じに維持することができれば、それがオーラというわけさ」

オレの説明に、ふたりは顔を見合わせ首を竦めてみせる。

「その辺は解っとるんやけどねェ…」
「どうしても途中で止めて維持するってのが出来ないのよぉ~」

「ん~、ほかにはそうだな…。粘液を張り付かせてその場に留めようとした時なんかに、放射した魔力を意識から手放さず、そのまま持続作用させるんだ。生み出した魔力に『その力でこっからここまでの仕事をおねがい』ってな感じでね。…って、え?これも解り難いかな?じゃあもう力技で、精神がヘトヘトになるまで魔力を練ろう。そうすれば、練り上げる魔力もそのうちオーラのレベルにまで落ちてくるよ」
「「えぇ~~ッ!」」

いやいや、キミたちならば出来る!なんたってオレのかわいい可愛い特待生なんだから。もしかしたらオーラだけでなく、高僧の魂とかもその身にって…ああいや、なんでもないようん。
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