うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
上 下
322 / 627

中古車購入

しおりを挟む
善は急げということで、オレ達は早速大通り沿いにある中古車販売店へと向かった。

「ねぇ江月さん、良い車があるといいね~」
「ん~、そうだなぁ」

「そらコォチが現物見て確かめたんなら、間違いないで万智~。なにせコォチは、バットとも心を通わせられるんやから~」

そしてその道すがらは、どんな車にするかで盛りあがる。

たとえ中古車といえど車を購入するというのはちょっとしたイベントであり、やはり女の子というのはショッピングが大好きのようだ。

さて、ときに昨今ではネットでお部屋や車なんかもカンタンに探したりできるようだが、どうしたってパソコンの画面越しではおおよその雰囲気は解っても細かな良し悪しまでは解らない。

しかしオレは弛まぬ精神修練により、オーラパワーでもって物品記憶読取が可能。

だから実物が目の前にさえあれば、事故車かそうでないか。はたまたよく手入れのされていた車なのかどうかなんてことを、かなりの確率で読み取る事ができる。ならば実物を見に行くより他はないというわけだ。

しかしそうして中古車販売店へと到着すると、思わぬ再会が待っていた。

「あれ!?キミはもしや瀬来くんじゃないか。いやひさしぶりだねぇ」
「え?もしかして店長ッ!?どうしてここにいるの??」

なんと、中古車販売店で働いていたのはダンジョンショップパレードの元店長さんだった。

「いやどうしてってキミ…、あのお店潰れちゃったでしょ。だから転職だよぉ。でも、今はどこも景気が悪くてねェ。それで、瀬来くんはもしやこのお店に車買いに来たの?なら買ってってよぉ~。いいかげん僕も車売らないと、そろそろマズイんだよぉ~~!」
「え、え、エェ~~ッ…!?」

look over there.あちらをごらんください。元バイトの女の子に泣きつく元店長の図でございます。なんてな。だが、これは好機と見た!ならば突撃アタックあるのみ。

「ジャストアモーメント!話は聞かせてもらったぞダンジョンショップパレードの元店長さん!ならばこのオレが、いやミーが!瀬来さんに代わってユーズドカーをバイしようではないかッ!」
「え?キ…い、いやあなたは…??」

オレの強引極まりない会話への乱入に、眼を白黒させる元店長さん。

「あ、あのね店長!このひとは江月さんていって、今日はここに車を買いに来たの!」

そしてその両者の仲立ちをしなければならない瀬来さんが、自分のポジションをどこに置くかで迷いながらも対応に追われている。

「おお!これはようこそいらっしゃいました!いやいやぁ、瀬来くんはホントに幸運を運んでくれるねぇ。パレードでもキミがカウンターに立つと、ずいぶんとお店が繁盛してたからねェ~」

しかしどうやら瀬来さん。バイト先での評価はべらぼうに高かった模様。

ふむ、なにせ有り余るほどに愛嬌あるからな。客商売にはホント向いてる性格だ。ていうかアレってなんつったっけ?ああ、冒険者ギルドの受付嬢を愛でる会とかなんとかいう連中が、瀬来さん目当てでパレードに入り浸ってたんだっけ。

「では江月さま、今日はどういった車をお求めで??」
「うむ、実はもう決めてるんだ。軽のワンボックスが欲しい」

そうワンボックス。いわゆる軽バン。

軽の商用車としての実績は、各社が共通の仕様で作るほど。オレも勤めていた時は、このタイプの車にお世話になった。故に乗り慣れているし、手入れに関しても問題ないだけの知識がある。

なので買って即マゴつくことなく運転できる車を選択するというのは、緊急の用件を抱えている現状では最適解なのではないだろうか。

「エェ!こんなのでいいの!?江月さんにはちいさ過ぎない??」

しかし軽バンを見ると、瀬来さんは難色を示す。

「いや、それは大丈夫だよ瀬来さん。ま、多少は狭く感じるけど、ほかのセダン系やハイトワゴンより運転席は広いからね。それに以前にも乗ってたことがあるから」

「ん~…、どう考えても江月さんには小さいと思うんだけど…」
「うちはええと思うで。軽の中ではいちばんなかが広いみたいやし、車は走ってモノと人が運べたらええんよ。うちのお父ちゃんが仕入れに使ってた車も、こんなんやったもん」

一方で瀬来さんと仁菜さんの意見は綺麗に割れた。

「へぇ~、シズのお父さん車も乗ってたんだ。中華料理のお店って聞いてたから、なんかバイクのイメージしかなかったよ」
「そら出前の時はね。でもお父ちゃん麺にはこだわっとったから、隣町の製麺所まで車で仕入れに行っとったんよ。いっつも忙しくてどこにも遊びに連れてってもらえへんかったけど、隣町までのドライブには、うちもよく助手席に乗せてくれたしなぁ~…」

ああ、仁菜さんズノスタルジー。

またセピア色の情景が、脳裏に浮かびあがるようだ。そうか。それで仁菜さんはこういったタイプの車に愛着があるのか。まぁ、それはそれとしてオレは並んでいる軽バンから一番上等でお求めやすい車を選んでしまおう。

(チャクラオン!オーラパワー物品記憶読取!!)

「…よし、コレに決めた!この青いのにしよう!」

そうして選んだのは、ブルーメタリックな色味の軽バン。

事故車でなく、走行距離もほどほどで手入れも悪くない。値札と車の状態から勘案するに、この車が一番いいだろう。

「ありがとうございます。では事務所で契約書のほうを」
「おっと、元店長さん。その前に値引き交渉だ。この値札からさらに5万負けてくれ」

オレは35万で売られていた軽バンを、30万に負けろと値引きを要求。その値引き率は15%ほどにもなる。

「えぇ~!?い、いや、さすがにそれは…」

ふむ、流石にきびしいか。

だがここで、オレの特殊スキル発動。袖の下から諭吉さんを召喚!パレード元店長さんの手に、召喚した諭吉さんでダイレクトアタックだ!

「ウ!こ、これは…!?」
「現金一括で支払いますから、ここはがんばって勉強してみてくださいよ。ええ、あなたならきっと出来るハズだ。だって元店長なんだもの。ここの店長さんだって、必ず納得させられますって…」

そして48あるペルソナのひとつ。やたらと心理戦に強いデュエリストを演じて押しまくる。

…。

その後、独り事務所に戻っていった元店長。

しかしすぐに困った笑顔をひきつらせ、本物の中古車販売店の店長さんが現れた。が、待ち構えていたどうにも話の通じそうにないマッチョなオレと、一癖も二癖もある美人女子大生仁菜さんと瀬来さんのおねだりステレオ攻撃に、あえなく撃沈したのであった。

うむ、オレ達の勝利だ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...