上 下
321 / 613

仁菜の地雷

しおりを挟む
「えぇッ!おじいちゃんって、まだ避難してなかったのッ!?」

仁菜さんと共に瀬来さんの部屋の模様がえを手伝っていると、かかってきた電話に瀬来さんが素っ頓狂な声をあげた。

うん、金が無いならそんなこと手伝ってないで早く仕事探せよって声が聞こえてきそうだが、スタンピードの影響で世の中不景気旋風のカラッ風が吹き荒れている。

よって碌な仕事がない。

まぁホントに首が回らなくなったら、コネに頼って武藤さんの整体院や重機ファイターのオッチャン達のとこでバイトでもさせてもらおうと考えている。が、それもまたコネというカードを切ってしまえば、その恩義により相手に頭が上がらなくなってしまう。

なので出来得るならば自分の才覚で、お金を生み出してみたい所存である。

なにより人を越えたオーバースペックな存在と化した今、自分の能力以下の人間に顎でこき使われるような待遇には正直バカらしくて耐えられない。いや、武藤さんや重機のオッチャンらがそういう人達だっていう意味じゃなくてね。

これはオレ自身の心の問題。だから自惚れてしまっているといえば、その通りだ。

「うん…。うんうん…、うん。じゃあ私が様子を見に行ってみるから、そんなに心配しないで。それじゃね」

電話を切った瀬来さんが深い溜息を吐いている。なのでほぼ内容は聞こえてたけど、礼儀として状況を訊いてみた。

「瀬来さん、聞こえちゃったんだけどお爺さんがどうしたの?」
「うん、それがね。おじいちゃん独りだけ家に残ったままで、どこにも避難してないのに昨日から連絡がつかなくなっちゃったみたいなの…」

「なんと…」

詳しく事情を訊くと、瀬来さんのご両親も祖父の後を継いで草津の方で農業を営まれていたそうな。だがダンジョンスタンピード第二波の起きたことにより安全を考え、瀬来さんの妹を連れ自衛隊の大勢いる新潟へと避難。

佐渡島問題で、新潟方面には自衛隊の部隊が多く駐留してたからね。

そこで今は、同じく農業を営んでいる母方の親戚の家に厄介になっているという。しかし瀬来さんのお爺さんだけは畑や家畜が心配だと独り家に残り、心配して頻繁に連絡を取っていたのだが昨日からその電話も不通になってしまったという。

「ふぅむ…電話の故障だけならいいが、連絡がつかないとなると心配だな」
「そうなのよ。知り合いの家に電話しても、みんな避難してるらしくて通じないみたいだし…。ねぇお願い江月さん。悪いんだけどおじいちゃんの様子見に行くのに、付き合ってもらってもいい??」

離れて暮らすお爺さんのことが心配なのか、いつになくしおらしい態度で頼みこんでくる瀬来さん。

「うむ、もちろんだ!いっしょに行って、お爺さんの安全を確かめよう!」

そこでそんなしおらしい態度で頼まれたなら、しょっぱい男としては黙っていられない。そのお願いを快諾し、不安を取り除いてあげようではないか。

「それはええけどなコォチ、足はどないするん?4人で行くにしてもまたレンタカー借りるつもりやったら、返却がいつになるか解らんぶん支払いが高くつくでぇ」

が、そこに早速堅実派の仁菜さんが問題点をあげてくれる。

「ふぅむ、その問題があったか…。車を使わず電車やバスでの移動を考えると、コストもそうだが時間的なロスが大きそうだな…」
「なるだけ早く現地に着くことを考えたなら、その方法は得策やないね」

「うむ、ではこの際だ。車を購入しよう!」
「え、ほんとに!?それって高級車??」

オレが車の購入を決めると、瀬来さんは瞳を輝かせた。

「アホか万智!高級車なんてモンは、作ってる会社が売値に半分近く利益のせとるの知らんやろ!あないなモンに金払うんは、自分は高級車買うくらいお金たくさん持ってます~て、自慢したい見栄っ張りだけやアホ!!」

しかし高級車という単語を聞いた途端、普段冷静沈着で微笑の美女な仁菜さんが爆裂豹変した。

「エェ…ひどいよシズぅ、そんなにアホアホ言わないでよぉ~!」
「ええか万智。ホンマのお金持ちいうんはな、そないな贅沢品に金使わんとキチンとした投資に大事なお金を使うもんや。それがホンマの活きたお金の使い方っちゅうモンや。覚えときぃ万智…」

う~む、なんとなくで瀬来さんから聞いてはいるが、仁菜さん自身は家の為に極度の倹約家なのに金蔓としていいとこのボンボン複数人とお付き合いをしているらしい。

すると中にはそういった付き合いのなかで、きっと我慢ならないこともあったのだろう。

自分で稼いだ金でもないのに高級車乗り回してイキッてる大学生とか、オレが知らないだけで結構多いのかな?でないとこの反応は、ちょっと説明つかないもんな。

「それで、コォチはどないな車買う気なん…?」

そこでスゥっと細められた瞳が、オレに向けられた、

仁菜さんの笑ってない瞳の圧が半端ない。え、なにコレ…?特異迷宮入場免許取得の面接の時より緊張するわ。

「え…?あ、うん!ま、まずは中古の軽だな!以前からみんなで移動するには車があった方が便利だな~とは感じていたが、この先もスタンピードがあった時の事を考えると、新車で車を購入するのは得策じゃないだろう?だからまずはお試しって感じで、車のある生活を体験するには安い軽でも充分なんじゃないかな…??」
「せやねぇ~、うちもそれが一番エエと思うわぁ~」

するとオレの返答を聞いた仁菜さんが、今度は女神のような柔らかな笑みを浮かべた。

おぅ…、どうやら選択を間違えずに済んだようだ。というか現在の財政状況では、中古の軽自動車を買うくらいしか捻出できないんだけどさ。

ともあれ仁菜さんの地雷を踏まなかったことに、オレはホッと胸を撫で下ろした。ホント、心底胆が冷えたよ…。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...