うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 塩味

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「よし、ではやってみるがいい」

校長先生のお話並みに長い記録説明を終えた飛張医師が、ようやくオレに指示を出す。いや長いんだよ、もう待ちくたびれたわ。

だがそうはいっても、彼がこの場の責任者である。

オレは執刀医的なポジションではあるものの、なにかミスがあればその責任は全て飛張医師にいってしまう。なのでここでは、彼の指示に従うのがオレのファンタジー。

そして都奈美さんの話でも、飛張医師は不眠不休で怪我人たちの治療を行っていたという。そう、いわば最前線の人だ。そしてオレは、そういう人間が好きだった。

だから飛張医師のあのぶっきらぼうでキツイ物言いも、そういうストレスを受けた弊害として納得した。

「はい。ではまずは、瞑想を行ない患者の精神とチャネリングを試みます」
「ぬ、なんじゃそれは。いま患者は薬で眠っとるじゃろう?」

うむむ…これは何と言ったらいいだろう。

「え~と…患者の精神と接触し、そのコンディションを確認します。意識がない状態ですので意志の疎通は出来ませんが、苦しんでるかそうでないかくらいは、コレで解るようになるはずです」
「ふ~む、心電図や脈拍を機械で計測するようなモノか…。まぁいい、やってみい」

癒し処リーフの中央に、手術室として設けられたスペース。

間仕切り用のレースのカーテンで覆われており、中には患者以外5人しかいない。そして周りからは当然透けて視えてしまうだろうが、今はそれを気にするような時ではない。

「はい。ではまず患者に気を流し状態の確認と、こちらのスキルの発動に適した状態に持っていきます。すぅ~~…、こはぁ~~…、むん六根清浄!レッツ、メディテーション!!」

『デヒィィン!』
「むおっ!?」

しかしオレが患者にかけようとした【瞑想】は、容易く抵抗されてしまった。

「なんじゃ!なにが起きたんじゃ!?」
「は、弾かれました。まさかこんなことが…」

「ごぇ…ぶえっへっへっへっ…」

視ればいつの間にか眠っていた筈の人面瘡が眼を覚ましており、薄めのニヤケ顔で挑発するように笑っていた。

「おい、一体どういう事じゃ?」
「…患者の精神への接触に失敗しました。このモンスターが、人面瘡が妨害したようです」

「なんじゃと…!?」

なんてことだ。コイツは患者の身体に魔のオーラとでもいうようなモノを流し込んで、オレのスキルを阻んだのだ。

ズゴゴゴゴゴ…。


………。


むぅ…、侮りがたし人面瘡。

オレのスキル【瞑想】を、ものの見事に弾くとは。これでは患者のメンタルコンディションが、まるで確認できないではないか…。

「ぬぬ…じゃが、患者の容態を確認しておくだけならば、ワシの眼がある。おぬしのしようとしていた事が心電図や脈拍を確認するようなモノならば、ワシとて長年患者を診続けてきたのじゃ。スコープくらい使えるわい」
「おお、なんと…それは本当ですか!?」

「いや、よく知らん。じゃが孫がの、お爺ちゃんお医者さんならスコープ使えるね!とかなんとか言うとっただけじゃ」

っておい、こんな時にボケかます人とは思わなかったから本気にしたじゃないか。なに言い出すんだよ。

「じゃが任せい!患者の容態はワシがしかと診ておく。じゃから小僧は次の工程へ進め!」
「おねがいします。ではこれより、スキル【塩】による患者へのアプローチを開始します」

見回してそれぞれの顔を確認すると、飛張医師も自衛官さんたちも力強く頷いて返してくれる。よし…ならばゆくぞ。

「粗塩よりも荒き塩・海潮よりも辛き塩・我と汝のちからもて・等しく塩味を与えんことをッ…!!」

さぁ!たのんだぞ塩太郎…!!
(ッ……ッッッ…ッツ!!!!)

「塩注入、ソルトインジェクション…ッ!!」
『(ぎゅもおぉぉぉぉおおお!!!)』
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