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ダンジョンスタンピード第二波 約束

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雲海さんと別れ、再び土手を行くふたり。て、まぁオレと瀬来さんのことだけど。

天気も良く、こんな状況じゃなきゃ絶好の散歩日和。平和な時ならジョギングや犬の散歩にと、この辺りもさぞ賑わっていたことだろう。

ダンジョンスタンピードが起きた直後は、モンスター達も狂乱じみた凶暴さを見せていた。

が、時間が経つにつれ落ち着くのか、生来の習性みたいのを見せはじめる。前のスタンピードでもそうだったが、今はちょうどそんな時期に入ったようだ。

と、そんな川原にまた新たな人影を発見。

「またなんかやってるわね…」
「ああ、そのようだ」

いたのは武装した3人の若めな男性で、手にはカメラ機材を持ち撮影を行っている様子。

そんな彼らが倒したのであろうモンスターの死体が山になっており、ひとりがソレに足をおいてポーズをとっている。

で、そんな3人がこちらに気付くと、向こうから近づいて来た。

そこでオレと瀬来さんは素早く視線を交わし、瀬来さんはお店でよくみせていた営業スマイルに。そしてオレは手に持っていたヘルメットを被り直し、一応臨戦態勢を整えておく。

だってこんな時分に外をうろついているヤツなんて、善人か悪人か変人しかいないからさ。

なので悪人だった場合に備えておく必要があるのだ。え、オレ?オレは変人だって自覚してるよ。言わせないでほしい。


「コンチャ~!」
「こんにちは」

先頭で土手を登ってきた軽そうな若者が挨拶してきたので、それに瀬来さんが笑顔でかえす。阿吽の呼吸で、こういう時はコミュ能力つよつよの瀬来さんが前衛と決まっているのだ。

「あのぉ、おふたりもダンジョン潜ってる感じの人ですよね~?へへ…実は俺達もでぇ~、それでぇ俺達、動画配信とかもしてるんすよぉ~。んでぇ、インタビューってゆ~か、そういうの頼んでもいいっすかぁ??」

やたら語尾を伸ばす間延びした口調で話す若者。それを聞きチラと瀬来さんがオレに眼を向ける。如何すべきか訊いているのだ。そこで今度はオレが一歩前へと出て、瀬来さんとスイッチする。

「そうか、だが先を急いでるんだ。悪いね」
「あ…、そすかぁ~。じゃあまた機会があった時にでも、んじゃチャ~ス!」

すると取材を断られた若者たちは『あの子ちょ~カワイクね?』などと話しながら土手を下りていく。そんな3人がまたモンスターの死体の山へと戻るのを見送ると、オレ達もまた歩き出した。

「…江月さん、あの3人にちょっとムッとしてたでしょ?」
「ん、まぁそうだな」

「ふ~ん。軽そうな子達だったけど、でもあれくらい普通でしょ?」
「うむ、ただ…、モンスターとはいえ死体に足をおくというのが少しね…」

「あ…そっか。江月さんピクシー達の世話も焼いてるし、左足もスライムだもんね」

うん、そういうこと。

それに相手がモンスターとはいえ『命を賭けて戦った者同士の礼儀』ってのが、あると思うんよ。ま、これは個人的な見解だから、他者に強要できるようなことでもないけど。

とはいえ彼らの行動が、まったく理解できないという訳でもない。

オレだって散々に追いかけ回された巨大赤蠍とその他百鬼夜行のモンスター集団にトドメを刺す時なんかに、『コイツめ!』って結構足蹴にもしたからな。

ただ死そのものを見世物にしちゃうのは、どうかと思う。

モンスターの死体の山の上に立ち、ポーズを決めた写真。コレはさぞ映えるだろうし、それを見た人からのウケもいいだろう。でももし『自分の仲間になってくれたモンスターたちの亡骸に、そんな真似をされたら』って風にも思ってしまう。

オレも動画配信はよく観るし、サバイバルな動画も好きだ。

でもそういう動画って生き物を捕まえて殺生しても、きちんと調理して美味しく頂き、その命に感謝するとこまでが1セット。

『獲物に土足の足を置いて、どうだ俺強いだろ?』ってのとは訳が違う。

「モンスターも仲間に出来るって知ったら、あの子達も変わるんじゃない?」
「そうだね。そうだといいんだが…」

ただ、オレ発信でモンスターも仲間に出来ることを広めるつもりは、全くない。

人間てのは利己的で、ひどく理不尽な存在だ。今も同じ人間同士でもパワハラなんてのがまかり通ってる職場がごまんとあるし、過去には人身売買や奴隷を当たり前としていた歴史だってある。

人間同士ですら、この有様なのだ。

だからここにまたモンスターなんかが加われば、憎悪もあってどうなるのかなんてまったく解ったモノではないと考えてる。

(…スン)
(ああ、解ってるよクィーン。今いるピクシー達もちゃんと守るし、ダンジョンに縛られてるピクシー達も、受け入れ準備が整い次第かならず助け出すからな)

ピクシークィーンと交わした約束。

それはダンジョンに支配されてしまっているピクシー達を救いだすこと。だいじょうぶ、その約束は必ず守るから。
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