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ダンジョンスタンピード第二波 糊口
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「すると自衛隊も一度はここへ来たものの、『手が足りない』と言って他に行ってしまったという訳ですか?」
「はい、どこも大変なようで…。ここの防衛がしっかりしたものだとしきりに感心すると、『食糧を回せるように手配します』と言って去ったきりに…」
愛根先生が、自衛官らがここに来たことを教えてくれた。
「でも徒歩の偵察部隊だったからな。本隊に情報を報告して、それから上が補給部隊をどう運用するかを決めるんだろうから…、どうせそれで手間取ってるんだろうぜ」
「ふぅむ…」
ミリオタシャークがそれに補足して、自衛隊の動きを教えてくれる。
なるほどな。まぁぶっちゃけ、オレ達が見てきた街も荒らされてる商店やコンビニがひとつやふたつじゃなかった。『そんな馬鹿な』と思うだろうが、流通が止まれば人口過密な東京はそれこそ砂漠と変わらない。僅かな食料を求めて人が殺到すれば、なかには暴動紛いの行動に出る輩も多かったという事だろう。
ま、まだモンスターよりは人相手の方がどうにかできるもんな。
「しかし食料も乏しいのに、よく暴動が起きませんでしたね。連れて来たような部分もあってなんですが、避難民も正直品のある連中じゃなかったでしょう?」
「あッ!?そ、それは…」
そう訊いたオレの問いに、愛根先生が戸惑って言葉を濁す。そして愛根先生とツンツン同級生が、なぜかチラチラとシャークのことを窺っている。
ん、一体どういうことだ…?
「…協力しない癖にブーブー文句ばっか言うから、あいつらの避難スペースにモンスターの生首放りこんでやった!」
おうふ…。そりゃ現役女子高生にそんな真似をされちゃ、馬鹿な連中も流石に『こりゃ何されるか解らん!』て大人しくなるだろうな。
「…悪いかよ?」
「いいや、良くやった。オレなら生きたままのモンスターを引き摺っていって、そいつらの目の前でまっぷたつにしてやるところだ」
ブスッとした顔で睨んでくるシャーク。だがオレはその行動を褒め頭を撫ぜてやった。
こういう態度を取るという事は、本人だって悪いと思ってるしやりたくはなかったのだろう。ミリオタとはいえ、まだ若い女の子だ。うむ、だからここは、叱るよりも褒めて味方になってやるところ。
「あの、江月さん!利賀さんにそんな酷い事を教えないでくれませんか!」
「いえ、愛根先生…。シャークは悪者になるのを覚悟のうえで、そう行動したんです。でも本来であればそれは大人の役目でしょう?だというのに、彼女にそんな真似をさせてしまった。その事を、我々大人の方が恥じるべきなのです」
「「「………」」」
そう言うと、みんな黙り込んでしまう。う~む、重い話になにやらテント内の空気まで重くなってしまった。
「よし、なんなら今からまっぷたつにしてきましょう!そうすればシャークに向けられている悪意の目も、私の方に逸れるでしょうから!」
「ああいえ!それは大丈夫ですッ!今はもう避難されている方々も落ち着いてますから!だから、だからそれはなさらないでくださいッ!!」
「む…、そうですか?」
思いのほか愛根先生が必死に止めるので、オレも浮かしかけた腰を落ち着ける。
確かこの辺には、体長3メートルはあるワンニャンご先祖みたいなモンスターがいたはず。なのでソイツを目の前でまっぷたつにしてやれば、大抵のヤツは震え上がって大人しくなると思ったんだが…。
しかしせっかく美味い飯と粘液パックで3人をリフレッシュしてやったというのに、すっかり微妙な空気になってしまったな。
「ん、そういえば雛形くんは何か話があってここに来たんだったか?それはどんな用件だったんだ?」
ツンツン合気道同級生ちゃんは、雛形結月というらしい。
さて何と呼ぶかと少々迷ったが、『ちゃん』だと馴れ馴れしく思われてもアレなんで『くん』くらいが妥当だろう。で、さっきまではポロポロと泣いていたが、メンタルケアが効き落ち着いたのか今は静かにみんなの話を聞きながらカニチーズを黙々と食べている。
「へ…?あ、ハイ!よければ食料の調達をお願い出来たらって…、そう思ったんですけど…」
「まぁ物理的にこの人数は無理よね。私たちも少しは足しになればって、食料持っては来たけど」
「う…」
しかしそれをバッサリと切って捨てる瀬来さん。
うん、でもそういう解りやすいとこ、オレは大好きだよ。というわけで愛根先生にも、少しは業を背負ってもらおうかな。なんかこの学校、生徒ばかりが色々苦労してるみたいだし。
「あ~愛根先生、食料事情はさきほど聞いた通りですか?」
「はい、今は近隣に住む商店の方々からご厚意によって食べ物を提供いただいたり、避難されてる方々からお金を集めて買い求めたりしてる状況です」
「ふ~む、では私たちが持ってきた食材は、明日にでも無償で愛根先生にお渡しします。なので、うまいことみんなに配分してください。まぁ、といってもダンジョンモンスターの肉ですけどね」
「え…、えぇ~ッ!?」
だって流通がストップして、自衛隊だって食料の手配に難儀している状況よ?そんなにホイホイ食料が手に入る訳ないジャンね。
「ダンジョンモンスターの肉って、ほ、本気ですかッ!?」
「やだな~。さっきまで先生も美味しい!美味しい!って食べてたじゃないですか」
「「エッ…!?」」
その瞬間時間が止まった様にして愛根先生と雛形くんが眼を見開いて硬直し、その手からカニチーズがぽろりと落ちたのだった。
「はい、どこも大変なようで…。ここの防衛がしっかりしたものだとしきりに感心すると、『食糧を回せるように手配します』と言って去ったきりに…」
愛根先生が、自衛官らがここに来たことを教えてくれた。
「でも徒歩の偵察部隊だったからな。本隊に情報を報告して、それから上が補給部隊をどう運用するかを決めるんだろうから…、どうせそれで手間取ってるんだろうぜ」
「ふぅむ…」
ミリオタシャークがそれに補足して、自衛隊の動きを教えてくれる。
なるほどな。まぁぶっちゃけ、オレ達が見てきた街も荒らされてる商店やコンビニがひとつやふたつじゃなかった。『そんな馬鹿な』と思うだろうが、流通が止まれば人口過密な東京はそれこそ砂漠と変わらない。僅かな食料を求めて人が殺到すれば、なかには暴動紛いの行動に出る輩も多かったという事だろう。
ま、まだモンスターよりは人相手の方がどうにかできるもんな。
「しかし食料も乏しいのに、よく暴動が起きませんでしたね。連れて来たような部分もあってなんですが、避難民も正直品のある連中じゃなかったでしょう?」
「あッ!?そ、それは…」
そう訊いたオレの問いに、愛根先生が戸惑って言葉を濁す。そして愛根先生とツンツン同級生が、なぜかチラチラとシャークのことを窺っている。
ん、一体どういうことだ…?
「…協力しない癖にブーブー文句ばっか言うから、あいつらの避難スペースにモンスターの生首放りこんでやった!」
おうふ…。そりゃ現役女子高生にそんな真似をされちゃ、馬鹿な連中も流石に『こりゃ何されるか解らん!』て大人しくなるだろうな。
「…悪いかよ?」
「いいや、良くやった。オレなら生きたままのモンスターを引き摺っていって、そいつらの目の前でまっぷたつにしてやるところだ」
ブスッとした顔で睨んでくるシャーク。だがオレはその行動を褒め頭を撫ぜてやった。
こういう態度を取るという事は、本人だって悪いと思ってるしやりたくはなかったのだろう。ミリオタとはいえ、まだ若い女の子だ。うむ、だからここは、叱るよりも褒めて味方になってやるところ。
「あの、江月さん!利賀さんにそんな酷い事を教えないでくれませんか!」
「いえ、愛根先生…。シャークは悪者になるのを覚悟のうえで、そう行動したんです。でも本来であればそれは大人の役目でしょう?だというのに、彼女にそんな真似をさせてしまった。その事を、我々大人の方が恥じるべきなのです」
「「「………」」」
そう言うと、みんな黙り込んでしまう。う~む、重い話になにやらテント内の空気まで重くなってしまった。
「よし、なんなら今からまっぷたつにしてきましょう!そうすればシャークに向けられている悪意の目も、私の方に逸れるでしょうから!」
「ああいえ!それは大丈夫ですッ!今はもう避難されている方々も落ち着いてますから!だから、だからそれはなさらないでくださいッ!!」
「む…、そうですか?」
思いのほか愛根先生が必死に止めるので、オレも浮かしかけた腰を落ち着ける。
確かこの辺には、体長3メートルはあるワンニャンご先祖みたいなモンスターがいたはず。なのでソイツを目の前でまっぷたつにしてやれば、大抵のヤツは震え上がって大人しくなると思ったんだが…。
しかしせっかく美味い飯と粘液パックで3人をリフレッシュしてやったというのに、すっかり微妙な空気になってしまったな。
「ん、そういえば雛形くんは何か話があってここに来たんだったか?それはどんな用件だったんだ?」
ツンツン合気道同級生ちゃんは、雛形結月というらしい。
さて何と呼ぶかと少々迷ったが、『ちゃん』だと馴れ馴れしく思われてもアレなんで『くん』くらいが妥当だろう。で、さっきまではポロポロと泣いていたが、メンタルケアが効き落ち着いたのか今は静かにみんなの話を聞きながらカニチーズを黙々と食べている。
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「う…」
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うん、でもそういう解りやすいとこ、オレは大好きだよ。というわけで愛根先生にも、少しは業を背負ってもらおうかな。なんかこの学校、生徒ばかりが色々苦労してるみたいだし。
「あ~愛根先生、食料事情はさきほど聞いた通りですか?」
「はい、今は近隣に住む商店の方々からご厚意によって食べ物を提供いただいたり、避難されてる方々からお金を集めて買い求めたりしてる状況です」
「ふ~む、では私たちが持ってきた食材は、明日にでも無償で愛根先生にお渡しします。なので、うまいことみんなに配分してください。まぁ、といってもダンジョンモンスターの肉ですけどね」
「え…、えぇ~ッ!?」
だって流通がストップして、自衛隊だって食料の手配に難儀している状況よ?そんなにホイホイ食料が手に入る訳ないジャンね。
「ダンジョンモンスターの肉って、ほ、本気ですかッ!?」
「やだな~。さっきまで先生も美味しい!美味しい!って食べてたじゃないですか」
「「エッ…!?」」
その瞬間時間が止まった様にして愛根先生と雛形くんが眼を見開いて硬直し、その手からカニチーズがぽろりと落ちたのだった。
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