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ダンジョンスタンピード第二波 泥中

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シャーク女子高に着いた。

しかし外から見た状態でもガヤガヤとかなりの喧騒、さらに避難民が増えている様子だ。

「どうも~!」
「あ、お姉さま!」

裏門に回って瀬来さんが見張りの子に手を振ると、その子はパッと笑顔になり迎え入れてくれる。女子高に顔パスというのが、なんか嬉しい。

が、そうして中へと入ると、どうも目に付く女子高生たちの様子がおかしかった。

「フェアリーナイト!アップル…りん!!」
「ちょっとぉ!私のアップルちゃんに何してるの!?あなたパインちゃんが好きって言ってたでしょ!」

見れば体操着姿の女子高生ふたりが、赤い髪のピクシーを取り合ってケンカをしている。

「えぇ~、そんな事いってないよぉ?ずっとアップルちゃん一筋だもん!」
「嘘つきなさい!前はパインちゃん一筋って言ってたじゃない!!」

む、なんだ?もしやピクシーたちの争奪戦でも始まってるのか?するとそこに割って入った童顔フェイスの愛根先生。

「みんな聞いて!先生思うんだけど…、アップルちゃんと一番仲がいいのは先生だと思うの!」

て、先生もかい!ケンカを仲裁するのかと思ったら、なんと愛根先生まで参戦しはじめた。

「あ、フェアリーナイトのお姉さまだ!」
「それにマスタージャングもいるわ!」

そんななか女子高生たちがオレ達に気付くと、アッという間に取り囲まれてしまう。うむむ、蟲王マスクの時は奇人変人のように見られてひとつも近づいてこなかったのに、エライ変わりようだ。

「おねがいです!わたしをフェアリーナイトにしてください!」
「え、なんて?」

「ズルイわよ!私が先!」
「ねぇお姉さま!マスタージャング!」

女子高生に囲まれてキャーキャー騒がれるのは悪い気はしない。が、目的は当然オレではない模様。にしても近くでこう騒がれると、非常に煩い。

「コラぁ!おまえたち訓練はどうしたぁ!?」

「いけない、隊長が来ちゃったわ!」
「は、はやく行こッ!」

体操服姿のJK集団は、校舎の影から竹刀を持ったシャークが現れると慌てて校庭のランニングに戻っていく。その後ろ姿をキツイ目つきで追いながら、近づいて来たシャークは長い溜息を吐いてみせた。


「はぁ~~…」
「どうしたシャーク、お疲れのご様子だな」

「それがさぁ、聞いてくれよ…」

そう言うと、シャークは語り出した。

遥かな昔。世界が闇に閉ざされようとした時、光の国から世界を守るために妖精たちがやってくるという。しかし妖精たちは魔法にはたいへん長けていても、力は弱く身体も小さい。そこで闇の軍勢と戦うために、人間の少女と協力し共に戦うのだ。

それが彼女らの言う、『妖精騎士フェアリーナイト』という存在らしい。

「ふぅむ、『ボクと契約して、妖精騎士になってよ』という訳か」
「万智たちの事を見て、そう思い込んじまった連中が多くてさ。困ってんだよ」

「へぇ~」

確かにオレの作った全身鎧は、元がキングゴキや蠅の女王。それ故、実にぴかぴかとした昆虫チックな造形をしている。それがトンボに似た翅を持つピクシー達ともマッチしたのだろう。

噂好きの女子高生たちは、それら眼で見た情報を組み合わせて勝手に脳内伝説を生み出してしまったようだ。

「で、オレはマスタージャングという訳か」
「ああ。ジャングは師匠ポジションで、アタシも騎士見習いだってさ。まるでどっかの映画みたいだよな」

ふむむ、確かにシャークには初対面でジャングと名乗ったしシャークのいる前、つまり女子高生の見てる前では瀬来さんもオレの事を師匠と呼ぶ。それらが合わさった結果、マスタージャングとなった訳か。

「なるほどなぁ。だがそれならそれで、そのやる気をうまいこと活用してやろうじゃないか」
「え、どういうことだよ?」

「なぁシャーク。あの子らがピクシー達にかまけて、おまえの言うことを聞かないから困ってるんだろ?ならオレから、というか『マスタージャングから妖精騎士になる為の行動指針』を教えられたら、彼女たちはどうすると思う?」
「…そうか!妖精騎士になりたくて言いつけを守るってことだな!」

「ハハハ、まぁそういうことだ。軽く仕込みをするから頃合いをみて、妖精騎士になりたいって子らを集めてくれ。そうだな、校舎の屋上が良いか」
「ああ、解った!」

…。

30分後。シャークの誘導により、妖精騎士になりたいというJK約20名と愛根先生が校舎の屋上に集まった。

「え~、なんにもないじゃない?」
「どういうこと?ここに来れば妖精騎士になれるって聞いたんだけどぉ?」

そんな様子を、オレは塔屋の上に隠れてコッソリと窺う。

(ふむ…、どうもガヤガヤとまとまりがないな。ステータスを取得したりモンスターを撃退できていることで、少し増長がみられるか)

同じ学校の仲間を鍛えると言っても、シャーク1人では手に余るだろうしな。

もうひとりの合気道同級生とはスタンピード後もあんまり仲が宜しくないらしく、たいして会話も無い様子。ま、そんなツンツン合気道同級生ちゃんもちゃっかりとこの場にいて、『今から何が始まるんだろう』と、その黒髪を揺らしてワクワクキョロキョロとしている。

(よしよし、ではそろそろショータイムといこうじゃないの!)

「静まれぃ!(ぴゅき~ん!)」

声と共に塔屋の上でポーズを決め、屋上に集まった女子高生たちの前に姿を現すオレ。

うむ、決まった。実に華麗に。最近は塩の生成時に発生する音で、良い『ぴゅき~ん!』が出せるようになったのだ。

「え、なにアレ…」
「やだ、恥ずかしい…」

しかしJKたちの反応はイマイチだった。

む、うむむ…この様式美が理解できないとは。こっちは小声でもしっかり聞こえてるんだぞ。しかもさっき『アップルりん!』とかやってた子まで胡乱な眼でオレを見ている。どういうことだってばYO!キミはこっち側じゃなかったのか!?


「いいこと!こうべを垂れて膝をつきなさい!今からココに、妖精の女王様が降臨されます!」

「キャーッ!万智おねえさまぁ!!」
「「おねえさまぁ~!!」」

しかし次いで隠れていた瀬来さんが腰に手を当て姿を現すと、JKたちのバイブスはブチあがる。むぅ…。

まぁいい、もう面倒なのでパパッとやってしまうか。

ピクシークィーンを呼び出す前に塔屋のうえからさり気なく塩を撒き、キラキラエフェクトを演出。うむ、夕陽の光が散った塩に反射して実に綺麗。

『きゅわぁ~~~!』
「「「わぁ~~~!」」」

そして虹色の光を発しながらピクシークィーンが姿を現す時には、粘液シャボン玉を大量に生み出してゴージャス感を演出。虹色の光があふれだすシャボン玉に反射して、まんまゲームでSSRカードをひき当てた時みたいになった。

『ぱわわぁ~~~ッ!!』


「「「きゃ~~~!」」」

そんな美しいピクシークィーンの登場に、JKたちの興奮は最高潮。


「……(すん)」

でもいつもの如くピクシークィーンから特にお言葉がある訳ではないので、瀬来さんにピクシークィーンの言葉として伝えてもらう。

「妖精騎士になりたいの?そう、なら…ひとつ!清く正しくあること!ひとつ!勤勉で努力を惜しまぬこと!そして最後に、常に愛をその胸にいだくこと!これが妖精女王様からのお言葉よッ」

うん、ホントはコレ。オレが伝えようと思ったんだけどね。アイコンタクトで急遽瀬来さんに変わってもらったよ。だってオレのウケがJKたちにことのほか悪かったんだもん…。

なので代わりにピクシークィーンが姿を消して辺りが紫の夕闇に包まれるなか、「蓮は泥より出でて泥に染まらず…。泥の中からでも美しい花を咲かせる…」という意味深ワードをつぶやいて、その場から姿を消した。

どうよ?これならかなりマスターっぽいでしょ?
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