うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
上 下
219 / 627

ダンジョンスタンピード第二波 宿泊

しおりを挟む
おかしな異世界の夢は、続いていた。

偶の連休なんかに惰眠を貪ってたりすると夢の続きを視たりもするが、なんだか今回はやけに長いぞ…。

「オレが男前って…、リディスの方が余程いい男だろう?」
「かぁああッ…!嬉しい事いってくれちゃってまぁ!でも、その顔で言われちゃ嫌味にしか聞こえないぞソルト」

オレの言にリディスはおちゃらけ半分、だが後半はやや真面目な顔で『嫌味な事は言うな』と釘をさしてくる。ふむ、とするとやはりこの異世界と元の世界では、美醜の価値観が違うという事か…。

「だがオレはともかく、顔面傷男や出っ歯チビはどうなんだハイロウ?奴らもいい男か?」

とはいえ余りリディスとばかり話をするのも悪いと思い、今度はハイロウに訊いてみる。

「ん…?まぁ奴らに関してはなんだな。特徴的…いや、個性的なな顔立ちというヤツだ」

あれま?顔面傷男や出っ歯チビは、こちらの世界の価値観でも評価が低い様子。

「ただまぁ、今はあんなだが以前は真面に依頼をこなす真面目な連中だったんだがなぁ…」
(え、そこ掘り返すの…?)

そういって冒険者ギルド事業部部長のハイロウが語り出したのは、彼らの過去。

それによると以前は真面目な冒険者だったが、モンスターに深手を負わされて以来その恐怖が染みついてしまい、討伐関係の依頼が受けられなくなってしまったそうな。

「じゃあ、あの顔の傷はその時の…?」
「そうだ、それ以来性格まで歪んでしまってな。おまえのような新顔がギルドに来ると、今日みたいに絡むようになっちまった。まぁ多少なら浮かれてる新人の教育になるからと、今までは大目にみていたんだが…」

なるほど、人に歴史あり。あの顔面傷男にそんな背景が…。ただまぁ、『そうだったんだぁ』とは思うけど、絡まれる方は普通に迷惑千万だよ。

「ふぅむ、モンスター恐怖症というわけか。でもさ、魔法があるのだから、それで解決すればいいじゃないか?」
「ん、おまえ何を言っている…?」

「だって『口にした言葉が、いろいろと作用する』のだろ?だったら朝晩鏡にでも向かって、『モンスターなんか怖くない!』とでも、自身に言い続ければ効果があるんじゃないか?」
「な、なに…ッ!?」

「それは魔法を自分自身に使うってことか…、ハイロウ!なにかソルトが凄い事を言い出したぞ!」
「ああ、これは盲点だッ!」

え…今までの言霊魔法って、対象を他者に限定してしか使用していなかったの?

『俺なら出来る!』とか『わたしならやれる!』とか自身のマインドに働きかけるのって、自己啓発本には同じようなことが大抵書かれてるんだけど…。

「しかもコレ…『僕は男前だ!』って自分に魔法をかければ、僕も男前になれるってことじゃッ!?」
「おお、それだ!確かに…ッ!!」

なにやらリディスとハイロウの反応をみるに、言霊の魔法を自身に使う事は今までされてなかった模様。まぁ効果の程が凄いから逆に、『下手に弄ると不味いことになる』などと指導されてきたのが定着して、いつしか忘れ去られた技術…ロストマジックとなっていたのかもしれない。

「おいリディス、その皿を俺に貸せ!」
「いや待ってください!僕が先ですって!」

いい歳した男ふたりが取り合うようにして、金属の皿を鏡に自身に魔法をかけようとしている。

ま、オレ的にはふたりとも目の覚めるようなイケメン。もしふたりが渋谷の街でも並んで歩いてたなら、絶対写真を撮られるだろう。

にしても『魔法が発達している代わりに、科学技術が遅れている』というのは異世界モノによくある設定。でもこういった概念についても失念されているのは、ちょいと珍しいかもな。

ともあれこの様子なら、もう衛兵に突き出されるような事はなさそうだ。

…。

眼を覚ますと同時に、身体の節々がひどく痛むのを感じる…。

が、それでも意識を失う前から比べたら大分マシか。視れば大きなベッドの上には3人が戦闘スーツのまま横になっていて、彼女らを守るように御霊たちが見下ろしていた。

「「「………」」」
「おまえたちも本調子じゃないのに、すまないな」


ピクシークイーンたちも、高負荷の生命エナジー吸収に若干参っている。ただ1/4に配分された負荷なのに加え元々モンスターという事もあり、オレよりかなりマシな状態ともいえる。

「ふぅ~…。だが丁度いいとこに、丁度いい場所があって助かった…」

ガポリとマスクを外して見回すと、そこは大きなベッドに洋風な拵えの室内。オレ達が逃げ込んだ場所はキャッスル的な…、街中にあるお城のような外観の建物。

そう、ここは料金によりご休憩やご宿泊の出来る施設で、窓も塞がれているうえ廊下も細く狭い。

故に大きなモンスターは建物内に入って来れず、身を隠し籠城するには持って来いの場所といえた。ちなみにオレにとっては人生初の場所となる。ちくせう、こんな時じゃなければもっと喜べたのに…と言っておこう。

ともあれヨロヨロと起き上がると、まずは一番状態の悪かった瀬来さんの様子を診に行く。

「すぅ…すぅ…」
(ホッ…良かった)

鼻や口元には、拭った血の跡が残っている。が、呼吸が安定していることにひとまず胸を撫で下ろす。生命エナジー過剰摂取のダメージなんて、回復ポーションが効くかも解らないので心配してたんだ。

「……んぅ」
「…すぅ」

うん、瑠羽や仁菜さんも疲れた顔をしているが、寝ているうちに生命エナジーが身体に馴染めば問題はないはず。なにより今は、ゆっくりと身体を休めることが肝要だ。

時間を確認してみると朝の4時、このホテルに入ってからすでに12時間が経過したらしい。ともかく部屋に据え付けの冷蔵庫を開けると、まずは喉の渇きを癒すのに水のペットボトルに口をつけた。

「…ハァ」

冷たい水が喉を流れ落ちていくと、幾分気分が落ち着く。

酷く濃い生命エナジーを浴びたこともある。が、やはり無傷とはいえ、自身を容易く殺せる相手と戦うのは相当神経をすり減らす。だから気を付けていたにも関わらず、こんなに眠ってしまったのだろう。

「ああ。オレはもう大丈夫だから、戻っても良いぞ」

そう御霊たちに声をかけると、ピクシークィーンと塩太郎の姿が光となって溶けてゆき、オレの胸へと戻ってくる。そしてその後を追うようにしてレッドスライムもまた、左の義足へと戻ってきた。

「さて、いったい今はどんな状態に…ファッ!?」


           現在     前回
レベル        19       15 
種族:       人間?
職業:       教師

能力値
筋力:         568      380
体力:         573      375
知力:         603      388
精神力:        612      377 
敏捷性:        546      392 
運:          666      496 
やるせなさ:      282      462

加護:
【塩精霊】奇御霊・【小妖精女王】幸御霊・【赤粘性生物】準奇御霊

技能:
【強酸】2・【俊敏】2・【病耐性】7・【簒奪】・【粘液】7・【空間】6・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5・【図工】・【蛆】2・【女】・【格闘】6・【麻痺】4・【跳躍】9・【頑健】8・【魅惑】

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】・【蟲女王】・【女殺し】・【ムシムシフレンズ】


分配1/4があっても、レベルが4も上がっている!

しかも人間の限界スペックであった筈の能力値500…。その壁をサラッと超えちゃってるジャン!え…嘘、マジで…ていうか種族に『人間?』て、疑問符ついてるんですけど…。そんなにファジーなんステータスって!?

で、新たなスキルの取得はナシ…と。ま、解っちゃいたけどね。いや…、でも良い徴候ではある。

下手に頭打ちを食らうよりも、何処までも成長できるのならそれに越したことはない。ただ『種族:人間?』てトコが気になるところではあるが…。

それでも能力値が未知の600台に突入ですよ奥さん!

『もしやこの先、青天井なのでは…!?』などと期待してしまうのは早計かもしれないが、この分だと1000くらいまでは充分期待できそうな気もする。

そしてさらに大きくその値を落とした『やるせなさ』と、最大値をマークした『運』。

これはあれかね…巨大黒蜘蛛にみんなで力を合わせてトドメを刺すという戦隊ヒーローにありがちなフィニッシュを決めたことで、ボッチ判定が大きくマイナスに振れたのかもしれない。

「それに『運』か、運はこのところずっと良かったモンな…」

巨大赤蠍も巨大黒蜘蛛も、なんだかんだで倒すことが出来た。しかもこちらはほぼ無傷。こんなにラッキーだったのだから、運が上昇するのも納得だ。

そんな事を考えている合間にもペットボトルの水でタオルを濡らし、寝ている3人の顔の汚れを拭ってやる。

これは起きてから3人のレベルやスキルを聞くのが、とても愉しみになったぞ…。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

処理中です...