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地下11層

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レベル40となって各能力値が500となったオレ。そんなオレに地下9層までのモンスターは、もはや敵ではなかった。

そこで、どうせならこの機会に今まで獲得できていなかったモンスターのスキルオーブをと狙ってみたら、これが今までテコでも落とさなかったのが嘘みたいにザクザクと落としてくれた。

うむ、やはりこれもまた上昇した運のおかげだろうか。


         
レベル   40      
種族:人間
職業:教師

能力値:
筋力:   500      
体力:   500      
知力:   500      
精神力:  500       
敏捷性:  500       
運:    486       
やるせなさ:656      

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】2・【俊敏】・【病耐性】7・【簒奪】・【粘液】7・【空間】6・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5・【図工】・【蛆】・【女】・【格闘】6・【麻痺】4・【跳躍】9・【頑健】8

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】・【蟲女王】・【女殺し】


今回のスキルオーブ狙いで地下7層の格闘蛙からは【格闘】が、地下8層の巨大蛾からは【麻痺】が、地下9層の巨大カマドウマからは【跳躍】、そして巨大カメムシからは【頑健】が手に入った。

既存のスキルもちょこちょこと拾えて上昇したが、そちらはまぁ大差ないので良いだろう。

格闘蛙から得たスキル【格闘】は、文字通り発動させると格闘戦に強くなれるらしい。らしいというのは、今は戦っているモンスターとは能力値の差が開きすぎて、その効果がいまひとつピンとこないから。

でもまぁ、きっと実力の伯仲した相手とあいまみえた時には、その効果が如何なく発揮されるのだろう。ま、そんな相手とはぜんぜん戦いたくないので、スキル【格闘】の出番のない事を切に祈る次第だ。

巨大蛾から得た【麻痺】は、文字通り相手を麻痺させられるスキル。

コチラの方が【格闘】より断然オレ好み。逃げるのにも戦うのにも使える良スキル。但し遠距離攻撃はできず対象に触れていなければ発動はしない模様。

巨大カマドウマからは【跳躍】。

うん、より高くより速く飛び、その間の姿勢制御にも特別な補正が入るよう。ただ跳躍すればどうしたって着地をせねばならず、着地の瞬間は当然大きな隙となる。そう考えると戦闘ではどうにも使い方が限定されてしまいそうだ。それに、そもそもダンジョンのなかってそんなに高くないしな。

【頑健】は巨大カメムシから。

カメムシらしく【臭気】とかを落とすのかと思ったら、まさかの【頑健】。耐久力が増して、とっても頑丈になれるようだ。その割にカメムシは、増強アームでビスビスと首の後ろの急所を突かれ一撃で即煙と化していた。なので、あまりスキル【頑健】を過信し過ぎるのは止した方が良さそうである。

「ふぅむ、こんなところか…」

秘密のノートに新たなスキルの効果などを書き加え、ページを閉じる。このノートは何物にも代えがたい最高の宝といえる。必勝の虎の巻を作るつもりで、今後もページを埋めていきたい。

…。

で、その後は地下10層を調査。

やはりキングゴキの時と同様。地下10層の巨大蠅たちも【蟲女王】の称号を持つオレに、パタリと攻撃する態度を示さなくなった。極めて限定的ではあるモノの、何かしら称号に効果があるというのはちょっとだけウレシイ。

「ふ~む、振り返って考えてみると、地下10層の罠はこのファイヤーワンドだったのか…」

胸の下に取り付けたファイヤーワンドを、軽く手で触れてみる。地下9層で、実に解りやすく隠されていた宝物のファイヤーワンド。それが地下10層の巨大蠅相手には、とてもよく効いた。

もし【酸】や【粘液】といったスキルを持っていなければ、オレもこのワンドに頼り切りになっていた事だろう。

しかしそこに、そんなファイヤーワンドの生み出す炎ではどうにもならないくらいの蛆津波を起こす蠅の女王が華麗に登場。ファイヤーワンドを握ったまま呆然とあの蛆津波を見上げる探索者の姿を想像して、ヒヤリと背筋が寒くなった。

「うん、やはりオレは地道がイチバンだな。これからも地道にスキルを獲得して、コツコツと行こう!」

…。

で、そんなオレはさらに地下11層へと下りて来ていた。

地下10層には特に何もなく、サクッと探索が済んでしまったからだ。強いボスがいたのだから宝箱くらいありそうなものだと隈なく探してみたのだが、本当に何もなかった。どこもブンブンと五月蠅く巨大蠅が飛びまわっていただけで、その時間はまったくの徒労に終わった。

あ、ちなみに先ほどのファイヤーワンドだが、簡素ながら増強アーム方式で胸の下に取り付けてみた。だからこれで手に持たずとも炎が撃ちだせる。

ふふふ…胸から炎なんて、まるでスーパーロボットみたいじゃないか。

といっても右胸下にワンドを包み込んだアームの基部があって、左胸下に向け収納されていたアームが撃つ時になってはじめて身体前面に伸びるので、正確にはブレストファイヤーではなくて右胸下ファイヤーだったりする。ま、なんにせよ利便性が高まり攻撃力も増したので、グッドな改造だったろう。

と、そんな事を考えていると、階段を降りた先に続く通路の奥から地下11層のモンスターが姿を現した。

全身暗い灰色で長身。長い肢で人のように直立二足歩行している。そして肩を竦めるように俯いていた顔を上げると、その顔はまるでコウモリみたいだった。


「ムッ、なんだアイツ?ハッ…もしや!?」
『きゅわぁん…ブンッ!』

すぐさまスキル【塩】で手の中に岩塩を生み出すと、剛速球でコウモリ怪人に投げつけた。

『(びすっ!…ぼふん!)』

遠方で岩塩に胸を貫かれ、煙となって消えるコウモリ怪人。

「やはり!そうか…!」

聖属性を持つ塩の攻撃で一撃。しかも二本足で歩くコウモリのようなモンスターといえば、もうひとつしか名前が浮かばない。そう、バンパイアだ。

バンパイアといえば、アンデッドモンスターの中でも高位の存在。

弱点も多いが、その分特化型で自分の有利な状況では滅法強い筈。だが、さっきのヤツは塩の一撃でアッサリ煙となって消えた。そしてあのコウモリのような醜悪な姿から、あまり高位ではない下位吸血鬼レッサーバンパイアといった感じのモンスターなのではと推測。

(ともあれ相手がバンパイアとなると、それでも相当に手強いハズ。そう、例えば魅了とか催眠とか。うん、吸血やエナジードレインだってしてくるかもしれないぞ…)

よし、決めた。

この地下11層では近接全面禁止。全て塩の遠距離攻撃で倒す。こっちはボッチなのだから、魅了や催眠や吸血でヘロヘロにされてしまえば、その時点でアウト。うん、近づかれるのすら危険だ。

これはもう、サーチ&デストロイで行こう。

…。

『(ちらっ…ぢゅぱーん!)』

『(ふらり…ずどもッ!)』

『(へこへこ…びじゅッ!)』

知覚を最大限に研ぎ澄ませ、モンスターの気配を感じたら即その場で息を殺す。そして通路の先から姿を見せたレッサーバンパイアたちを、全て一撃のもと岩塩投擲で完封。

こうなるとつい気が緩んで『実はレッサーバンパイアって、たいした事ないんじゃない』なんて驕ってしまうところであるが、無論オレはそんな過ちは犯さない。

なぜならば、ここまで独りで戦い続けてきたオレはもう、真のプロフェッショナルと呼べるのだから。

そう、例えるなら太い眉毛に白いスーツを着た眼光鋭い世界一流のスナイパーの如く、冷徹にレッサーバンパイアを地獄に叩き落とすマンになるのだ。

『ぼふん!(ころり…)』

む、あれは…。

レッサーバンパイアが煙となって消えた後に向かうと、そこにはスキルオーブが転がっている。魔石と陰毛みたいな縮れた毛しか落とさないと思ったら、ようやくオーブのドロップか。よし、ではスキルオーブを拾いあげて、どんなスキルなのか解析だ。

「ゆくぞオーラ視全開ッ!物品記憶読取サイコメトリー!(きゅまままま…!)」

解説しよう。オレはオーラにより左足となって戻ってきた赤スライムと繋がったことで、オーラの新たな可能性について気が付いた。俗に超能力と言われてきた人の持つ不可思議な数々の能力…。それらは全て、オーラの力が発現した姿、現象なのだと理解したのだ。

つまり人はスキルなど無くてもオーラの扱い方さえマスターすれば、それなりに超能力っぽいことの再現が可能なのだ。

たとえばオレが今までになんとなくで感じ取っていたスキルオーブからの情報も、本当はオーラを使ったサイコメトリー能力だと理解して使えば、この通り…。

「ふぅ、わかったぞ!このオーブのスキルは【魅了】だっ!」
『きゅわ~ぱわわ~!』


           
レベル   40        
種族:人間
職業:教師

能力値
筋力:   500      
体力:   500      
知力:   500      
精神力:  500       
敏捷性:  500       
運:    486      
やるせなさ:656      

加護:
【塩の加護】

技能:
【強酸】2・【俊敏】・【病耐性】7・【簒奪】・【粘液】7・【空間】6・【強運】1.4・【足捌】・【瞑想】・【塩】5・【図工】・【蛆】・【女】・【格闘】6・【麻痺】4・【跳躍】9・【頑健】8・【魅了】

称号:
【蟲王】・【ソルトメイト】・【しょっぱい男】・【蟲女王】・【女殺し】


「ふ…やはりそうか。なんともバンパイアらしい下卑たスキルだ…ふんッ!」

などと口ではそう漏らしつつも、オレはもっとこの素敵スキル【魅了】のレベルをあげたくて、新たな獲物を求めせっせと地下11層を彷徨うのだった。
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