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決戦に首ったけ

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『バリュン!バリュ~ン!!(カキッ)、バリュルリララ…!』

久々に陽の光を浴び、打倒『蠅の女王計画』の為にバイクを出して買い物に出かけた江月。

しかしそしてそんな江月が出かけていったアパートの前に、ふたりの女子大生が姿を現したっちゃ。

「へぇ~、コーチこんな街に住んでるんだぁ…」
「そうそう、通りにラーメンショップがあったでしょ。あそこのニンニクが山になって入っているニンニクラーメンが、師匠は大好物なんだよ。だからルウの口が多少ニンニク臭くたって、師匠はぜんぜん気にしなかったんだから」

「もぉ万智ちゃん、それ言わないでェ!」

街並みにきょろきょろとしていた瑠羽が、デートの時に口がニンニク臭かったことを言われ、その恥ずしさを赤くなって怒り誤魔化す。

「ほら、あそこ、あそこが師匠の…って、あれ?バイクがない。もしかして出かけてるのかも??」

万智の言う通り、いつも江月がバイクを停めているアパートの駐輪場には、江月のバイクが見当たらなかった。

「え、コーチいないの…??」

それを聞き途端にオドオドし始める瑠羽。昨晩も銭湯に行けば江月に会えるものとすっかり思い込んでいた瑠羽は、銭湯で江月の姿が見当たらずにガッカリとショゲて帰ってきたのだった。

「ん~まぁそういう事もあるでしょ、連絡つかなかったんだし!きっと師匠も整体の学校とかで忙しくしてるんだと思うよ!」

万智は気落ちした瑠羽の為に、精一杯明るくポジティブな見解を述べた。

「そっか…、忙しいなら、忙しいならしかたないよね…(しょぼん)」

しかしそれを受けても、見るからに萎んで気落ちしていく瑠羽。

「あ、そうそう!ならルウ!師匠に置手紙をしたらいいじゃない!それなら間違いないよ!」
「アッ…そうする!万智ちゃん、さっきコンビニあったよね!あそこで、あそこでチョコも買って来るね!(タッ…!)」

瑠羽は置手紙と一緒に江月にチョコを贈りたいらしく、万智をその場に残してコンビニへと小走りに駆けだしていく。

その後ろ姿を見送ると、万智はアパートを振り返って見上げ、連絡の取れない江月の事を心の中で思った。

(もぉ…江月さんどこ行っちゃったのよぉ~!これじゃあルウが可哀相でしょ!どうして返事くれないのぉ…)


……。


『バリュ~ン!(カキッ、カキッ)バリュルリララ…キュ…』

深夜、自宅のアパートへと帰宅した江月。

『(がさごそ、ふぁさ)。カツ…カツ…カツ…』

バイクにしっかりとカバーをかけると、タンクバックを肩にかけ階段を上る。

『チャ…カシャン。ガチャ…バスン』

そして鍵を使って解錠すると、ポストの中にある瑠羽のメッセージの書かれた紙とチョコには全く気付かずに、部屋のなかへと消えたのだった。


…。


女王、女王、女王…。

オレはずっと蠅の女王のことを考えていた。

何百匹という巨大蠅を従え、巨大な蛆の津波まで起こす地下10層の女王。果たしてオレは、そんなスゴイ蠅の女王に勝てるのだろうか…と。

だが計画を思いつき、作戦を立てた。

それでも、うまくいくかは半々だろう。でもやらねば、オレの失った左足の仇は取れない。ならばオレは行動を開始する。そうしなければ、決して前には進めないからだ。

夕飯は回転寿司に寄って、好きなネタを思い切り食べてきた。これが人生最後の食事となっても、悔いの残らないようにと。

人生の最後だからといって、格別普段食べ慣れない豪勢なモノを食いたいとは思わない。

食べ慣れた一皿100円程度の寿司を腹いっぱいに食べられれば、それで十分だ。なにせカマドウマの肢なんてシロモノを、しばらく主食にしていたのだから。だからおいしいお寿司を低価格で提供してくれる回転寿司には、本当に感謝しかない。

ちなみに最近は海老にハマっている。また美味しい海老を美味しくいただく為にも、生き残らねばならない。

「(フキュン…!フキュキュン!)さて…では行くかッ!(すくっ!)」


…。

そうして、地下10層へと下りて来ていた。

『ヒヤっ…、ファァァァァ~……』

この階層のどこかに、蠅の女王がいる。

しかし階段を降りたすぐ正面に続く通路には、モンスターの影はない。

「よし、これは好都合だ…。粘液壁ミューカスウォール!」
『ズモモモモモモ…!!』

高さと幅4メートルほどのダンジョン通路に、厚さ2メートルにはなろうかという分厚い粘液の壁を生み出す。容量でいえば約8t、これだけでオレの精神力の半分以上を消費してしまう。でもこの壁が作戦の要、手を抜くことは決して出来ない。

『ブゥゥン…!ブワン!ブブブブ…』

「む、偵察か?早速きたな、ファイヤショット!(ボッ…ボヒュ!)」

通路に飛んできた一匹の巨大蠅。ソイツに向けフャイヤーワンドで火球を見舞う。なんだかんだでホーミング機能の付いたファイヤーワンドは、便利で良い。

『ボンッ!…ウブブブ(どちゃ!)ブブブブブブ…』

「ふん!今は一匹二匹を相手にしてる場合では…と、いかんいかん!素早く飛ぶ蠅にこのワンドが便利だが、この通路は今から火気厳禁だ。気をつけねば…」

この直線通路と、粘液で作った頑丈な壁。コレが肝。それを忘れちゃいけない。

「え~と、上下右左右左ABだから…逆だとBA左右左右下上の順だな。よし、粘液フィルム展開!」

ダンジョンの直線通路に、3メートル間隔で透明で薄い粘液の膜を形成していく。

この薄い粘液、薄く透明なので非常に見えにくい。なので視界が複眼の巨大蠅には、きっとよく認識はできないだろう。それが狙いだ。この薄い粘液は、触れれば容易く破れてしまう。でもこの粘液に一度触れてしまったなら、ずっと絡みついてベタベタとする始末の悪い粘液。コイツで自由に飛びまわる巨大蠅を絡め取り、封殺していく。

「ふぅむ、通路はここで切れ、この先は大広間…か。よし、ではここで粘液ドームを張って様子を見ればいいだろう。粘液ネット!(きゅばぁぁ!)」

スキルを発動させると、粘液の網が広がり地蜘蛛の巣のようにして通路の出入り口を塞ぐ。

「さて、お次はコイツだ」

空間庫から取り出したのは、8台の〇ニ四駆。電池とモーターの力で走る事の出来る高性能なプラスチック製の車。そしてそのボディの上には、しっかりと燻煙式殺虫剤が接着されている。

『かしゅ!とぽぽぽ…』

それらに水を注いで燻煙式殺虫剤を作動させると、〇二四駆の電源を入れ暗い地下貯水池のような大広間に向け次々と発進させた。

『ぎゅぅぅぅぅぅん…!ぎゅぅぅぅぅぅん…!ぎゅぅぅぅ…!』

ダンジョンの床は完全なまっ平らではないが、大きなタイヤを履かせスピードよりもパワーのギヤ比に換えた〇二四駆たちは、地形をモノともせずダンジョンの闇のなかへと消えていく。

これはまぁ、囮と挑発だ。

だれも市販の燻煙式殺虫剤で巨大蠅を、ましてや蠅の女王が倒せるなどと思っていない。なのでこの燻煙式殺虫剤を背負った〇ニ四駆たちには、『オレという存在がまた地下10層にやって来たぞ』という、戰を告げる移動式狼煙の役をしてもらった。

異常を察知すれば、あの蠅の女王が必ず姿を現す筈だ。

…。

『ジャリ!シュバァァァアア…!!ぽいっ!』

巨大地下貯水池のようなダンジョンの大広間に向け、発煙筒を投げる。

『(シュバアァァァァァァ……!)』

遠くで発煙筒が赤い炎を噴き、煙を上げながら燃える。あれから一時間経った。が、未だ蠅の女王は現れない。

(くそう、誘い出しに失敗とは…。罠と気付かれたか?もしこれ以上時間を取るようだと、せっかく生みだした粘液が持たない。これは一度、仕切り直しも考えねば…んッ!?)

『『『(ウワン!ブワン!ウブブウブブブブ…!!)』』』

遠くから、ダンジョンの壁に反響するようにして耳障りな音が近づいてくる。そして…。

『(カツカツカツ…)』

そんな耳障りな翅音に混じって、まるでハイヒールを履いた女性のような足音も…。

『『『『ウワン!ブワン!ウブブウブブブブ…!!』』』』

(来た…ッ!何百匹という巨大蠅の乱れ飛ぶ団子ッ!あのなかに…蠅の女王がッ!!)

『『『『ブワァァァ…!!』』』』

『カツ…』

巨大蠅たちが一斉に花開くように広がると、なかから四本の手を腰に当てて、ポーズを決める蠅の女王が姿を現した。

(ちくせう…カッコイイじゃない!真打は遅れてやってくるってか!!だが見てろよ…。オレの左足の仇、おまえの命でキッチリ償わせてやるッ!)

巨大蠅たちに囲まれポーズを決める蠅の女王。と、地蜘蛛の巣のような粘液のなかで歯ぎしりをするオレ。

怪人銀蠅女王VS怪奇蟲男の決戦。

この一戦、死ぬ気でかかるッ!だが、勝つのはオレだッ!
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