上 下
84 / 613

計画・ストーカー撲滅囮作戦

しおりを挟む
(う~ん、瀬来さんに自宅に帰って頂くには、いったいどうしたものか…)

オレは翌日もそんな事に頭を悩ませていた。ちょっと前からすれば、なんとも贅沢な悩みである。


「ズッキーさん?次、ズッキーさんの番ですよ」
「おっと、そうだったな。悪い悪い」

ここは整体の学校で、今は授業中。うむ、しっかりと勉学に勤しまねば。

「よし、では施術していくぞ佐藤」
「いえ、ボク加藤です…」

なんだ。ベッドに俯せで寝ている方が加藤で、オレに声を掛けたほうが佐藤か。おまえたち背格好も髪の色も似ているから解りずらいんだよ。赤と青に変えてくれ。そしたら解るから。

「まぁいい、ではゆくぞ!ちょう微細びさい・震動破《しんどうは》ァーーーッ!!」
「ぎゃああああぁ~!(シビビビビビビビビビ…ッ!!)」

解説しよう。超微細震動破ちょうびさいしんどうはとは、直接対象の身体に触れ振動を叩きこむ必殺技だ。

一見ただ腕を震わせているマッサージにしか見えないが、その震動は常人の約20倍を誇る力でもって放たれているので、威力は電動マッサージ機の起こす振動を遥かに凌駕する。故にこの震動破を叩きこまれた肉体は、しつこい筋肉の凝りもまるで地震によって液状化してしまった地面の如く、へにゃへにゃになってしまうのだ。

「ぷ…ぷしゅぅぅぅぅ~…。ぅぅぅ…。(ぐったり…)」
「よし、身体の凝りは取れたようだな。では起きて次の施術だ…」

寝ている加藤…あれ、佐藤だっけ?を、とにかく起こしベッドの端に座らせる。そしてオレがベッドの上に乗り、背後からその腰を膝でロック。蹲踞そんきょ態勢で後ろから包むような感じだ。

「(ブッピガン!)腰部骨盤のホールドを確認。続いて頭部頭蓋骨のホールドを行なう(ガシッ!)」

「う、ズ、ズッキーさん?」
「だいじょうぶだ。これから頸椎および脊椎を伸長させ、椎間板のストレスフリーシークエンスを実行する。はい、息を吸ってぇ~…、吐いてぇ~…インパクト5秒前~…サン、ニィ、イチ…せいっ!(ぐいっ!!)」

『グボキボキボキボキィ~~ッ!!』
「ぐわぁああああああぁ~ッ!!」

加藤だか佐藤だかの骨が盛大に鳴り、ついでに本人も盛大に悲鳴をあげている。

「こ、これは…ッ!?」

おっ、ブルドッグ顔なおっさんの武藤さんが良いリアクション。どうよ、これがオレの編み出した必殺技。ヘッドハンギングインパクトだ。

まず腰部骨盤をバイクのガソリンタンクを膝でしっかりと固定するようにニーグリップ、次いで頭部頭蓋骨を両手で持ち、その首を引き抜くかのようにして上へと勢いよく持ち上げる。

これにより重力による負荷で押し潰されていた椎間板、ようするに背骨と背骨の間にあって骨同士がぶつかって痛まないようにしている軟骨をストレスから解放し、元の形へと戻してやる必殺技だ。ちなみに必殺技と称しているが、とくに人が死ぬわけではない。

「どうだ、加藤。あれ…佐藤だったか?」
「う…うぅぅ…。神経が痺れてジンジンします…。それに脳みそも引き絞られたみたいに引っ張られて…」

「ハハハ、そうかそうか。痺れが治まるまで寝てていいぞ。ゆっくりと呼吸…うん、それで、鼻の通りはどうだ?」

「え?(すんすん)…あ!なんかすごくスッキリしてます!」
「うんうん、そうだろう」

実はオレ、最近のマメな瞑想のせいか、オーラとか気の流れとかが朧気ながら視えるようになったのだ。

それによると今施術を行なった加藤だか佐藤は鼻炎持ちなのか鼻の部分に気の滞りがあった。なので整体の施術を行なうと同時に、オレの気も照射して滞っていた気の流れを治してみたのだ。

「頸椎の軟骨が押し潰されてはみでてくると、その分だけ首を通る神経や血管を圧迫するのは習ったよな?それで鼻炎持ちのおまえには、鼻の部分に余計な血が溜っていたんだ。今は背骨の歪みも軟骨のはみだしも治まったから、血流がよくなってうっ血もとれ、鼻の通りも良くなったんだよ」

「うわぁ…そうだったんですか。ありがとうございます。ハァ…、すっごく驚きましたけど…」
「よしよし。こちらこそ、ありがとうございました」

互いの技量を高め合う者同士として、お互いに礼をして次の者に場所を空ける。

「ス…スゴイですズッキーさん!いまの、私にも教えてもらえませんか!」

と、ここでグループの紅一点。少し色黒でソバカスだけど、犬歯がキュートで可愛らしい後藤ちゃんがオレに話しかけてきた。オレが学校に来ると、大概このメンバーになるな。

「う~ん、今の後藤ちゃんには少し難しいかなぁ。もうすこし筋力をつけないと」
「えぇ~、そうですかぁ…」

「ならズッキー。超微細なんとかは、どうやるんだ?おしえてくれないか」

このグループの平均年齢をあげる中年。かなり色黒でシミだらけだけど、ブルドッグ顔が見る人によっては可愛らしいと思えなくもないかもしれない武藤さんがオレに話しかけてきた。このおっさんとは、よくラーメン談義で盛りあがるんだよな。

「武藤さん、超微細震動破は要するに力技ですよ。電動マッサージ機よりも微細で強力な振動を生み出すつもりで、腕を震動させるトレーニングを積むだけです」

「うむむ…そうか。むぅん!(ぷるぷるぷる…ぷるぷるぷる…!)」

「いや…あのさ。みんなボクの施術も見ててくれないかな…?」

施術される側を終えて、施術する側に回った佐藤だか加藤が悲しそうにおしゃべりするオレ達を見つめる。うん、わかってるよ。見てるからしっかりとやってくれ。


……。


先日の、『ギルドの受付嬢ちゃんを愛でるスレの者たち』の起こした騒動。

彼らは瀬来さんをファンタジーなギルドの受付嬢さんに見立て遠巻きに見守るという、まぁ迷惑ではあったがそれだけ連中だった。

そんな彼らは瀬来さん本人からキツくお叱りを受け、『もうこんな事はしない』と謝って隠し撮りした動画を削除することで許してもらい解散していった。まぁ、また多少は瀬来さんの近くをうろついたりはするんだろうが、概ね問題はないだろう。

問題は『まだ私をつけ狙っているストーカーがいる!』と言って、ウチに居座り続けている瀬来さんのほうだ。彼女がいると、安心して冷蔵庫ダンジョンにも潜れない。そこで困ったオレは、仁菜さんに相談してみることにした。

彼女は大人びていてオレなんかより落ち着いているし、瀬来さんの性格もよく把握している。なのでなにかいい方法を考えてくれるのではないかと思ったのだ。

そこで、まぁ仁菜さんも瀬来さんから話は聞くだろうが、オレからも『ギルドの受付嬢ちゃんを愛でるスレの者たち』の起こした騒動のことを伝え、それでもまだ瀬来さんが『まだ私をつけ狙っているストーカーがいる』と言ってウチに留まり続けている事。そして瑠羽の手前、彼女の親友とはいえ男女であまり長い事いっしょに暮らすのも、またどうかと考えている。

と、いった内容を電話で仁菜さんに伝えてみた。

『そやねぇ…。そしたらウチも少し考えてみるわぁ~』

と電話が切られ、それから二時間ぐらいしたら、『ストーカー撲滅!ドキッ♡ほろ酔い美女の帰宅囮大作戦!』と題されたメッセージが送られてきた。

確認してみると、

①囮の瀬来さんと仁菜さんが連れだって、ストーカーの眼につきそうな場所をねり歩く。
②囮の瀬来さんと仁菜さんが連れだって、居酒屋などに入ってお酒を飲む。
③酔ったフリの瀬来さんと仁菜さんが、千鳥足で瀬来さん宅に帰宅。
④帰宅後、仁菜さんはすぐに部屋を出る。しかしその際に酔ったせいにして扉などを全て開け、無防備な状態にして帰る。
⑤もしストーカーがそれを視ていたなら、酔って無防備な状態となった瀬来さんを襲うために必ず部屋に侵入をしてくるはず。
⑥そこをオレが捕える。

といった内容が記されていた。

「おおっ!これはッ!!」

完璧だ。なんという見事なハニートラップだろうか。これであればストーカーは間違いなく罠に掛かるに違いない。オレは仁菜さんの智謀に舌を巻いた。流石だ。

しかも『経費はコォチ持ちやでぇ♪』となっているところも、如何にも仁菜さんらしくて抜け目がない。

『経費はオレが持つから、仁菜さんから瀬来さんに話を振ってくれ』とゴーサインを出すと、しばらくして、『スパイ映画みたいで楽しそうだから、シャークも誘おう!』と、瀬来さんからのメッセージが届いた。うん、仁菜さんがうまく話してくれたようだ。

それにしても、シャークも参戦か。あの海水浴旅行以降、瀬来さんはシャークとも連絡を取り合っていたようだ。

ふふふ、これはなんだか面白くなってきたじゃないか。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...