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【第五章】皆、覚悟を決める
各々の覚悟(3)
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「……して、お嬢さん。それはどこに?」
「え?」
「マリィよ。その鋏はどこにある?」
「あー……っと」
『娘。とっとと持ってこい』
「うーん、と」
タマのみならず、アリエルと伯爵からも急かしたように問いかけられたマリィは顎に手を当てたかと思いきや腕を組み、首を傾げながらまた唸った。そしてふっと顔を上げる。
「どこだったかしら?」
近くにいた海の男たちが盛大にコケる。「そこまで思い出しておいて!」という声が聞こえなくもない。
しかしそれはどうしようもないことでもあった。なんせ十五年も前の話なのだ。マリィにはその間リメイの記憶はなかった。つまりうっとりと語った銀色の髪との思い出もつい今し方蘇ったのであって、鋏の所在までもがすんなり思い出せるはずもなかった。
その時、がっくりとうなだれる男たちの傍らからスッと手が伸びてきた。チカッと光ったそれに誰もが目を見張る。
「お嬢様の鋏は私が預かっておりました」
フォーデン伯爵の側に仕えて何十年。夫人亡き後は邸の主に代わり影の如き働きによって伯爵家を支え続けてきた男、フォーデン伯爵邸の執事長がそこにいた。
「っ、お前、今までどこに」
「旦那様、私めはずっとお側におりました」
フォーデン伯爵の驚きの声が上がる。なんせこれまで気配一つ見せなかった執事が突然現れたことに、タマでさえ肝が冷えたのだ。ずっと側にいたことなど誰もが信じられなかった。
「マリィが毎夜鋏を抱きハラハラと涙を零すので命を辞する前に、と預かっていたのです」
「っ執事長!」
「さぁ、マリィ。これをお嬢様の半身のお方の元へ届けてきなさい。もう泣いてはいけない」
「っ……はい!」
涙を拭ったマリィが執事から鋏を受け取る。
それを見ていたアリエルがふっと顔の強張りを解いたのをタマは見逃さなかった。
『自分が撒いた種にお前も怯えていたのか?』
「……俺にはこの国と、この国に住む人を守る使命がある。それが叶わないともなればここで辞する覚悟だった」
『ヒトは愚かよの。お前一人この世から消えたところで何の痛手にも効力にもなりはしない』
「しかしそれ以上に為すべきことなど」
『おれはこれからホークを迎えに行く。お前は精々ここで足掻いていろ』
「っ……言われるまでもない」
目に輝きを取り戻した男が見据えるのは、一人の魔法使いが命をかけて作り出したひらがなの壁のその向こう、ただ一つ。
「この命、ランドローバーの名のもとに!」
鞘から剣を抜き高らかに叫ぶ男にはもう迷いはない。後は己にできることをするのみ。
「サルーンは王宮にいる。ダッヂよ、無事にここまで送り届けてくれ」
『ふんっ……言われるまでもない』
タマがマリィに近寄るのを見届けて、アリエルは海に向かって走っていった。
「待て、私も行こう」
「旦那様はどうか安全な場所に。このマリィめが必ずや届けて参ります!」
「いいやマリィ。私は行かねばならないのだよ」
「旦那様っ」
「そのホーク殿とやらは我が娘とえらく深く繋がっているようだ。親として、見ておかねばなるまい」
ここにもまた、鋭く眼孔を光らせ覚悟を決めた男がいた。
「え?」
「マリィよ。その鋏はどこにある?」
「あー……っと」
『娘。とっとと持ってこい』
「うーん、と」
タマのみならず、アリエルと伯爵からも急かしたように問いかけられたマリィは顎に手を当てたかと思いきや腕を組み、首を傾げながらまた唸った。そしてふっと顔を上げる。
「どこだったかしら?」
近くにいた海の男たちが盛大にコケる。「そこまで思い出しておいて!」という声が聞こえなくもない。
しかしそれはどうしようもないことでもあった。なんせ十五年も前の話なのだ。マリィにはその間リメイの記憶はなかった。つまりうっとりと語った銀色の髪との思い出もつい今し方蘇ったのであって、鋏の所在までもがすんなり思い出せるはずもなかった。
その時、がっくりとうなだれる男たちの傍らからスッと手が伸びてきた。チカッと光ったそれに誰もが目を見張る。
「お嬢様の鋏は私が預かっておりました」
フォーデン伯爵の側に仕えて何十年。夫人亡き後は邸の主に代わり影の如き働きによって伯爵家を支え続けてきた男、フォーデン伯爵邸の執事長がそこにいた。
「っ、お前、今までどこに」
「旦那様、私めはずっとお側におりました」
フォーデン伯爵の驚きの声が上がる。なんせこれまで気配一つ見せなかった執事が突然現れたことに、タマでさえ肝が冷えたのだ。ずっと側にいたことなど誰もが信じられなかった。
「マリィが毎夜鋏を抱きハラハラと涙を零すので命を辞する前に、と預かっていたのです」
「っ執事長!」
「さぁ、マリィ。これをお嬢様の半身のお方の元へ届けてきなさい。もう泣いてはいけない」
「っ……はい!」
涙を拭ったマリィが執事から鋏を受け取る。
それを見ていたアリエルがふっと顔の強張りを解いたのをタマは見逃さなかった。
『自分が撒いた種にお前も怯えていたのか?』
「……俺にはこの国と、この国に住む人を守る使命がある。それが叶わないともなればここで辞する覚悟だった」
『ヒトは愚かよの。お前一人この世から消えたところで何の痛手にも効力にもなりはしない』
「しかしそれ以上に為すべきことなど」
『おれはこれからホークを迎えに行く。お前は精々ここで足掻いていろ』
「っ……言われるまでもない」
目に輝きを取り戻した男が見据えるのは、一人の魔法使いが命をかけて作り出したひらがなの壁のその向こう、ただ一つ。
「この命、ランドローバーの名のもとに!」
鞘から剣を抜き高らかに叫ぶ男にはもう迷いはない。後は己にできることをするのみ。
「サルーンは王宮にいる。ダッヂよ、無事にここまで送り届けてくれ」
『ふんっ……言われるまでもない』
タマがマリィに近寄るのを見届けて、アリエルは海に向かって走っていった。
「待て、私も行こう」
「旦那様はどうか安全な場所に。このマリィめが必ずや届けて参ります!」
「いいやマリィ。私は行かねばならないのだよ」
「旦那様っ」
「そのホーク殿とやらは我が娘とえらく深く繋がっているようだ。親として、見ておかねばなるまい」
ここにもまた、鋭く眼孔を光らせ覚悟を決めた男がいた。
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