最強師弟は歪な愛の契を結ぶ

あまき

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【第五章】皆、覚悟を決める

時計台とあの人(2)

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 忘れもしないその声。
 恐る恐ると振り返ったリメイの先にいたのは、いつぞやの天然騎士、アリエルだった。


「っ……お、お久しぶりです」
「ほんとに。一年ぶりになるか?」
「今日は、どうして?」
「なぁに。祭りの護衛で呼ばれたんだ」


 久しぶりの再会に驚き、リメイはまじまじとアリエルの顔を見つめた。
 その姿は以前と変わらない騎士服で、こんなお祭りの日であっても駐屯所のお巡りさんとしての仕事に励んでいるようだった。

 アリエルが腰に差した剣を撫でると、チャキッと音が鳴る。その音に導かれるようにリメイも視線を落とすと、そこには以前リメイの編んだ組紐が巻かれていた。


「それ、まだ使っていたんですか?」
「……あぁ。もちろん」


 骨ばった手が腰で鞘を支えている組紐に触れるのをリメイはじっと見つめる。アリエルはしみじみと、何かを噛みしめるような表情で手元を見ていた。


「不思議なことに、あれから何度も討伐任務に出て時に死にかけることもあったが、いつも間一髪で助かってきたんだ」
「そ、そんなことが」


 ふっと笑って、アリエルが視線をリメイに向ける。


「ヤッバの魔力を込めたまじないが効いたらしい。俺のお守りだ。もう手放せなくなった」
「そうでしたか」
「もはや死線を共にくぐり抜けた相棒だ。本当にありがとう」
「そんな! 願いが効いてよかったです」


 アリエルの爽やかなその笑顔に、リメイもにっこりと笑って返す。自分のために編んだものだったが、他者にもそのまじないは効いたようで、リメイとしては嬉しい限りだった。


(ならホークのために編んだあの組紐も、きっと彼を守ってくれるよね)


 ここから遠い先の王都にいるその人を思い、リメイは胸に手を当てた。


「して、君はここで何を?」


 話題を変えたアリエルに、リメイは用意していたかのようにこやかに答える。


「今日のお祭りで時計台が開かれると聞いて、ぜひ登ってみようと思ったんです。中のぜんまい仕掛けも見てみたくて」
「ほほう。ここは歴史のある建物だからな。魅力的に思う者も多い」
「確か三百年程前に建てられたとか」
「うむ……ん? やや! そうか。ヤッバは歴史に興味があるのか?」
「え? ええ。まぁ」


 アリエルが突然閃いたかのように手を打ち、リメイの肩を掴んだ。


「よぉし! ならヤッバよ。これから時間はあるかな?」
「え?」
「この町の図書館に時計台の歴史について詳しく書かれた本がある。しかし修復の関係で随分と長い間奥に仕舞われていてな」
「はぁ」
「どうだ? 読んでみたいか?」


 キラキラと目を輝かせているアリエルに少し押され気味のリメイだったが、その歴史書とやらには興味があった。


「読んでみたい、ですけど。奥にあるなら見られないんじゃ?」
「俺はこれでもいっぱしの騎士だ。頼めば入れてもらえる。一緒に読みに行かないか?」
「え……でも」
「この組紐のお礼だ。そんなことで賄えるものではないが、ヤッバが喜んでくれることで俺にもお返しをさせてほしい」


 明るくにっこり笑うアリエルに、リメイも顔を綻ばせる。


(歴史を知れば、ハンバーお師匠のことも何か分かるかもしれない……!)


 そうすればホークの野望の手助けにもなるだろう。そう思うとリメイは弾む心が抑えられなかった。


「アリエルさん」
「どうだ?」
「行きます。嬉しいです。ありがとうございます」
「なぁに。俺にできることならなんでもしよう!」


 リメイはアリエルの頼もしさにふふっと笑って、その後をついていった。





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