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【第二章】少女、友を得る
友との決裂(2)
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「っタマさん! 後ろ!」
『む?』
向かい合っていたタマさんがくるりと振り向いた瞬間に、リメイは後ろに走る。
「ま。まさか引っかかるなんて!」
『むぅ。してやられたな』
自分史上における全速力を出して走るリメイ。
その後ろを追ってくるタマは余裕そうにしていて、リメイはぎっと奥歯を噛んだ。そして前を見据えて息を呑む。
リメイが見つめるその先、そこは生い茂っていた木々が開けて、崖になっていたのだ。
「なにかないか、なにかなにか……っ!」
《火》と《ひらがな》しか持たない自分にできることは何か、リメイは必死に考えた。
「っ、出でよ! 《へ》!」
『へ?』
リメイが叫んだ先にゴシック体のひらがな、それも大きな《へ》が現れた。
いつも通りふよふよと浮かぶかと思いきや、質量をもったそれは前方の崖の際へ音を立てて落ちる。
どぉぉん……!
「出でよ! 《そ》!」
『そ?』
リメイの叫び声と同時に今度は少し小さめの、しかし同じひらがなゴシック体の《そ》が出た。《へ》のおしりあたりでぴょんぴょん跳ねる《そ》をめがけて、リメイは今以上に勢いをつけて走る。
「っ……いっ、けぇぇぇ!」
リメイは思いきりジャンプをして《そ》の上に飛び乗った。すると《そ》がバネのように沈み、弾んで、反動でリメイの体が大きく飛び上がる。
そのまま《へ》の山頂へ飛び降り、びゅんっと頭の方へと滑った。そう、まるで――
「その名もぉ! 《へ》の滑り台よぉぉぉ!」
リメイの体は滑った勢いで空を舞い、そのまま崖下の山へと落ちていった。
『……なんだ? それは』
崖の際で呆れた声を響かせたタマはため息を一つ吐く。
『後を追うか……なんにせよリメイとて馬鹿ではない。何か意図があって飛んだのだろう。少し様子を見るか』
タマは崖下を一瞥してから、くるりと向きを変えて歩き出した。
◇◇◇
一方、特に意図もなく滑り台ジャンプを遂げたリメイはというと、なんとか森の木々に引っかかって一命を取り留めていた。
「いや、死ぬかと思ったから……普通に」
体を伸ばし木から降りて、服の埃を払う。木々で傷つけた手の平を見て、顔を歪めた。
「タマさん、本気の爪弾きだった……このままほんとに、野生に戻ってしまうの?」
服従の契とは、解けたら捕食者と非捕食者の関係に戻るもの。つまり――
「私が勝たないと、タマさんは私を忘れてしまうの? っそ、そんなのいやだ!」
戦わないといけない。これからも一緒に暮らすために、頑張らないといけない。リメイの頭の中はタマでいっぱいだった。
「っ、なにか使えるひらがな、ないかしら」
思い立ったリメイは近くにあった木の枝を取ってその場にしゃがみ込み、地面に〝あ”から順番に書いてみる。
「剣技とか、習っておけばよかったなぁ」
自分にも得意な武術があればよかったと思わなくはない。しかし今のふにふにとした柔らかい手では剣技などこなすことなどできないだろう。
「あぁ~騎士様とかいたらなぁ。誰でもすぐにできるような剣技とか、教えてもらえるかもしれないのになぁ」
薄い望みをボソッと口に出す。騎士の存在や簡単にできる剣技など、ここは前世でたくさん読んだ漫画や小説の世界ではないのだ。そんな都合のいいことがこんな森の中で叶うわけない。
「っ、だめだめ。実際の騎士なんて、見つかったら魔法使いの私は捕らえられちゃう。現実を見るのよリメイ……」
しかし、その時。
ガサガサッ……
「……は?」
突然近くの茂みで音が鳴った。
ここはリメイとタマのために用意されたホークの結界内だ。他に誰かがいるわけない。
「なのに……もしかして、ほんとに……?」
神の助けでもあるというのか。リメイは茂みをじっと見つめた。すると――
ガウゥゥッ……
「……な、わけないわよね」
そこには大きな魔獣がいて、ギロッとリメイを睨んできた。突然後ろ足で立ち上がって、まさかの二足歩行の型を取る。前世で言うならそうそれは、大型の熊のような魔獣であった。
ガウウウウゥゥゥゥ!
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
魔獣の遠吠えと同時にリメイはまた、自分史上最速を更新しながら走った。
『む?』
向かい合っていたタマさんがくるりと振り向いた瞬間に、リメイは後ろに走る。
「ま。まさか引っかかるなんて!」
『むぅ。してやられたな』
自分史上における全速力を出して走るリメイ。
その後ろを追ってくるタマは余裕そうにしていて、リメイはぎっと奥歯を噛んだ。そして前を見据えて息を呑む。
リメイが見つめるその先、そこは生い茂っていた木々が開けて、崖になっていたのだ。
「なにかないか、なにかなにか……っ!」
《火》と《ひらがな》しか持たない自分にできることは何か、リメイは必死に考えた。
「っ、出でよ! 《へ》!」
『へ?』
リメイが叫んだ先にゴシック体のひらがな、それも大きな《へ》が現れた。
いつも通りふよふよと浮かぶかと思いきや、質量をもったそれは前方の崖の際へ音を立てて落ちる。
どぉぉん……!
「出でよ! 《そ》!」
『そ?』
リメイの叫び声と同時に今度は少し小さめの、しかし同じひらがなゴシック体の《そ》が出た。《へ》のおしりあたりでぴょんぴょん跳ねる《そ》をめがけて、リメイは今以上に勢いをつけて走る。
「っ……いっ、けぇぇぇ!」
リメイは思いきりジャンプをして《そ》の上に飛び乗った。すると《そ》がバネのように沈み、弾んで、反動でリメイの体が大きく飛び上がる。
そのまま《へ》の山頂へ飛び降り、びゅんっと頭の方へと滑った。そう、まるで――
「その名もぉ! 《へ》の滑り台よぉぉぉ!」
リメイの体は滑った勢いで空を舞い、そのまま崖下の山へと落ちていった。
『……なんだ? それは』
崖の際で呆れた声を響かせたタマはため息を一つ吐く。
『後を追うか……なんにせよリメイとて馬鹿ではない。何か意図があって飛んだのだろう。少し様子を見るか』
タマは崖下を一瞥してから、くるりと向きを変えて歩き出した。
◇◇◇
一方、特に意図もなく滑り台ジャンプを遂げたリメイはというと、なんとか森の木々に引っかかって一命を取り留めていた。
「いや、死ぬかと思ったから……普通に」
体を伸ばし木から降りて、服の埃を払う。木々で傷つけた手の平を見て、顔を歪めた。
「タマさん、本気の爪弾きだった……このままほんとに、野生に戻ってしまうの?」
服従の契とは、解けたら捕食者と非捕食者の関係に戻るもの。つまり――
「私が勝たないと、タマさんは私を忘れてしまうの? っそ、そんなのいやだ!」
戦わないといけない。これからも一緒に暮らすために、頑張らないといけない。リメイの頭の中はタマでいっぱいだった。
「っ、なにか使えるひらがな、ないかしら」
思い立ったリメイは近くにあった木の枝を取ってその場にしゃがみ込み、地面に〝あ”から順番に書いてみる。
「剣技とか、習っておけばよかったなぁ」
自分にも得意な武術があればよかったと思わなくはない。しかし今のふにふにとした柔らかい手では剣技などこなすことなどできないだろう。
「あぁ~騎士様とかいたらなぁ。誰でもすぐにできるような剣技とか、教えてもらえるかもしれないのになぁ」
薄い望みをボソッと口に出す。騎士の存在や簡単にできる剣技など、ここは前世でたくさん読んだ漫画や小説の世界ではないのだ。そんな都合のいいことがこんな森の中で叶うわけない。
「っ、だめだめ。実際の騎士なんて、見つかったら魔法使いの私は捕らえられちゃう。現実を見るのよリメイ……」
しかし、その時。
ガサガサッ……
「……は?」
突然近くの茂みで音が鳴った。
ここはリメイとタマのために用意されたホークの結界内だ。他に誰かがいるわけない。
「なのに……もしかして、ほんとに……?」
神の助けでもあるというのか。リメイは茂みをじっと見つめた。すると――
ガウゥゥッ……
「……な、わけないわよね」
そこには大きな魔獣がいて、ギロッとリメイを睨んできた。突然後ろ足で立ち上がって、まさかの二足歩行の型を取る。前世で言うならそうそれは、大型の熊のような魔獣であった。
ガウウウウゥゥゥゥ!
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
魔獣の遠吠えと同時にリメイはまた、自分史上最速を更新しながら走った。
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