最強師弟は歪な愛の契を結ぶ

あまき

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【第二章】少女、友を得る

畑と修行(2)

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     ◇◇◇



 大きな体のホークが小さな畑に足を踏み入れる。

 歪な形をした畝の間を長い足で難なく進み、リメイが頑張って育てた野菜たちの間からそっと一つの実を収穫してきた。
 それは数種類ある野菜たちの中でも今年一番の収穫を誇ったものだった。


「これはね、カンショよ。知ってる? 隣国のものよ」
「いえ。初めて見ました」


 濃い緑の硬い皮に包まれたそれをどう食べるのか、一見しただけでは分からない。


「カンショはねぇ、表面をカリッと焼いて中はホクッと火を通すととぉっても甘くて美味しいの」
「はぁ。なんだか《やきいも》みたいですね」
「あら、いつもの字体に戻ったわね。どういう原理?」


 情報から察するに前世で言うところのさつまいもに近いのだろう。灰汁の強いそれを思い出しては、丸かじりする前に教えてもらえてよかったと、リメイは心底思った。


「それでその、カンショがなにか?」
「やって」
「へ?」


 にっこりした顔で言われたことが理解できず、リメイは思わずタマを見るも呆れた顔で大あくびをかましていた。


「だぁから、あんたの《火》属性の力でこのカンショを外はカリッ、中はホクッとさせてって言ってるの」
「それは調理魔具を使わずに、ですか?」
「当たり前よ。《火》属性なんだから、あんたは魔道具を使わなくても火は出せるじゃない」


 魔道具とは、それに自身の魔力を注ぐことで使える道具のことで、お湯を出したり明かりを灯したりすることができる。前世の言葉を借りるなら、魔道具が家具家電で魔力が電力といったところか。

 そんな誰もが火加減も自由自在にできる調理魔法と、自分から《火》を出す属性魔術とでは訳が違うのだが。


「つまり《火》魔術の加減を、自力で調節してみろってことですか?」
「その通り! ま、とりあえずやってごらんなさい」


 この七年間修行の一環で簡単な《火》を起こしてきたとはいえ、まさか“焼き芋を作れ”と言われるとはリメイも思ってもみなかった。

 しかしやってみろ、と言われてやらないわけにもいかない。リメイは前世の記憶を総動員させて、“焼き芋の作り方”を思い出した。

 外はカリッと、中はホクッと……イメージするのはオーブンで、火力は中火くらい。
 四方からじんわり熱を加えるから、火で包み込むように――


 頭の中で何度も反芻してからカンショを両手で優しく包む。十二歳の小さな手の中にすっぽり収まるカンショにリメイは力を込めた。


(火加減、火加減……)


 リメイは《火》魔術の呪文を唱える。


《火 フォティア》

 ぼわぁっ……!



「ーーっ!」


 その時、カンショはリメイの手の中で燃え上がり、一瞬で消し炭となってしまった。


「びっ……くりしたぁ」


 本来調理に使うものではない《火》魔術の調整は難しい。リメイは身を持ってそれを知った。


「あらあら。あの実りじゃ数も少ないからねぇ~。丁重にやらないとなくなるわよ~」


 ホークが今度は指を一振りして畑からカンショを収穫する。二個三個と飛んでくるカンショを、少しむっとしたリメイは全て受け止めた。


「あの、なにか、コツのようなものは」
「コツぅ~? そうね~。ぎゅっとして、ぼわぁん、よ!」


 これほどまで役に立たない助言が来るとは思いもよらなかった。タマも呆れてついには寝そべってしまっている。


「あ、そうそう」
「っ……?」


 ホークが思いついたように手を鳴らすので、リメイはバッと顔を上げる。
 やはり何かヒントをくれるのか。どんな些細なことでも知りたい、聞き逃さない。そんな気持ちでホークに向き合った。


「ちなみにアタシ、カリッとは好きだけど苦い焦げ目があるのは嫌いなの。ちょぉ~どいい感じにしてちょうだいねっ!」


 あぁ、これが殺意というものかとリメイは初めて拳を震わせた。




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