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【第五章】皆、覚悟を決める

時計台とあの人(1)

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「さぁさぁお集まりのみなさん! 一年に一度の時計台からの眺め、とくとご覧あれー!」


 町は祭りということもあって普段より大勢の人で賑わっていた。流石のタマも今日ばかりは人酔いを起こし、リメイの中でじっとしている。

 いつもは人々の憩いの場になっている時計台の前の広場にも多くの出店があり、活気に溢れている。リメイは辺りを見渡しながら、今は時計台に登る列に並んでいた。


(私、お祭りって初めてだわ)


 リメイがこの世界に生を受けて二十年。ホークと出会う前にもお祭りなんて来たことはなく、初めての催し物にリメイは少々気を高ぶらせつつも、頭は至極冷静であった。


(今日持ち帰られる遺作があるのなら、なんとかしたいけど。盗難の罪も致し方ない)


 後数十年しかない自分の寿命を有効に使えるよう、決意を固めていたのだ。しかし――


『リメイ、そのことだが』
「っ……?」


 突然リメイの心を読んだかのように話し出すタマに、リメイの意識は引きずり戻された。続くタマの言葉を待っていた時、カランカランッと大きなベルが町中に鳴り響いた。


  「お待ちかね!ご開帳の時間です!」

「……来た」


 町の端まで並んでいると言っても過言ではないその列で歓声が上がった。全ての人の目が一斉に時計台の閉ざされた扉に向けられている。


   ギィィィーー……


「……え……?」


 古く錆びた音を立てて扉が開いたとき、リメイは時が止まったように感じた。ぶわわっと背中を何かが走り、悪寒がして震えも止まらない。


(こ、れは……!)


 最早登らなくても、探さなくても、一人と一頭には理解できた。この中のすべてからハンバーの魔力を感じたのだ。

 リメイたちが扉の中へ足を踏み入れた途端、その魔力は全身に絡みつくようで、しかし爽やかな春の風のように優しく頬を撫でた。


『……見事。圧巻の造りだな』


 タマが小さく呟く。リメイも感嘆のため息をついた。


(これを全て、お師匠様が一人で……?)


 普通のシンプルな時計でもその部品は百を超えるというが、今目の前には小さなものから大きなものまで、数え切れないほどの部品がある。これら全てのぜんまい仕掛けをハンバーが一人で打ったというのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだった。


(“少し携わった”、なんてレベルじゃないわよ)


 そんなリメイの思いに応えるように、タマが体の中でわふっと鳴いた。

 つまりここにあるハンバーの遺作をすべて回収しようとするならば、それはこの時計台全てを作り直すことを意味する。リメイは目眩がしそうだった。


「……もう崩壊させた方が早いかしら?」
『お前もホークに似てきたな』
「だって」


 思わず口をついた言葉にタマが返してくれる。けれどその後の言葉は声にならなかった。


(こんなの作り替えていたら何年……下手したら何十年とかかる)


 それでは自分の寿命がもたない。途方もない年月をまたホークが一人で歩むのかと思うと、リメイは心が張り裂けそうだった。


『そのことだが、リメイ。お前ホークと終古の契を結んだんだろう』
「っ……え?」


 突然語りだしたタマにリメイも小声で問い返す。


「タマさん何か知ってるの?」
『古い魔法だ。ヒトの魔法をおれは知らない。だがそれはお互いを縛り合うものだ。現にお前たちはおれから見ても、契の鎖でガチガチに巻かれているようだ。その、命さえも』
「……どういうこと?」
『つまり、ホークが生きている限りお前は』


「……君は、ヤッバか?」

「っ……え……?」



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