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【第五章】皆、覚悟を決める
神の申し子(1)
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リメイが水獣の恨み辛みを知る時、方やホークは王宮からひとっ飛びでフォーデン伯爵領までやって来ていた。
ホークの空間《記憶》操作によって遅れることなく自領に戻ってきた伯爵たちも、瞬き一つの間に突然見慣れた海が現れ、今も目を丸くしている。
「あ~あ。面倒なことになってんのね」
伯爵領地での現状を見てホークは大げさにため息をつく。タマたちが王宮に駆けて行く前は数体だった水の兵士たちは、今や数え切れないほどに増えていた。
わらわらといる水の兵士たちに魔術師や騎士たちが一体ずつ応戦しているが、討伐には至っていない。
「鬱陶しいわね。こいつらみんな」
ホークが左手で《風》を練り上げた。小さく捏ねた空気の球を指先でピンっと弾くと、それらは意思を持ったかのように自ら動き出す。全ての水の兵士たちにくっつき、ホークの指の動きに合わせてその体を這い回った。
「消えろ」
ホークがその指をパチンッと鳴らすと空気の球と一緒に水の兵士が弾け飛んだ。突然のことに魔術師や騎士たちも動きを止め、唖然としている。
「っ、貴様!」
「あっれ~、あんたいたの? 大見得切っておいてなぁんだ、案外弱っちぃのね」
この国の総統アリエルに向かってあんまりな口の利き方であっても、ここには正す者が誰もいない。
それほどまでにホークの力は絶対的であり、どうしたって敵うはずもないことをここにいる誰もが肌で感じていた。
「お前……男だったのか」
「だったらなによ。男だったら優しくしてくれたの?」
「男なら確実に息の根を止めていた」
「結局この紐で縛るのが精一杯だった癖に、よく言うわ~」
ホークの持つちぎれた白銀の組紐を見て、アリエルは苦々しい顔を隠さない。
「……お前の弟子はまだあの中だ」
「なにその顔。もしかして、あんたが巻き込んだくせにリメイが死にそうで辛いって?」
「っ!」
苛立ちを募らせるアリエルに、ホークは今にも鼻歌まで歌い出しそうなほど上機嫌な顔を見せた。アリエルの胸にドンッと拳を突き立てる。
「あの子はアタシのよ。お前にはやらない」
ホークは振り返って、ゆったりとひらがなの壁に向かって歩いていった。後ろを付き添うタマは決してホークより前に出ることはない。
一人と一頭のその様子に他の者がそろそろと道を開けた。ホークがひらがなの壁に左手で触れ、そっと目を閉じる。
「やるじゃない。あの子」
『だいぶ無理をしていた。今もその命とてもか細いぞ』
「そうねぇ」
その時、頭上からざぷんっと音がしたかと思うと、ひらがなの壁の隙間からどろりと水の塊が垂れてきていた。それは数刻前にリメイを攫っていったのと同じ塊で、捻り取るようにホークの右手に絡みつく。その右手にはリメイの編んだ白銀の組紐があった。
絡みついた水の塊がホークの右腕ごと奪い取ろうと引き上げるが、ホークはその場から微塵も動かない。
「水獣のくせにこれがほしいの?」
答えないそれにホークは笑みを深くした。
「この髪に目をつけるなんて大したものだわ。でもねぇ……あげない」
うっとりと妖艶に呟いた後、ホークは掴まれた右腕から《土》を生み出す。ぞろぞろと生まれる《土》は手の上をどんどん積み上がって、あっという間に垂れ下がる水の塊を飲み込んだ。土が絡まり泥となった重みで水の塊も動きが取れない。
「リメイのものはアタシのものよ。爪の先だってやらないわ」
泥となった《土》が今度はぼこぼこと形を変え、ひらがなの壁の隙間を埋めていく。穴という穴が塞がれてもう水の兵士たちが送り込まれることはなかった。
ある程度流し込んだところでホークは腕を勢いよく引き抜く。泥にまみれた水の塊が千切れて地面に落ちた。
「そろそろアタシの半身を返しなさい」
壁に触れていた左手の紋様が赤く光だした瞬間、ホークはその手で《水》をうねらせた。
ひらがなの壁を浸透しホークの生み出した《水》が水獣の纏う水の塊の中へと入り込む。
『っおい、リメイが!』
ホークの《水》が割り行った狭間から水の塊の中でリメイが苦しそうに呻くのが見えた。その藻掻き様にタマは慌てるも、地上にいる己には何もしてやることがない。
『ホーク! 頼む、リメイを……っ!』
ホークの空間《記憶》操作によって遅れることなく自領に戻ってきた伯爵たちも、瞬き一つの間に突然見慣れた海が現れ、今も目を丸くしている。
「あ~あ。面倒なことになってんのね」
伯爵領地での現状を見てホークは大げさにため息をつく。タマたちが王宮に駆けて行く前は数体だった水の兵士たちは、今や数え切れないほどに増えていた。
わらわらといる水の兵士たちに魔術師や騎士たちが一体ずつ応戦しているが、討伐には至っていない。
「鬱陶しいわね。こいつらみんな」
ホークが左手で《風》を練り上げた。小さく捏ねた空気の球を指先でピンっと弾くと、それらは意思を持ったかのように自ら動き出す。全ての水の兵士たちにくっつき、ホークの指の動きに合わせてその体を這い回った。
「消えろ」
ホークがその指をパチンッと鳴らすと空気の球と一緒に水の兵士が弾け飛んだ。突然のことに魔術師や騎士たちも動きを止め、唖然としている。
「っ、貴様!」
「あっれ~、あんたいたの? 大見得切っておいてなぁんだ、案外弱っちぃのね」
この国の総統アリエルに向かってあんまりな口の利き方であっても、ここには正す者が誰もいない。
それほどまでにホークの力は絶対的であり、どうしたって敵うはずもないことをここにいる誰もが肌で感じていた。
「お前……男だったのか」
「だったらなによ。男だったら優しくしてくれたの?」
「男なら確実に息の根を止めていた」
「結局この紐で縛るのが精一杯だった癖に、よく言うわ~」
ホークの持つちぎれた白銀の組紐を見て、アリエルは苦々しい顔を隠さない。
「……お前の弟子はまだあの中だ」
「なにその顔。もしかして、あんたが巻き込んだくせにリメイが死にそうで辛いって?」
「っ!」
苛立ちを募らせるアリエルに、ホークは今にも鼻歌まで歌い出しそうなほど上機嫌な顔を見せた。アリエルの胸にドンッと拳を突き立てる。
「あの子はアタシのよ。お前にはやらない」
ホークは振り返って、ゆったりとひらがなの壁に向かって歩いていった。後ろを付き添うタマは決してホークより前に出ることはない。
一人と一頭のその様子に他の者がそろそろと道を開けた。ホークがひらがなの壁に左手で触れ、そっと目を閉じる。
「やるじゃない。あの子」
『だいぶ無理をしていた。今もその命とてもか細いぞ』
「そうねぇ」
その時、頭上からざぷんっと音がしたかと思うと、ひらがなの壁の隙間からどろりと水の塊が垂れてきていた。それは数刻前にリメイを攫っていったのと同じ塊で、捻り取るようにホークの右手に絡みつく。その右手にはリメイの編んだ白銀の組紐があった。
絡みついた水の塊がホークの右腕ごと奪い取ろうと引き上げるが、ホークはその場から微塵も動かない。
「水獣のくせにこれがほしいの?」
答えないそれにホークは笑みを深くした。
「この髪に目をつけるなんて大したものだわ。でもねぇ……あげない」
うっとりと妖艶に呟いた後、ホークは掴まれた右腕から《土》を生み出す。ぞろぞろと生まれる《土》は手の上をどんどん積み上がって、あっという間に垂れ下がる水の塊を飲み込んだ。土が絡まり泥となった重みで水の塊も動きが取れない。
「リメイのものはアタシのものよ。爪の先だってやらないわ」
泥となった《土》が今度はぼこぼこと形を変え、ひらがなの壁の隙間を埋めていく。穴という穴が塞がれてもう水の兵士たちが送り込まれることはなかった。
ある程度流し込んだところでホークは腕を勢いよく引き抜く。泥にまみれた水の塊が千切れて地面に落ちた。
「そろそろアタシの半身を返しなさい」
壁に触れていた左手の紋様が赤く光だした瞬間、ホークはその手で《水》をうねらせた。
ひらがなの壁を浸透しホークの生み出した《水》が水獣の纏う水の塊の中へと入り込む。
『っおい、リメイが!』
ホークの《水》が割り行った狭間から水の塊の中でリメイが苦しそうに呻くのが見えた。その藻掻き様にタマは慌てるも、地上にいる己には何もしてやることがない。
『ホーク! 頼む、リメイを……っ!』
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