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【第五章】皆、覚悟を決める
神に最も近き者(1)
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水獣ことポチが海から現れた一件から、数ヶ月の時が流れた。あれから大きな事件は特に起こらず、ポチについて全ての記録と《記憶》を失った世界は、平穏に満ちていた。
ただどうにも、山奥にひっそりと佇む“サルーン邸”だけは、その平穏からはかけ離れているようで――
それは突然やってきた。
「貴様らに王命である」
「あのさ、普通の顔してやってこないでくれる?」
『出ていけ、クソガキ』
それはまさに嵐の、いや総統閣下の到来であった。
「なんであんたがウチの結界をくぐれるのよ」
「俺にはヤッバの編んだ組紐があるからな。お前の結界にも弾かれない」
「それ返してほしいんだけど。ウチにとって鍵みたいなものだから」
「奇遇だな。これは俺にとっても命運を開く鍵みたいなものなんだ。返すことなどできない」
「リメイのまじないにどれだけ助けられてるか知らないけど、意味合いが違うから。不法侵入だから。捕まれよ」
「ばかか。総統の俺が捕まるわけがないだろ」
「そんな屁理屈に割いてる時間、アタシにはないのよ」
「永遠の命のあるお前が何を戯言を」
「ねーぇー! だれかこいつをなんとかしてー!」
ああ言えばこう言うアリエルに、ホークは玄関から中を振り返って叫んだ。その額には青筋が浮かんでいる。
『おれがその首噛みちぎってやろうか』
「お前が動く時にはその首を俺の剣が捕らえているだろうな」
『クソガキにやられる玉ではない』
「俺とて魔獣に取って食われるような鍛え方はしていない」
『ほほう、ならば試してみるか。表へ出ろ』
「知っているか? 先に喧嘩をふっかけた方は必ず負けることを。なぜならそれこそが弱い者の証だからだ」
『おい、だれかこいつをなんとかしろ。虫唾が走る』
タマが室内に振り返って語気を強める。喉をグルルッと鳴らして、心なしか瘴気まで纏っていた。
「だれかって……もう私しかいないじゃない」
「リメイは引っ込んでて」
『リメイはそこにいろ』
「なんなのよ、もう」
こういう時だけは妙な連帯感を見せるホークとタマに、リメイは呆れてため息をついた。
リメイは飲んでいたお茶のカップを食卓に置いて、椅子に座ったままアリエルに向かって一礼する。
「して、王命とは何の話ですか? 私たちはもう王宮とは何の関わりもないはずですが」
唯一《記憶》を保持しているアリエルが関わってくる案件といえば、先日の水獣の件のことだろう。
しかし全ての者たちが忘れてしまった件で“王命”と言われたことがなんとも解せない。
アリエルが一度小さく頷いてから、相変わらず真面目な顔をして口を開いた。
「王は何も覚えていない。もちろん、フォーデン伯爵領の者たちも。水獣が包み込んでいった時計台もなんの故障もなく正常に動いている」
「なら、なぜ?」
訝しげに尋ねるリメイをアリエルは見つめ、それからホークとタマにも目を向ける。
ただどうにも、山奥にひっそりと佇む“サルーン邸”だけは、その平穏からはかけ離れているようで――
それは突然やってきた。
「貴様らに王命である」
「あのさ、普通の顔してやってこないでくれる?」
『出ていけ、クソガキ』
それはまさに嵐の、いや総統閣下の到来であった。
「なんであんたがウチの結界をくぐれるのよ」
「俺にはヤッバの編んだ組紐があるからな。お前の結界にも弾かれない」
「それ返してほしいんだけど。ウチにとって鍵みたいなものだから」
「奇遇だな。これは俺にとっても命運を開く鍵みたいなものなんだ。返すことなどできない」
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「ばかか。総統の俺が捕まるわけがないだろ」
「そんな屁理屈に割いてる時間、アタシにはないのよ」
「永遠の命のあるお前が何を戯言を」
「ねーぇー! だれかこいつをなんとかしてー!」
ああ言えばこう言うアリエルに、ホークは玄関から中を振り返って叫んだ。その額には青筋が浮かんでいる。
『おれがその首噛みちぎってやろうか』
「お前が動く時にはその首を俺の剣が捕らえているだろうな」
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『ほほう、ならば試してみるか。表へ出ろ』
「知っているか? 先に喧嘩をふっかけた方は必ず負けることを。なぜならそれこそが弱い者の証だからだ」
『おい、だれかこいつをなんとかしろ。虫唾が走る』
タマが室内に振り返って語気を強める。喉をグルルッと鳴らして、心なしか瘴気まで纏っていた。
「だれかって……もう私しかいないじゃない」
「リメイは引っ込んでて」
『リメイはそこにいろ』
「なんなのよ、もう」
こういう時だけは妙な連帯感を見せるホークとタマに、リメイは呆れてため息をついた。
リメイは飲んでいたお茶のカップを食卓に置いて、椅子に座ったままアリエルに向かって一礼する。
「して、王命とは何の話ですか? 私たちはもう王宮とは何の関わりもないはずですが」
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しかし全ての者たちが忘れてしまった件で“王命”と言われたことがなんとも解せない。
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「王は何も覚えていない。もちろん、フォーデン伯爵領の者たちも。水獣が包み込んでいった時計台もなんの故障もなく正常に動いている」
「なら、なぜ?」
訝しげに尋ねるリメイをアリエルは見つめ、それからホークとタマにも目を向ける。
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