最強師弟は歪な愛の契を結ぶ

あまき

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【第一章】少女、旅に出る

魔術師と魔法使い(2)

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「っなら、どうすれば……!」


 固有特性がある以上、この国では必ず魔術師にならなければならない。

 しかしそうなれば二度と家族に会えないどころか、家族の命までもが危うくなってしまう。


「そんなの、いやだ……っ!」


 熱く滾る何かが少女の心に火を灯す。怒りか絶望か、少女にも分かっていなかった。


「なら、あんたは何のために魔術をならうの?」

「わ、わたしは」


 国に忠誠を誓っても、家族が守れないのなら意味がない。頭の中に浮かぶ大好きなみんなの顔――それこそが少女の心の奥底にあった“大義”だった。


「っ、わたしは大事な宝を守るために魔術を使いたい!」


 その時、自称魔法使いは少女の足元で小さくチリッと走る火花を見逃さなかった。


「ふふふ。あんた涼しい顔しながらいいモン持ってんじゃな~い」

「は? なにを言って」

 自称魔法使いのからかうような言い方に、少女は自分でも驚くほどの低い声で唸った。


「家族を守りたいってんなら、まずはソレ、なんとかしなさいよ」

「それってなんのこ、と……え、あれ?」


 少女は辺りを見回し、そして絶句した。気がつくとその床一面に青い炎がメラメラと燃え盛っていたのだ。


「っ、これって」

「おめでとう。あんたそんなにクールぶってて《火》属性持ちなのね」

 何もないところから突如現れた火。目の前の魔法使いの術ではないなら、それはつまり――


「わたしが、《火》を?」

「あんたそんなとこにいても熱くないでしょ?」

 言われてみればその通りだった。

 むしろ自身にまとわりつく青い炎は、ひどく心地が良い。まるで傷ついた心を直接撫でてくれるかのような感触に、少女は癒やしさえ感じた。


「なぜかって? それがあんたの魔術であり、あんたの力だからよ」

「わ、たしの……ちから」


 ふふふっと笑みを濃くする自称魔法使いに少女は唖然とする。

 まさかこんな形で五大属性が開花するなんて、少女は露ほども思わなかった。


「だけど、そんなに出しっぱなしにしたら家が燃えるわよ」

「え」


 床を覆い尽くした青い炎は、今度は上へと伸びていく。

 あっという間に自身の周りに大きな壁を作ってしまい、ゴウゴウと燃えたぎる音に囲まれた世界の中で一人、少女は困惑する。


「ど、どうしたら……と、とまって!」


 少女の目尻に涙が溜まる。領地で神童と言われようと前世の記憶があろうと、魔術に関しては素人なのだ。どうすればこの状態を打破できるのか検討もつかなかった。

 天井にまで届かんばかりにうねりを上げる炎に、少女は声を震わせる。


「こんなんじゃ……っ誰も守れない!」


 瞳から一度落ちた涙は次から次へと溢れ出てくる。自分は無知で無力だった。弱い自分は大好きな家族さえも守れない。涙はその悔しさの表れだった。


「ばかねぇ~。願ったって現実はなんともならないのよ」


 その声はとても鮮明に少女の耳に届いた。


《水(ネロー)》


「え……っ! う、わぁ!」


 聞き馴染みのない言葉が耳を掠めた途端、頭上から滝のような水が降ってきて、少女は思わず膝をつく。


(これはっ……《水》の属性……!)


 その威力といえば部屋に広がっていた火を一瞬で消し去り、少女の足元を削り落とすほどであった。

 床が抉られ出来た穴に少女は下半身を沈めながら、それでも尚降りしきる痛いほどの水を浴び続ける。


「あらら~。見事な濡れネズミね~」


 時間にして数分のそれは、少女の抱いていた怒りや悔しさを掻き消し鎮めてしまうには十分な水の量だった。


「……だれのせいだ、だれの」


 穴に挟まりながら、もはや這い上がる気力もない。そんな少女を自称魔法使いがひょいっと抱き上げた。


「あんたのせいで我が家が崩れたのよ。これはお仕置き」

「床をこわしたのはそっちでしょ」


 火の影響よりも水の影響を受けすぎた部屋は、暖炉の火も消え床には穴が空き、家財道具はボタボタと雫を垂らしている。

 自称魔法使いは自身の形の良い真紅の唇をにんまりとさせながら、うっとりとした声で囁いた。


「これが、あたしの魔法。あんたなんかより、何億倍も強いのよぉ~」


 少女の中で目の前の人物が自称魔法使いから本物の魔法使いへと格上げした瞬間だった。




「とりあえず、お風呂に入りましょうか」

「なんて?」

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