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【第一章】少女、旅に出る

魔術師と魔法使い(1)

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「ちなみに、五大属性については知ってるの?」

「えっと、一人に一つだけ持ち合わせる力のことで……大昔には全ての属性を司る魔術師もいたって、確か」

「“神に最も近き者”」

「っ、そう、それです」


 しかしそれも所詮神話の中の出来事。自分の五大属性も分からない少女にとっては雲の上の話だ。


「伝説だと本で読みました」

「あんた本ばっかり読んでるのね。あたしと気が合いそうだわ」


 ふふっ、と笑う自称魔法使いが楽しそうに問いかけてくる。

「で? 勉強熱心なあんたは、どうして魔術師になりたくないの?」

「そ、れは……」

「魔術師の里へ一人で行けなんて言われて、体よく捨てられたのが嫌だった?」

「す、すてら!?」


 その言葉は衝撃でしかなかった。

 少女にとって領地の皆は、親であり兄弟であり友であったのだ。魔術師の掟に従い泣く泣く見送ってくれた彼らのことを、非道な安っぽい言葉で片付けてほしくはない。


「っ、わたしはお国に忠誠を誓い、大義を果たすのです。そう約束したのです」

「だれと?」

「家族です! 家族は私の宝です!」


 家族とは自身にとって何よりも代え難い宝物で、そのためなら身を呈してでも戦う――少女はたった五歳にして、その小さな体に似合わない大きな決意を抱きここまで来たのだ。ふんっと鼻息を荒くして言い切る様は実に逞しい。


「家族は宝……ねぇ」

「え?」


 少女が顔を上げた先で、自称魔法使いは切なげに笑っていた。


「ならその大義、見せてもらいましょうか」

「なにを……っ!」


 自称魔法使いが人差し指を上に向ける。その先に小さな火を灯して、くるりと指で宙に円を描いた。


ぼわぁっ


「っ!?」


 少女が驚くと同時に、頭上の《ふりーらんす》と《ぜんとたなん》のゴシック体文字がメラメラと燃えだす。


(突然燃えだした……これが五大属性の、《火》?)


 初めて見た魔術に目を見開く少女を、自称魔法使いは冷ややかに見下ろした。


「あんた知ってる? 魔術師になると二度と家族と会えなくなるの」

「え……?」


 自称魔法使いから語られる事実は到底受け入れ難く、少女の頭の中は困惑に満ちていった。


「魔術師って奴は残忍よ。魔術を知らない魔術師の卵ちゃんたちを一人で里に来させる。里の周りには魔獣がうようよ放たれているっていうのに」

「っ、な!」

「なぜかって? 賢いあんたなら、その意味も分かるでしょうに」


(そんなの、一つに決まってる)


「……ふるいに、かけられる」

「だ~い正解~! ぱちぱちぱち~!」


 自称魔術師がとても愉快そうに手を叩いて笑う。それを聞いた少女は顔を歪めて俯いた。


「ひ、ひどい」


 憂いに満ちた目で少女は下を向き膝の上で拳を握る。だから少女は分からなかったのだ。この時の魔法使いもまた、拳を固く握っていたことを――


「魔術師はその秘匿さ故に、安易にお郷帰りなんてできない。なにより魔術師の家族は言わば、国に捕られた人質よ。もしあなたが魔術師になって任務に失敗したら、その責任は家族にまで及ぶことになるわ」

「そ、それはつまり」

「連帯責任でこの世から消されるってこと」


 もしこれが本当ならば――そう思うだけで少女の体の震えは止まらない。





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