最強師弟は歪な愛の契を結ぶ

あまき

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【第一章】少女、旅に出る

父と娘とその家族(2)

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    ◇◇◇



 伯爵領地の皆が涙を滲ませていた頃、少女の身は道で出くわした怪しい美女の家にあった。


「だっからぁ~! どこの国にも里にも属さない魔術師っていうのが魔法使いよ!」

「それはいわゆる《ふりーらんす》というものですね?」

「わぁ! また何か浮かんでるぅ~!」


 またしてもうっかり少女が出してしまった《ふりーらんす》のひらがなゴシック体に、自称魔法使いの美女は目を奪われる。

 先程道で少女が出した《ぼん、きゅっ、ぼん》の文字は、美女が触れるやいなや割れてしまうほどか弱いものだった。不思議な魔術の虜となった自称魔法使いは、少女を軽々と抱いて連れ帰ってきたのだ。


 突然の拐かしに抵抗する少女と、自称魔法使いとの攻防は凄まじいものだった。少女が藻掻こうものならその漆黒の長い髪で四肢を封じられ、叫ぼうとした口は真紅の唇に塞がれ――ついに少女は「もうやってられない」と全てを諦めたのだった。



 大きな暖炉の前の大きな椅子にふんぞり返って座る自称魔法使いと、その前に正座したまま背筋を伸ばす少女はじっと向かい合っていた。


「しかし、魔法使いには悪い人が多いと聞きます」

「そうね~。大抵犯罪者か、大悪党だとかで断罪名簿に載ってる奴が多いわね」

「断罪名簿?」

「魔法使いは魔術師と違って、裏の仕事を請け負うからね。でもあたしは普通の良い魔法使いよ?」


 さらりと言ってのけた自称魔法使いに少女は訝しげな顔を見せる。たった五歳のか弱い少女を誘拐の如く連れ去っておいて、どの口が言うのか。


「で? あんたはなんで魔術師になりたくないの?」

「え?」

「あんたいい魔術持ってんじゃない。しかも固有特性持ちの」

「固有特性?」


 聞き馴染みのない言葉に、少女は首を傾げる。


「聞いたことない? 固有特性」

「はい。あ、でも、前にアバルトの英雄の本を読みましたが……もしかして」


 それは百年も前のこと。

 西の大国アバルトを大型魔獣から救ったとされる英雄は、自在に出現させた“葉”を操り、この世で最も恐ろしい階級に分類される獄級魔獣を切り裂いたという。


「シロンは確かに“葉”の固有特性を持ってたわね」

「シロン?」

「その英雄様よ。あいつはただの真面目っ子でね。おかげで最愛を失ったわ。あたしなら死んでも離さなかったのに」

「? それはどういう」


 百年も前の他国の英雄の話をまるで友人のように話す自称魔法使いに、少女は首を傾げる。

 しかしその問いかけに彼女は答えず、ただ椅子に深く座り直してうっすらと笑みをこぼした。


「あんたの出せるソレも、固有特性よ」

「固有特性?」

「別名、“神から与えられしギフト”と呼ばれているわ」


 固有特性――それはいわばその人だけが持つオリジナルの魔術のことである。

 魔術が使える人間の中でも選ばれし者のみに、五大属性とは別に神から付与される力。希少価値が高く、故に“ギフト”と名が付いた。


「わたしに与えられた……ギフト?」

「そう。あんたは五大属性の前に固有特性が開花しちゃった、極めて稀なタイプね」


 未だに頭の上でふよふよと浮いている《ふりーらんす》の文字を少女は見つめる。

 何もないところから出てくるひらがなの文字。これがこの世でも稀な、“固有特性”――


(それが、別の世界で使われている文字なんて……異例のギフトすぎるでしょ)


 少女は絶句するしかなかった。


「で? そのふよふよしたものは一体何なの?」


 “神から与えられしギフト”を持ち合わせた挙げ句、別の世界の前世の記憶まで残る少女。

 この自称魔法使いにその全てを話していいものかどうか、賢い少女は判別がつかなかった。


「はぁ……《ぜんとたなん》とはまさにこのこと」

「なんて?」




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