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【第一章】少女、旅に出る
ひらがなと少女(2)
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皆の期待と心配を一身に背負った少女は、その小さな足を懸命に動かしてランドローバー国に属する魔術師の里、“エイ”に向かっていた。
頭の中にはこれまでのこと、そしてこれからのことがぐるぐると巡っている。
「私、魔術師になれるのかなぁ」
“魔術”といえば聞こえはいい。前世の頃、図書館で何度も読んだ文学、そこに出てきた魔のつく言葉たちはとても不思議で、美しかった。今こうして自分に降りかかる“魔術”とやらに胸を高鳴らせる己がいるのも確かだ。
しかし現実はそう容易くはない。なぜならこの国でも魔のつくものは貴重で、繊細で、そして大変気難しいものであるからだ。
「魔法と魔術と扱いが違うんだもの。まいっちゃうわ」
魔法――それはこの世界に住む人々が皆一様に使えるものだった。魔道具に魔力を流して水を温めたり火を灯したりする生活魔法に加え、結界魔法や防音魔法といった高度な魔法も存在する。
ただ魔術となると話は別であった。
火、風、雷、水、土の五大属性うち、自身の魔力にどれか一つの属性が付与され自由自在に操れる――それが魔術であった。
「使える人は少なくて、属性が開花した人が魔術師になれるって本には書いてあったけど」
結局はそれらも本で得た知識であって。事実少女の周りに魔術師はいないのだ。魔術とやら実際どのようなものなのか、少女が知り得るはずもなかった。
なぜなら魔術師とは里で暮らし日々任務に励んでおり、お目にかかることなど滅多にないからだ。
そこまで考えてふと、少女の足が止まる。
「わたし、五大属性ないんだけど。いいのかな」
少女が出せるのは火でも水でもなければ、その他の属性でもない。前世の文字《ひらがな》だけだ。これは本当に魔術と言えるのだろうか。
崇高な魔術師たちに自分の能力を簡単に認めてもらえるとは、少女はどうにも思えなかった。
「……やっぱり、行きたくないなぁ」
どんなに大人びていたとしても、所詮五歳の少女。心の奥底でずっと燻っていた不安を少女はそっと呟く。
ここはもう伯爵領の外れ。悲しみに身を包む少女に寄り添ってくれる大人など近くにはいなかった。
「魔術師なんて、なりたくないなぁ」
たった五歳の舌足らずな呟きは風にのって散っていくしかない――はずだった。
「なら、魔法使いになっちゃえば~?」
「…………え?」
突然目の前に影が出来て、少女は俯いていた顔を上げる。
そして目を見張った。
「ぼ、《ぼん、きゅっ、ぼん》……!」
「なんて……っ!」
そこには豊満なおっぱいと括れたウェスト、ぷりっと張ったお尻という、この世の女性の憧れを全て詰め込んだ美貌を持つ女性が立っていた。
そう、かつての世界の言葉を借りるならば“グラマラスな美女”である。
「やっだぁ! なになに? ねぇ、これなぁに~?」
「や、やってしまった……」
その麗しい顔をキラキラさせながら見たことのない文字を見つめ興奮する美女。
そして驚きの衝撃で安易に前世の言葉を呟いてしまい落ち込む少女。
加えて美女の頭上でふよふよと浮かぶ大きなゴシック体の《ぼん、きゅっ、ぼん》の文字、というなんとも形容し難い場が出来上がってしまった。
頭の中にはこれまでのこと、そしてこれからのことがぐるぐると巡っている。
「私、魔術師になれるのかなぁ」
“魔術”といえば聞こえはいい。前世の頃、図書館で何度も読んだ文学、そこに出てきた魔のつく言葉たちはとても不思議で、美しかった。今こうして自分に降りかかる“魔術”とやらに胸を高鳴らせる己がいるのも確かだ。
しかし現実はそう容易くはない。なぜならこの国でも魔のつくものは貴重で、繊細で、そして大変気難しいものであるからだ。
「魔法と魔術と扱いが違うんだもの。まいっちゃうわ」
魔法――それはこの世界に住む人々が皆一様に使えるものだった。魔道具に魔力を流して水を温めたり火を灯したりする生活魔法に加え、結界魔法や防音魔法といった高度な魔法も存在する。
ただ魔術となると話は別であった。
火、風、雷、水、土の五大属性うち、自身の魔力にどれか一つの属性が付与され自由自在に操れる――それが魔術であった。
「使える人は少なくて、属性が開花した人が魔術師になれるって本には書いてあったけど」
結局はそれらも本で得た知識であって。事実少女の周りに魔術師はいないのだ。魔術とやら実際どのようなものなのか、少女が知り得るはずもなかった。
なぜなら魔術師とは里で暮らし日々任務に励んでおり、お目にかかることなど滅多にないからだ。
そこまで考えてふと、少女の足が止まる。
「わたし、五大属性ないんだけど。いいのかな」
少女が出せるのは火でも水でもなければ、その他の属性でもない。前世の文字《ひらがな》だけだ。これは本当に魔術と言えるのだろうか。
崇高な魔術師たちに自分の能力を簡単に認めてもらえるとは、少女はどうにも思えなかった。
「……やっぱり、行きたくないなぁ」
どんなに大人びていたとしても、所詮五歳の少女。心の奥底でずっと燻っていた不安を少女はそっと呟く。
ここはもう伯爵領の外れ。悲しみに身を包む少女に寄り添ってくれる大人など近くにはいなかった。
「魔術師なんて、なりたくないなぁ」
たった五歳の舌足らずな呟きは風にのって散っていくしかない――はずだった。
「なら、魔法使いになっちゃえば~?」
「…………え?」
突然目の前に影が出来て、少女は俯いていた顔を上げる。
そして目を見張った。
「ぼ、《ぼん、きゅっ、ぼん》……!」
「なんて……っ!」
そこには豊満なおっぱいと括れたウェスト、ぷりっと張ったお尻という、この世の女性の憧れを全て詰め込んだ美貌を持つ女性が立っていた。
そう、かつての世界の言葉を借りるならば“グラマラスな美女”である。
「やっだぁ! なになに? ねぇ、これなぁに~?」
「や、やってしまった……」
その麗しい顔をキラキラさせながら見たことのない文字を見つめ興奮する美女。
そして驚きの衝撃で安易に前世の言葉を呟いてしまい落ち込む少女。
加えて美女の頭上でふよふよと浮かぶ大きなゴシック体の《ぼん、きゅっ、ぼん》の文字、というなんとも形容し難い場が出来上がってしまった。
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