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【番外編】初夜前編
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「ふぅー…」
連日のいざこざはどうにも体に堪えているらしく、雪乃の口からは自然とため息が出た。
「お疲れですか」
「…義久お前、まだいたのかよ」
「貴女が入浴を終えるまでは」
大勢の組員を抱える玉城組の邸には、血の気の多い連中がいつでもその“汚れ”を落とせるよう、大浴場が2つ備わっている。
組長である雪乃は、もっぱら自室備え付けのシャワーを使うことが多く、大浴場を使うことは滅多にない。しかし“こういう日”は特に、大きな風呂に入って束の間の休息を取ることもあった。
雪乃が大浴場を使うとき、義久はその番を決して他の組員には任せなかった。小さい頃なんて泥だらけになる度に、それこそ芋洗いのように皆で洗われていた雪乃としては、今更誰に見られたところで何とも思わないのだが。この過保護の“叔父”は、ありもしない“姪の貞操”を未だに案じているらしい。
「お前も疲れてんだろ。ここはいいから休めよ」
「貴女が部屋へ戻ったらそうさせてもらいますよ」
「…そこまでされなくても、大丈夫だって」
「貴女をお守りすることが、“姉さん”の遺言ですから」
玉城組の先代と本妻の間に出来た子は女だった。それから何年も後に妾の生んだ子が男だった。
「本妻の血筋こそ、玉城組の正当な血統の持ち主だ」
「男子こそ組みを率いるに相応しい」
そんな内部闘争も、今となればこの世界ではありふれた話だった。
「…母のことを、未だに“姉さん”と呼ぶのはお前だけだぞ」
「血の繋がりはありますので」
「半分だけな」
「半分だけです」
そんな至極つまらない闘争は、本妻の娘が高校卒業と同時に駆け落ち同然で家を出たことにより決着を迎える。それは本妻が心労により亡くなった、半年後のことだった。その娘の行き先を、当時の先代と義久だけは知っていたらしいが、特に引き止めることも連れ戻すこともしなかったと聞く。娘は外の世界で愛する人と仲睦まじく過ごしていたのだ。
その、最期の時まで。
「遺言ったって、ほぼ口約束だろ。それにもうあれから20年は経ってんだぞ」
「可愛い姪のことを案じているんですよ」
「あーあーやめろやめろ。お前に可愛いとか言われると鳥肌が立つ」
本妻は逝去し、その娘は雲隠れ。男尊女卑がどっぷりと染み付いたこの社会において、たとえ妾の子とはいえ男子の、義久の血を受け継いでいくことこそが組の繁栄の道筋であった。
なのに。
「貴女はいつだって狙われる身なのをお忘れなく」
「何年前の話だよ。私に盾突く奴はみんないなくなったぞ」
「分かっていますよ、組長」
義久という男とは、惚れた女に操を立て続けた挙げ句、今ではその女が他所で作った娘の背中までをも守っているというのだから、もはや雪乃も呆れてものも言えなかった。
「それはそうと、明日は朝から会合ですよ。今晩は早く寝るように」
「お前はおかんか。わかってるよ」
「失礼な。母親になった覚えはありません」
「こんなゴツい母親なんざこっちか、お断りだ」
雪乃はいつだって、そんな義久を面倒くさいと思うと同時に、少しくすぐったい気持ちにもなった。それは早くに亡くなった母親よりもずっと、親らしく接してくれていた過去があるからだろう。
「では、失礼します」
雪乃の部屋の前まで付き添い、きっちり45度のお辞儀をしてから去っていく義久に、雪乃は本日二度目のため息をついた。
ガチャ……
「………お前、なにしてんの」
「あっ!いや!その!これは!えっ…と……」
時計の針はすでにてっぺんを越えていて、とっとと休もうと自室の扉を開けた雪乃は、中にいたモノに固まる他なかった。
「いや、普通に電気くらいつけろよ」
「え、あ、で、でも…ゆ、雪乃さんの、部屋、ですし」
「勝手に入ってんなら一緒だろ」
真っ暗な部屋のど真ん中で正座しているのは、最近専属家事代行人になった悠也だった。雪乃の部屋を守るらしく、組員でもない癖に邸の一室を与えてもらったカタギの男だ。
(ビビリな癖して一番危ないところに自ら突っ込んでくる愚か者…)
そう思っているのは何も雪乃たまけではなかった。防衛本能を生まれる前に落っことしてきたんじゃないかともっぱらの噂で、今じゃ組員の奴らもいつも気にかけ、構い倒しだった。
「で?なんの用だ。まさかまた迷子か?」
「ち、ちがっ」
「ならなんだ。夜這いでもあるまいし、こんな時間、に…………………は?」
(何赤くなってんだよ、こいつ)
口をぽかんとあける雪乃を悠也はチラチラ見つつ、体をぷるぷると震えながらも、正座を崩すことはなかった。
「ほ、ほほほ、本日は、お、おおおお、お日柄も、よく」
「見合いかよ」
「よ、よよよ、夜這い、だなんて、そ、そそそそ、そんな恐ろしいことをっ」
「恐ろしいのかよ」
「こんな男、放って捨ておけばいい!」
そう言った組員も一定数いたのは確かだった。しかし雪乃は悠也を囲い込むように邸に住まわせてしまった。
雪乃自身、思い返せば始まりは同情だったと分かっていた。天涯孤独の身の上も、この仕事に就くまでと、その後のいざこざも、カタギの世界で生きるしんどさのようなものを感じて、哀れに思った。けれど今は…
「お前さぁ…そんな怖えぇなら、なんで逃げねぇの?」
「へ?」
「怖えぇんだろ?私が、組が」
悠也にとってしまえば、ここは恐ろしいものの集まりのはずだった。雪乃はそのトップに君臨するのだから、恐怖の対象であるに違いないのだ。だから今も、こうして吃り怯えを見せるのだろう。
なのに、悠也は雪乃から逃げる素振りも見せない。自身の懐から逃げ出さない悠也のことを、雪乃も手放せずにいたのだ。
「……怖く、なんかないです」
「はぁ?」
「ゆ、雪乃さんはいつも…う、美しいです」
「っ…」
(出た。いつもこれだ…)
悠也はいつも、決まって雪乃を褒め称えた。似合う、美しい、キレイだ、素敵です…
それだけじゃない。最近はその目の奥に隠しきれない欲を孕ませるようになったと、雪乃も、そして義久あたりも気づいていた。
「俺、は…ハジメテ、なので」
「知ってる」
「よ、義久さん!みたいには!できないですけど!」
ぎゅっと目を瞑って下を向く悠也に呆れて、雪乃はため息をついた。
「それさぁ、気になってたんだけど」
「な、なんですか?」
「義久ってうまかったの?つーか、お前もうあいつに抱かれたの?」
「ひょえ?!へ?はい?!い、いやいやいやいや!そ、そそそそそそそ」
「落ち着けよ」
義久は生涯一人しか愛さない。それを知っている雪乃は、あり得ないと分かっていながらも、そんな誂いを投げつけてやった。こないだからトンチンカンなことばかり言う悠也に、ぐっと顔を寄せる。未だに正座を崩さない悠也は真っ赤になって、何を想像してか、キョロキョロと視線を泳がせ口をパクパクしていた。
「あのさぁ」
「は、はい!」
「お前さ、なにか勘違いしてると思うけど」
「へ?」
「私と義久は、なんでもねぇよ?」
「………へ?」
雪乃の言葉から数秒経って、悠也はブルブルと頭を振った。今度は自分からぐいっと近づける。
「で、でも!あの!なんか!雰囲気が!ね、ネクタイ締め直して!」
「ネクタイ?……あぁ、あん時か。私がお前を寝間着で出迎えた日」
「っ…そ、そうです…お、お二人が本当に、お似合い、で…!」
先程までの勢いをどこへやら。しゅんっと項垂れた悠也を見て、雪乃ははぁっと一つ息を吐く。それから目の前の垂れ下がる頭を乱暴に撫でて言った。
「あいつ、整体師の国家資格持ってるから。組員のいろんなやつが世話になってんだよ。私も然り」
「…へ?っな?!え、でも…だ、だって!義久さんのが、その…大きいって!」
「ちっちぇー頃は風呂で洗ってもらって身だぞ?見たことくらいあるだろ、普通」
「へ?」
「だぁから、お前が言うエッチなことは、な~んもねぇの」
雪乃は今も尚ぼかんと口を開けている悠也に、少し苛つきを覚えながら、その前髪の隙間から額をつつく。
「分かった?」
「…へ、は、あ、そ、その…」
それでも悠也はまだおろおろとしいて、雪乃はこれみよがしにため息をついてから立ち上がった。
「もういいから。お前も今日は部屋に戻ってとっとと寝、ろ…っ!」
もうこのまま寝てしまおうかと雪乃が立ち上がったとき、突然悠也の手が伸びてきて、雪乃の浴衣の裾を掴んだ。疲れきっていた雪乃の体はそのまま体勢を崩し、両手を広げた悠也の胸にすがりつくように収まる。
「わ、分かりました…で、でも!」
「はぁー…今度は何」
「“俺だけを”っていうのは!ま、守ってください!」
「………は?」
「お、俺!が、がんばるので!だから!えっと…つ、つまり!」
震える腕の中から見上げた顔は真っ赤で湯気が出そうなのに、雪乃を見る目は逸らされることなく真剣で、雪乃は自身の胸の奥がざわつくのを感じていた。
「…かわいいなぁ」
「っ、へ?え…?」
「お前、相当私に惚れてんだな」
雪乃は両腕をするりと悠也の腰に回し、胸に額をすりっと寄せる。悠也はそんな雪乃に思わず喉をつまらせるも、そっと薄い肩に手を添えた。
それを合図に、顔を上げた雪乃が悠也の頭の後ろに手を回して、ぐっと顔を近づける。
「まぁ、仕方ねぇわな」
「え」
「その代わり、よがらせてみろよ?」
「ぴゃっ…!」
奪うようにして重ねた唇があまりに震えていたから、雪乃はくくくっと喉で笑ってから、もう一度今度は噛み付くように唇を寄せた。
連日のいざこざはどうにも体に堪えているらしく、雪乃の口からは自然とため息が出た。
「お疲れですか」
「…義久お前、まだいたのかよ」
「貴女が入浴を終えるまでは」
大勢の組員を抱える玉城組の邸には、血の気の多い連中がいつでもその“汚れ”を落とせるよう、大浴場が2つ備わっている。
組長である雪乃は、もっぱら自室備え付けのシャワーを使うことが多く、大浴場を使うことは滅多にない。しかし“こういう日”は特に、大きな風呂に入って束の間の休息を取ることもあった。
雪乃が大浴場を使うとき、義久はその番を決して他の組員には任せなかった。小さい頃なんて泥だらけになる度に、それこそ芋洗いのように皆で洗われていた雪乃としては、今更誰に見られたところで何とも思わないのだが。この過保護の“叔父”は、ありもしない“姪の貞操”を未だに案じているらしい。
「お前も疲れてんだろ。ここはいいから休めよ」
「貴女が部屋へ戻ったらそうさせてもらいますよ」
「…そこまでされなくても、大丈夫だって」
「貴女をお守りすることが、“姉さん”の遺言ですから」
玉城組の先代と本妻の間に出来た子は女だった。それから何年も後に妾の生んだ子が男だった。
「本妻の血筋こそ、玉城組の正当な血統の持ち主だ」
「男子こそ組みを率いるに相応しい」
そんな内部闘争も、今となればこの世界ではありふれた話だった。
「…母のことを、未だに“姉さん”と呼ぶのはお前だけだぞ」
「血の繋がりはありますので」
「半分だけな」
「半分だけです」
そんな至極つまらない闘争は、本妻の娘が高校卒業と同時に駆け落ち同然で家を出たことにより決着を迎える。それは本妻が心労により亡くなった、半年後のことだった。その娘の行き先を、当時の先代と義久だけは知っていたらしいが、特に引き止めることも連れ戻すこともしなかったと聞く。娘は外の世界で愛する人と仲睦まじく過ごしていたのだ。
その、最期の時まで。
「遺言ったって、ほぼ口約束だろ。それにもうあれから20年は経ってんだぞ」
「可愛い姪のことを案じているんですよ」
「あーあーやめろやめろ。お前に可愛いとか言われると鳥肌が立つ」
本妻は逝去し、その娘は雲隠れ。男尊女卑がどっぷりと染み付いたこの社会において、たとえ妾の子とはいえ男子の、義久の血を受け継いでいくことこそが組の繁栄の道筋であった。
なのに。
「貴女はいつだって狙われる身なのをお忘れなく」
「何年前の話だよ。私に盾突く奴はみんないなくなったぞ」
「分かっていますよ、組長」
義久という男とは、惚れた女に操を立て続けた挙げ句、今ではその女が他所で作った娘の背中までをも守っているというのだから、もはや雪乃も呆れてものも言えなかった。
「それはそうと、明日は朝から会合ですよ。今晩は早く寝るように」
「お前はおかんか。わかってるよ」
「失礼な。母親になった覚えはありません」
「こんなゴツい母親なんざこっちか、お断りだ」
雪乃はいつだって、そんな義久を面倒くさいと思うと同時に、少しくすぐったい気持ちにもなった。それは早くに亡くなった母親よりもずっと、親らしく接してくれていた過去があるからだろう。
「では、失礼します」
雪乃の部屋の前まで付き添い、きっちり45度のお辞儀をしてから去っていく義久に、雪乃は本日二度目のため息をついた。
ガチャ……
「………お前、なにしてんの」
「あっ!いや!その!これは!えっ…と……」
時計の針はすでにてっぺんを越えていて、とっとと休もうと自室の扉を開けた雪乃は、中にいたモノに固まる他なかった。
「いや、普通に電気くらいつけろよ」
「え、あ、で、でも…ゆ、雪乃さんの、部屋、ですし」
「勝手に入ってんなら一緒だろ」
真っ暗な部屋のど真ん中で正座しているのは、最近専属家事代行人になった悠也だった。雪乃の部屋を守るらしく、組員でもない癖に邸の一室を与えてもらったカタギの男だ。
(ビビリな癖して一番危ないところに自ら突っ込んでくる愚か者…)
そう思っているのは何も雪乃たまけではなかった。防衛本能を生まれる前に落っことしてきたんじゃないかともっぱらの噂で、今じゃ組員の奴らもいつも気にかけ、構い倒しだった。
「で?なんの用だ。まさかまた迷子か?」
「ち、ちがっ」
「ならなんだ。夜這いでもあるまいし、こんな時間、に…………………は?」
(何赤くなってんだよ、こいつ)
口をぽかんとあける雪乃を悠也はチラチラ見つつ、体をぷるぷると震えながらも、正座を崩すことはなかった。
「ほ、ほほほ、本日は、お、おおおお、お日柄も、よく」
「見合いかよ」
「よ、よよよ、夜這い、だなんて、そ、そそそそ、そんな恐ろしいことをっ」
「恐ろしいのかよ」
「こんな男、放って捨ておけばいい!」
そう言った組員も一定数いたのは確かだった。しかし雪乃は悠也を囲い込むように邸に住まわせてしまった。
雪乃自身、思い返せば始まりは同情だったと分かっていた。天涯孤独の身の上も、この仕事に就くまでと、その後のいざこざも、カタギの世界で生きるしんどさのようなものを感じて、哀れに思った。けれど今は…
「お前さぁ…そんな怖えぇなら、なんで逃げねぇの?」
「へ?」
「怖えぇんだろ?私が、組が」
悠也にとってしまえば、ここは恐ろしいものの集まりのはずだった。雪乃はそのトップに君臨するのだから、恐怖の対象であるに違いないのだ。だから今も、こうして吃り怯えを見せるのだろう。
なのに、悠也は雪乃から逃げる素振りも見せない。自身の懐から逃げ出さない悠也のことを、雪乃も手放せずにいたのだ。
「……怖く、なんかないです」
「はぁ?」
「ゆ、雪乃さんはいつも…う、美しいです」
「っ…」
(出た。いつもこれだ…)
悠也はいつも、決まって雪乃を褒め称えた。似合う、美しい、キレイだ、素敵です…
それだけじゃない。最近はその目の奥に隠しきれない欲を孕ませるようになったと、雪乃も、そして義久あたりも気づいていた。
「俺、は…ハジメテ、なので」
「知ってる」
「よ、義久さん!みたいには!できないですけど!」
ぎゅっと目を瞑って下を向く悠也に呆れて、雪乃はため息をついた。
「それさぁ、気になってたんだけど」
「な、なんですか?」
「義久ってうまかったの?つーか、お前もうあいつに抱かれたの?」
「ひょえ?!へ?はい?!い、いやいやいやいや!そ、そそそそそそそ」
「落ち着けよ」
義久は生涯一人しか愛さない。それを知っている雪乃は、あり得ないと分かっていながらも、そんな誂いを投げつけてやった。こないだからトンチンカンなことばかり言う悠也に、ぐっと顔を寄せる。未だに正座を崩さない悠也は真っ赤になって、何を想像してか、キョロキョロと視線を泳がせ口をパクパクしていた。
「あのさぁ」
「は、はい!」
「お前さ、なにか勘違いしてると思うけど」
「へ?」
「私と義久は、なんでもねぇよ?」
「………へ?」
雪乃の言葉から数秒経って、悠也はブルブルと頭を振った。今度は自分からぐいっと近づける。
「で、でも!あの!なんか!雰囲気が!ね、ネクタイ締め直して!」
「ネクタイ?……あぁ、あん時か。私がお前を寝間着で出迎えた日」
「っ…そ、そうです…お、お二人が本当に、お似合い、で…!」
先程までの勢いをどこへやら。しゅんっと項垂れた悠也を見て、雪乃ははぁっと一つ息を吐く。それから目の前の垂れ下がる頭を乱暴に撫でて言った。
「あいつ、整体師の国家資格持ってるから。組員のいろんなやつが世話になってんだよ。私も然り」
「…へ?っな?!え、でも…だ、だって!義久さんのが、その…大きいって!」
「ちっちぇー頃は風呂で洗ってもらって身だぞ?見たことくらいあるだろ、普通」
「へ?」
「だぁから、お前が言うエッチなことは、な~んもねぇの」
雪乃は今も尚ぼかんと口を開けている悠也に、少し苛つきを覚えながら、その前髪の隙間から額をつつく。
「分かった?」
「…へ、は、あ、そ、その…」
それでも悠也はまだおろおろとしいて、雪乃はこれみよがしにため息をついてから立ち上がった。
「もういいから。お前も今日は部屋に戻ってとっとと寝、ろ…っ!」
もうこのまま寝てしまおうかと雪乃が立ち上がったとき、突然悠也の手が伸びてきて、雪乃の浴衣の裾を掴んだ。疲れきっていた雪乃の体はそのまま体勢を崩し、両手を広げた悠也の胸にすがりつくように収まる。
「わ、分かりました…で、でも!」
「はぁー…今度は何」
「“俺だけを”っていうのは!ま、守ってください!」
「………は?」
「お、俺!が、がんばるので!だから!えっと…つ、つまり!」
震える腕の中から見上げた顔は真っ赤で湯気が出そうなのに、雪乃を見る目は逸らされることなく真剣で、雪乃は自身の胸の奥がざわつくのを感じていた。
「…かわいいなぁ」
「っ、へ?え…?」
「お前、相当私に惚れてんだな」
雪乃は両腕をするりと悠也の腰に回し、胸に額をすりっと寄せる。悠也はそんな雪乃に思わず喉をつまらせるも、そっと薄い肩に手を添えた。
それを合図に、顔を上げた雪乃が悠也の頭の後ろに手を回して、ぐっと顔を近づける。
「まぁ、仕方ねぇわな」
「え」
「その代わり、よがらせてみろよ?」
「ぴゃっ…!」
奪うようにして重ねた唇があまりに震えていたから、雪乃はくくくっと喉で笑ってから、もう一度今度は噛み付くように唇を寄せた。
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