ブラッディ・マリー

【02】 名家グランディア

＊021＊ 迎え入れの準備

イーズは、自室に着くと直ぐに、側近であるウィルを呼んだ。

「ウィル、直ぐに来い。」

ウィルは、長きに渡りグランディア家を守る為に常に傍で守り続けてきた由緒正しい貴族の家系だ。
グランディア家で懐妊が解ると、執事の家でも時を同じくして跡継ぎを作り、グランディア家に生まれ来る子息・令嬢を直ぐ傍で守り、支え…死ぬ迄、自分だけの主と共にある。
現在は、ウィルの父親がグランディア家の執事として、邸を切り盛りしているが、グランディア家の当主が変わる際には、その当主と共に歩んできたモンターギュ家の子供が執事となる。
イーズに与えられた自分と共に歩んできたモンターギュ家の子供は、ウィリアム・A・モンターギュだった。

「御前に。」

ウィルは、首を垂れてイーズの前に片膝を突き、自分だけの主からの指示を待つ。

「僕は、ようやく運命の人を手に入れる時が来たようだよ。」

イーズは、とても嬉しそうにウィルに報告する。
ウィルは、初めて耳にするビッグニュースに引っ繰り返りそうになった。

「今…何と?」
「僕は、何度も同じ事を言うのは嫌いだよ。ウィル、解っているよね?」
「御意にございます。」

ウィルは、人生の中で一番頭の中をフル回転させているとの自負があるが、余りに負荷が掛かる情報に、その処理はオーバーヒート気味だった。

「あの…つい最近?」

ウィルは、主の御前であるにも関わらず、学友として過ごす時と変わらない口調で思わず質問してしまった。

「まさか…僕は、そんなに軽率な男に見えるかい?」

いや…それを軽率とは言わないと思うのだが、ウィルは主の言葉を訂正する事もしない。

「手に入れる…とは、もう少し具体的にお話をお伺いしたいのですが…。」
「あぁ、ようやくお嫁さんに来てくれるって言うんだ!!」

ちょっと待て、イーズ!!
アリスは、まだ、冬休みに遊びに来ると言っただけであって、一言も一生を添い遂げるような事は言っていない。

「えっと…何時?」

ウィルは、イーズの言葉にいよいよ卒倒しそうになった。
情報…聞いて無さ過ぎである!!
もう、頭の中はパンクした。
ここから先は、ウィルは反射で言葉を発するしか無かった。

「冬休みだよ? 色々と急いで準備しないとならないんだ。勿論、ウィルも手伝ってくれるよね?」

ウィルは、冬休みと聞いて口から心臓が飛び出しそうになった。
短い…準備期間が短過ぎる!!

「勿論ですが…あの、失礼ですが、その方の家柄は確かなのでしょうか?」
「ん? 知らないよ。教会の前に捨てられていたんだって♪うふふふ…。」

ウィルは、イーズの話に、取り敢えず肉体と魂が離れたのだった。