ブラッディ・マリー

【02】 名家グランディア

＊011＊ グランディア家の役割

イーズが生まれ育ったグランディア家は、長い期間、能力の高い魔法使いを排出し続けてきた、王家と関わりが深い家柄だ。
王族が栄華を極める中で、表立っては知られていないものの、様々な後始末をする為に日夜、奔走しているのだ。
敢えて、王に近い役職には就いていないものの、常に歴代の王と親しい距離にある為、貴族達も、その存在を軽んじる事は出来なかった。
また、グランディア家は、金に糸目を付けなければ、陰で、どんな仕事にも対応してくれるという噂があった。
実際に、相当ダークな依頼でも、完遂出来るだけの力を兼ね備えたグランディア家の魔法使い達にとっては、造作も無い事だった。
重ねて、グランディア家の者達は、大変見目麗しく、お近付きになりたいと望む令嬢達は、後を絶たなかった。
魔法使いの世界は、魔法の能力が高ければ高い程、美しい風貌の為、イーズがどれ程の麗しさかについて説明するのは、筆舌に尽くし難い。
グランディア家にとって、イーズは、歴代のグランディア家の魔法使いの中でも、群を抜いて能力が高いと認識されている為、現時点で、イーズに物申せるような者は居なかった。
それは、現当主にとっても言える事だ。
そう言う意味で、イーズは自由だった。
しかし、貴族達にとっては、能力の高い魔法使いと縁を繋ぎ、王家とより強固な繋がりを持ちたい、より能力の高い子孫を残したいという気持ちは、人間の世界だろうと魔法使いの世界だろうと変わらない。
イーズは、幼い頃から貴族達からのラブコールは、引く手数多だったし、今もその状況は変わっていない。
そして、イーズが今までのグランディア家の面々と違った事は、王家と親しい距離にあるだけでは無く、王女との縁談で、その系譜に名を連ねそうな勢いだという事だろう。
その可能性が加味されているイーズは、歴代のグランディア家の中でも、最高峰と言えるその能力を後始末で使う事は一切なかった。
王家に名を連ねる可能性が高い彼の手を汚す事を王家もグランディア家も良かれとしなかったのだ。
だからと言って、イーズが清らかであるかと言うと、決してそうでは無い。
立ち回りの上手い彼は、自由奔放に…誰にも見つからず、咎められる事も無く、今までの人生を過ごしてきた。
そうして、十七歳の頃に見付けたアリスへの想い…執着と言った方が良いだろうか? …についてもこの五年間、誰にも知られる事はなかったのである。
勿論、学生時代に何年も傍に居た、親友達にも知られる事は無かった。