ブラッディ・マリー

観月 珠莉

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【04】 花嫁修業、始まる

*056* 木彫り人形

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困っていても、目線さえも動かせなくなっているアリスは、イーズに助けを求める事さえも出来ない。
イーズは、アリスに核を植え込んでいる為、本当に微量にアリスの今の状況を感じ取った。
『フロラシア』がアリスの真名で、動けなくなっているのだと…。
イーズは、人知れずほくそ笑んだ。
イーズが思っているよりもずっと…自身に有利に物事が動きそうだと確信したのだ。

「フロラシアを…国王陛下のところへ連れて行かないと…。」

女王陛下は、アリスの手を取り、今にも扉から飛び出しそうな勢いだった。

「イーズ、悪いけれど、今日は作法どころでは無くなってしまったの!! フロラシアが…!!」

アンナも女王陛下に付いて、イーズを置き去りにする気配だ。

「アンナ、僕は大丈夫だよ。この部屋で待っているから、構わないよ。でも、そんなに名前を連呼するとアリスを縛り付けてしまうよ?」

イーズは、美しい笑顔で何がどうと言う事無く、アンナにそう告げる。
アンナはハッと息を呑み、力強く頷いて扉を出て行った。
女王陛下とアンナのただならぬ様子に、近衛兵達も道を開け、執務室の宰相も余りの勢いに思わず、女王陛下とアンナを通してしまった。

「国王陛下、人払いを!!」

女王陛下の迫力に、国王陛下はその言葉を受け入れた。

「暫く誰も近付けないでくれ。」
「御意。」

宰相は一礼して、執務室を離れた。

「国王陛下、フロラシアが…見つかったかと!!」

女王陛下は、アリスを国王陛下の前に突き出すと、おいおいと泣きながら伝えた。

「フロラシアが!?」

国王陛下まで、その名前を呼び、その度にアリスの身体は雁字搦めになっていった。
流石にアンナは、先程、イーズに言われた事を気にして名前は呼ばなかったが…。
アリスは、肯定も否定も出来ない程に、身体が動かなかった。
木彫りの人形のようにカッチンカッチンだった。
その様子からしても、アリスがその『フロラシア』とやらな事は間違い無い事は一目瞭然だ。
予期せぬ家族団欒な状態に放り込まれたアリスは、身体も心も途方に暮れていた。
彼女にとっては、未経験だらけのこの状況は、とっても不自由だった。

「まぁ、座りましょう。」

アンナがアリスにそう言うと、真名で縛っているアンナの言葉が指令となり、アリスは軟らかいイスに座る事が出来た。
誰にも聞かれる訳にいかない話だったので、お茶の準備は、王女自らが行った。

「で、本当にこの娘がフロラシアなのか?」

国王陛下はマジマジとアリスを見つめる。
アリスは、固まったまま、黙って見つめられているしかなかった。
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