独裁者サマの攻略法

【06】 混戦

＊043＊ 約束

一條は、相変わらず動じる事も無く通り過ぎようとしている。

「ちょっと…叩くだけ叩いて、何も無い訳?」
「ん? 叩き易そうな場所に頭があったから、教育的指導をしただけだが?」
「そんなにボコボコ叩かれたら、バカになっちゃうよ!!」
「大丈夫だろ? これ以上、お前がバカになるとは思えない。安心しろ!!」

一條の言葉は、叩いた理由にもならないし、バカにならない根拠も不明だ。
悠李は、言い返す気にもなれなかった。
一條も、そのまま少し先に座っている教官達の席へと進んだ。

「私達、そんなにイケて無い顔してた?」
「悠李、イケて無いんじゃ無くて、シケた面だよ。」

森田が冷静に突っ込む。

「まぁ、作ってくれた人に申し訳無いような顔はしていたかもしれんな。」

袴田の言葉に、全員が息を吐いた。

「私、そろそろ行くね。」

悠李は、食器を返却口に返すべく、トレーを持って立ち上がる。

「あぁ～ん、悠李たん、もうちょっと待ってて。一緒に戻ろ♪」
「随分と仲良しになったんだね…僕も混ぜてよ～!!」
「斎ちゃんはダメ、女子だけだもん♪」
「ちぇ～ッ!!」
「だって、斎ちゃんは、女子寮に入れないでしょ?」
「えぇ～ッ、僕だって、途中までは一緒に戻れるよ!!」

悠李は、もう一度、深く息を吐く。

「酒井、一緒に戻りたいなら、もう少し早く食堂に来て。悪いけど、今日は先に戻るね。」
「うぅ～ッ、了解…。」

酒井のションボリした様子に、森田が頭をポンポンと叩き、慰める。
こう見ると、あの二人は意外と人前でスキンシップもしているらしい…思いの外、ビックリだ!!

「悠李ちゃん、今日の夜は、僕と一緒にご飯食べようね♪」

斎藤が戻りしな、悠李に声を掛ける。

「何時も一緒に食べてるじゃん。」

悠李は、笑いながらそう返す。

「約束したからね!!」

斎藤の言葉を背中で聞きながら、ヒラヒラと手を振り、気軽に請け負った。

「やった～ッ、デートだよ!! みんな、邪魔しないでよ!!」

斎藤の浮かれている声が聞こえる。
デートも何も、何時も通り食堂に夕食を食べに来れば、今食べていたように、組長揃い踏みで食べていると思うのだが…。
悠李が思っている状況と斎藤が想い描いている状況には大きな違いがあるようだ。
相変わらず、悠李はそれに気付いていない。

「はいはい。悠李の行動は、斎藤のシミュレーション通りに行かないと思うよ?」

そう言いながら、森田はクスクスと笑っていた。

「悠李たんに置いて行かれた…。」

最後に悠李の耳に届いたのは酒井の残念そうな声だった。