独裁者サマの攻略法

観月 珠莉

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【05】 応戦

*030* 食欲不振

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今までの人生において、性に奔放で、あちらこちらで喰い散らかしている感が否めない悠李だったが、一條と一歩進んだ関係になってからは、身体が熱くなるという事も無く、肉体的には、静かな日々を過ごしている。
但し、心の中は別物で、言いようのない嵐に翻弄され、モンモンとした毎日だった。
何時も、一定の距離を保ちながら接している袴田だが、どうにも、ここ数日の悠李の様子が気になるらしく、珍しく、夕食時に踏み込んで質問してきた。

「花村、最近、少々元気が無いように見えるが、何かあったのか?」

悠李は、珍しい事もあるものだ…と袴田を見上げる。
目で、座るように促すと、悠李の目の前の席に腰掛けた。
今は、まだ、他の組長も食堂に来ていないが、自分の中での上手く感情が纏められていないのに、袴田に話せる訳も無かった。

「ありがと。袴田がそんな事言うなんて珍しいね。」
「いや…ちょっと、気になってな。」
「特にこれと言って、どうという事でも無い。普通だよ、普通。」

悠李の言葉に、袴田は眉を顰める。

「自覚が無いのか?」
「自覚が無いって…。」

どう答えて良いのやら解らず、言葉に詰まる。

「明らかに、ここ数日の花村の食欲は減退している。体調が悪い訳では無いのならば、しっかりと食べるべきだ。」

袴田の言葉は正論だ。
しかし、どうにも天邪鬼な体質の悠李には、素直に甘える事も出来なかった。

「ごめんごめん。ちょっと、今月…重くってさぁ。」
「……?」
「深く聞かないで。女の子の事情ってヤツ!!」

袴田は、暫し考えたのち、見る見るうちに顔を赤く染めた。

「いや…あの…花村。その…悪かった…配慮が、足りなかった……。」

袴田はだんだんと語尾が小さくなっていき、申し訳無さを全開にしている。
最近は少しずつ表情も表れてきた袴田だが、こんなに顕著な様子は皆無と言えるだろう。

「まぁ、なんだ。心配ありがと。今日はもういいや。」

悠李はそう言うと、まだ、殆ど食べていない食事を終わらせ、トレーを返却した。
流石に数日続くと、給仕のおばちゃんにもその残り具合を心配された。
当たり前だ。
何時もは、そこいらの男共と同等かそれ以上に食欲が旺盛な悠李なのだから。
仕方が無いので、袴田に言った理由と同じ内容で乗り切るが、何時も、食事を作り続けてくれているおばちゃんに対する申し訳無さはあるので、残す事に対するお詫びはちゃんと伝えた。
まだ、幸いにも各組長達は食堂に来ていない。
どうにもまだ、人と接する気になれない悠李は、このまま食堂を後にする事にした。
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