独裁者サマの攻略法

【05】 応戦

＊028＊ 思考に落ちる

ムダに豪華なバスルームの床にシャワーの水音がだけが鳴り響く。
悠李は、身体を清めようとバスルームに入ったが、一條の様子を思い出し、そのまま物思いに耽っていた。
一條が何かを隠している事をヒシヒシと感じたから。
一條と悠李の関係は、もう少し、踏み込める関係だと高を括っていた。
他の組長達も悠李ならば聞き出せそうと軽く言っていたが、みんなが知らないところで、ずっと深い関係だから…口には出さないが、大丈夫だと思っていたのだ。
しかし、思いの外、一條のガードは固く、隠れているだろう真相に掠る事さえ出来なかった。
悠李は、斎藤に言われるまで、一條が何故、あの若さで教官をしているのか…考えもしなかった。
そもそも、悠李は、人に対する興味が希薄なのだ。
確かに、この孤島で二年間も外界を絶ちながら訓練が行われるような企業に籍を置くくらいだから、色々と複雑な事情を抱えている者も多いだろう。
もしかしたら、一條もその一人かもしれない…。
自分達は、ここで、その微妙な距離感を保ちながら、それぞれと接してる。
組長達は、他の訓練生達よりも接する機会が多いので、大なり小なり、お互いについて知っている部分も増えてきているが、この孤島では、一人一人が不可侵領域に踏み込まないよう細心の注意を払うのが、暗黙のルールだ。
悠李は、一條から何も教えて貰えないこの状況を受け入れようとするが、なかなか腑に落ちるものでは無い。
今の一條と悠李の関係は、名前の付かないとても曖昧な関係だった。
その事に気付いた時、悠李の胸はギュッと締め付けられた。
もっと近付きたい気持ちと、これ以上踏み込んではいけないと思う強いブレーキ。
複雑に絡まり合う微妙な気持ちに気付いてはいけない…と自分の心に言い聞かせる。
自分の思考に入り込み過ぎた悠李の身体は、冷え切っていたらしく、身体が寒さにブルブルと震える。
昏い思考に飲み込まれないように、頭をブンブンと振って切り替えるべく、頭からシャワーを浴びた。
少しでも前向きに考えられるように…。
もしかしたら、今回、一條から話を聞けなかった事は、素直で直ぐに顔に出てしまう悠李にとっては、みんなと情報をシェア出来ない訳だから、結果的には、一條の秘密を暴露する事も無く、良かったのでは無いだろうか?
今回のミッションの結果を組長達にどのように報告するのか?
笑いながら、組長達に聞き出せなかった事を伝えるのは、嘘を吐く訳では無いのだし、良かった事なのだ…と自分に言い聞かせた。