独裁者サマの攻略法

観月 珠莉

文字の大きさ
上 下
1 / 95
【01】 開戦

*001* 戦いの火蓋

しおりを挟む
そこは、絶海の孤島だった。
リゾート地ですと言われれば、信じてしまいそうな程に美しい海に囲まれたその島だが、岸から直ぐに濃いブルーの海が広がっているという事は、浅瀬が無いという事を意味している。
ここは、公には知られていない、各国の選ばれし人だけが利用出来る民間のボディ・ガード養成所だ。
これから学ぶ全ての情報が、各国の機密情報に準ずる為、何一つ私物を持ち込む事は出来なかった。
勿論、今来ている服も与えられた制服だ。
場所が特定されないように、小型飛行機に乗せられた一行は、明らかに日本では無いだろう島へと降ろされた。

飛行機が着陸した場所は、海の近くだった。
小高い丘の上を見上げると、ちょっとお洒落に見えるホテルのような建物があるが、一行は、まだ、そこが地獄の一丁目である事を知らない。

ハイキング気分で、丘の上の建物に向かってゾロゾロと歩き始めると、目を見張るような美男子が黒塗りのセダンの運転席から顔を出し、予想外の事実を告げる。

「お前らが今年の新入りか。事前情報として、良い事を教えてやろう。養成所まではここから十キロちょっとだ。オリエンテーション前の食事は、午後一時を過ぎると食べられなくなるぞ。」

美男子がニヤリと笑いながらそう告げると、意に介する事も無く窓を閉め、車は過ぎ去って行った。
一行は、自分たちに支給された時計を見て、午後一時まで十五分を切っている事を確認すると、慌てて全力疾走で坂を駆け上がったのだった。

**********

何とか、昼食にありつける時間ギリギリに食堂に辿り着き、各々が席に着く。
目の前の栄養を今、摂取しなければ夜まで持たないという事を何となく全体で感じ、皆、
食べ終わった者から、返却口に食器を返し、全ての食器の返却が終わった時点で、直ぐに先程の美男子が説明を始めた。
『海辺で出会った美男子は、教官だったんだ…。』と悠李ゆうりは、心の中で独り言つ。
思い耽る間も無く、次々と説明が続いた。

「俺の名前は、一條 そう。お前らの研修が修了するまで付き合ってやる。脱落しないようにせいぜい頑張る事だ。担当する組は『花』だ。」
一條の自己紹介の後にも、各組の担当教官が自己紹介をしている。
前で名乗っている教官が五名という事は、組編成も五組なのだろう。
それにしても…組の名前が、『花』・『鳥』・『風』・『月』・『海』って、宝塚じゃないんだから、そんな雅な名前じゃなくっても良いんじゃない? …と思った事は口が裂けても言える雰囲気ではなさそうだ。
悠李は、手元の資料の名前の部分がピンク色なのを見て、何となく自分は『花』組なんだろう…という事を認識した。

基本は一通り学ぶので、最初の組編成は暫定的らしい。
それぞれの組によって専門分野が設定されており、最初に配属された『花』の部隊は、『情報収集』と『お色気』部門の担当らしい…。
宝塚の次は戦隊モノかよ!? …と思ったのも口に出すのは控えた悠李だった
しおりを挟む

処理中です...