独裁者サマの攻略法

観月 珠莉

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【08】 捕獲

*083* 合鍵

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料理の量もこんもりと盛り付けられているが、サービスで、悠李の大好きなイチゴもゴロゴロと添えられている。
訓練生達は、詳しい事情は知らされていないようだが、長時間移動して来た事だけは認識しているらしく、悠李のその食べっぷりを見て、減らない食欲にゲラゲラと笑っていた。
各組長達も遠くで安堵の息を吐いていたが、特に花組の訓練生に囲まれている様子を見て、敢えて近付いてくる事無く、ただ、強く頷いたり、軽く手で合図を送る程度だった。
何時までも終わる気配が見えない悠李の周りを囲む様子を見ても、流石に何時ものようにクールな対応をする事は出来ない。

「一條教官に呼ばれているから…。」

そう言うと、訓練生達も、悠李を引き留める訳にもいかないと感じたらしく、比較的直ぐに解放してくれた。
廊下を見回しながら、職員宿舎へと歩いていると、パスポート無しで国外に出た時には、このまま戻れないかもしれないという恐怖を覚えたが、それでも戻って来る事が出来た事を実感する。

「帰って来たんだなぁ…。」

悠李は、ポツリと呟いた。

長距離移動していたとは言え、途中、寝ていた悠李は、さほど疲れてはいない。
とんでもない状況を創り出したにも拘わらず、一條に操縦させて、自分は寝て帰ってくるだなんて、なんて図太い神経をしているのだろうと笑いが込み上げてくる。
数時間前に感じていた不安な気持ちなど、ケロリと忘れそうになっていた。
考え事をしながら、歩いていたら、無意識にエレベーターに乗り、一條の部屋の前に到着していた。
居ないと解っていながらも、一応、ムダに素敵なベルが鳴り響くインターホンを鳴らした。
確かに、カギは渡されたが、何と無く使う事が躊躇われ、出来れば、一條が戻っていて欲しいと思ったのだ。
残念ながら、何時ものように返事も無ければ、その扉が開く事も無い。
恐らく、今回の件について、教官同士での報告等があるのだろう。

「…お邪魔…しま~…す。」

悠李は、小さな声で呟きながら扉を開けたのだった。
別に、本人から許可を貰っているのだから、悪い事をしている訳でも無いはずなのに、何故か、罪悪感を覚える。
何時もは部屋に電気が点いている為、そのままズカズカと入れば良かったのだが、今日は真っ暗な為、あちらこちらのスイッチをパチパチと点けたり消したりしながら、先へと進んで行く。
何とか、リビングの電気を見つけて点け、何時も通りの部屋を見渡すと、ソファに座りながら一條の戻りを待つ事にした。
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